本研究では,男性の更年期障害(以下,男性更年期障害)に関するわが国の診療実態を明らかにすることを目的とした.具体的には,健康保険組合の診療報酬明細書(以下,レセプト)データを用い,男性更年期障害の受診者数,治療者数,治療内容,併存疾患,受診者割合・治療割合・新規受診率を推計した.14の健康保険組合から,被保険者台帳および2010年度から2021年度までの最長12年間のレセプトデータ(2020年度在籍者数595,796名,のべ観察人年4,416,194人年)を得た.病名および診療行為等によって定義された男性更年期障害患者を抽出し,その病名・治療内容・併存疾患を集計した.被保険者台帳をもとに,各年度の在籍者数を求め,20歳台から70歳台の男性更年期障害の受診者割合・治療割合・新規受診率を求めた.2020年度の男性更年期障害の受診者の総数は747名(0.13%)であった.受診者割合・新規受診率ともにもっとも高いのは55–59歳で,2020年度に133名(0.19%)が受診しており,474,500人年の観察人年のうち新規に受診した者は320名(0.07%)であった.受診者に処方された治療薬のうち頻度が高いものは,睡眠薬・抗不安剤等(27%),抗うつ剤等(23%),テストステロンエナント酸エステル注射剤 (14%),補中益気湯(12%)であった.受診者の併存疾患のうち頻度が高いものは,睡眠障害(29%),神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害(24%)ならびに気分障害(23%)であった.既存の調査から想定される男性更年期障害の有訴率と比較して,受診者割合,新規受診率が低いことが示され,男性更年期障害の受診・治療に関する啓発が必要と考えられた.また,これまでの調査と同様に,男性更年期障害を主訴とする患者には,精神科領域の疾患が混在している可能性が示され,診断・治療方針の決定に注意を要すると考えられた.