2024年4月から本格的運用を開始した自律的化学物質管理への移行に伴い,個別規制の強い特別規則対象化学物質以外では,措置について自律的判断を重んじる制度転換がなされた.このように化学物質管理をとりまく制度は大きく変化しつつあるが,化学物質による労働災害を効果的に予防するためには,化学物質がもつ危険性・有害性を把握することが重要である.しかしながら,法規制がある化学物質が原因となった労働災害も依然として発生していることから,これまで法規制が行われてきた化学物質ですら,現状では作業者が危険性や有害性を充分に理解できているとは言い難い.そこで本研究では,化学物質の取り扱い企業に勤務する従業員を対象に,法規制による化学物質の危険性・有害性の認識へ影響する要因の特定を目的とした.日本国内の製造業かつ化学物質を取り扱っている企業に勤務する従業員の約2,000名を対象に,Web上での選択式質問紙調査を行った.質問項目は,先行研究を踏まえ,基本属性,経験,職場教育・訓練,知識,化学物質に対する態度,職場経験雇用形態,および認識とした.解析方法は,フィッシャーの正確確率検定およびロジスティック回帰分析を用いた.化学物質を取り扱っている企業に勤務する従業員では,化学物質を取り扱っていない者を含め,法規制のない化学物質より法規制のある化学物質の方を危険または有害であると認識している者の割合が多かった.法規制による化学物質に対する危険性・有害性の認識に影響する要因は,性別,法令で規制されている化学物質の存在の知識,化学物質を規定する特別規則の知識であることが示唆された.化学物質の取り扱い企業に勤務する従業員を対象としたweb質問紙調査により,法規制による化学物質の危険性・有害性の認識へ及ぼす着目すべき要因として,化学物質関連法令の知識が認められ,法令情報の共有の重要性が再確認された.