抄録
済生会病院では新型コロナウイルス感染患者の積極的な診療を行ってきたが、特に入院患者の治療の当たっては死亡退院の防止は極めて重要である。そこで、新型コロナウイルス感染患者の入院治療を行った済生会病院のDPCデータを基に、入院時併存疾患と死亡退院リスクの関連について臨床疫学的分析を行った。
解析対象は、済生会病院に2020年2月以降に入院し、2022年3月末までに退院した入院患者のDPCデータの中で主傷病が新型コロナウイルス感染症(ICD10でU07.1)の患者14,173名である。新型コロナウイルスの主要な流行株によって、入院時期が2020年2月から2021年7月までを「デルタ株以前」、2021年8月から12月までを「デルタ株流行期」、2022年1月から3月までを「オミクロン株流行期」と3分類して分析した。ロジスティック回帰分析で、流行期に加えて、性、年齢(14歳以下、15~64歳、65~74歳、75歳以上)が死亡退院リスクとの関連を示したため、入院時併存疾患と死亡退院リスクとの関連の分析に際してロジスティック回帰分析で調整することとした。
死亡退院と有意な関連が認められたのは、肺性心疾患及び肺循環疾患(オッズ比7.54)、心弁膜障害(オッズ比3.08)、慢性腎臓病(オッズ比3.22)、肝疾患(オッズ比2.08)であった。さらに、これらの因子と流行期との交互作用を分析したところ、慢性腎臓病のみが流行期によってリスクが異なり、デルタ株以前ではオッズ比6.00(95%信頼区間: 3.81-9.43)、デルタ株流行期ではオッズ比1.79(95%信頼区間: 0.51-6.24)、オミクロン株流行期ではオッズ比1.51(95%信頼区間: 0.79-2.89)で、死亡退院に対するオッズ比はデルタ株以前に高かったことが明らかとなった。また、慢性腎臓病をステージ1~3とステージ4~5に分類して解析したところ、ステージ1~3ではオッズ比1.42(95%信頼区間: 0.55-3.66)、ステージ4~5ではオッズ比4.70(95%信頼区間: 3.03-7.28)でステージ4~5でのみ有意な関連を示した。
今回の分析は、2022年3月末までに退院した新型コロナ入院患者を対象としたが、その後、大きな新型コロナ感染の流行が起きており、今後、データをさらに追加した分析が必要であるが、済生会病院における今後の診療の一助となることを願って、今回の報告をまとめた。