抄録
本論文では,クライエントの夢がどのような可能性を示しており,夢の展開がどのように現実の動きとつながっていたかを考察した。本論文のクライエントは不安定な母親との関係をなんとか維持するために,強迫や過食を続け,引きこもっていたと思われた。しかし,クライエントは夢の中で異界に入る。そこでイニシエーションを行い,死と再生を体験し,象徴的な母殺しを行うことを通して,母親との分離を達成し,現実の自立の動きにつながった。また,このような夢での体験は,すでに初期の夢にも表れており,夢はそのテーマを展開する形で体験を深めていった。そして心理療法の終わりには,異界から現実に戻っていくことも夢の中で体験された。