日本薬理学雑誌
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ミニ総説「新しい薬理学的標的としてのレニン・アンジオテンシン系」
アンジオテンシンIIシグナルにおけるHB-EGFプロセシング
高島 成二
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2004 年 124 巻 2 号 p. 69-75

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抄録
循環器領域においてアンジオテンシンIIは重要な役割を担うことが知られている.特に強い生理作用とあわせてシグナル阻害薬が高血圧や心不全の治療に使用されていることからその作用メカニズムを知ることは循環器疾患を考える上で重要である.心筋細胞におけるアンジオテンシンIIの役割はそのGタンパク共役型受容体を介すると考えられており,その結果として心筋細胞の肥大をきたす.しかし,タンパク合成を必要とする肥大反応にG共役型受容体を介する比較的一時的で敏速な細胞シグナルが関与することは特異的なシグナル経路の存在を示唆する.私はアンジオテンシンIIによる心筋肥大シグナルにEGFファミリーに属するHB-EGFという増殖因子が関与することを明らかにした.HB-EGF(heparine binding EGF-like Growth Factor)はG共役型受容体の刺激により細胞膜からメタロプロテアーゼにより分解して遊離され,心筋細胞の肥大を引き起こすことが明らかになった.さらにこのHB-EGFの細胞膜からの遊離が起こらない遺伝子改変マウスを作成すると,このマウスは生後4週ぐらいから徐々に心筋細胞の変性·脱落をきたし,心不全により早期に死亡した.これらの事実はHB-EGFが心筋細胞の肥大をきたすのみならず心筋細胞の代謝·維持に重要な働きを担うことを示唆する.AngiotensinIIなどの刺激によるシグナルはHB-EGFを介していかなる心筋細胞代謝を司るかを概説し,新しい心不全治療の可能性を検討する.
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© 2004 公益社団法人 日本薬理学会
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