産業衛生学雑誌
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健康診断結果に基づく冠動脈疾患一次予防戦略
倉田 千弘
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2000 年 42 巻 3 号 p. 81-87

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抄録

企業での健康診断結果から今後の冠動脈疾患発症数を推定し, その発症数を冠危険因子対策によりどれだけ減らせるかシミュレーションを行い, 効率的な冠動脈疾患一次予防戦略を検討した.Framingham Studyに基づく方法を用い, 1998年度健康診断データのうち年齢・総コレステロール値(TC)・HDL-コレステロール値(HDL-C)・血圧・糖尿病の有無・喫煙習慣の有無から男性社員6,444人における今後10年間の冠動脈疾患発症数を推定した.次に, TC減少, HDL-C上昇, 血圧低下, 糖尿病正常化, または禁煙達成によって得られる発症数減少をシミュレーションにより推定した.予測に用いた項目の平均値±標準偏差は, 年齢45±11歳, 収縮期血圧121±16mmHg, 拡張期血圧79±10mmHg, TC193±34mg/dl, HDL-C53±13mg/dl, 空腹時血糖98±18mg/dl, HbAlc4.80±0.58%で, 喫煙率は44%であり, シミュレーションより得られた今後10年間の冠動脈疾患発症数は455人(7.1%)であった.もしTC≧200の2,614人(N)全員を200未満に下げると発症数が64人(D)減少すると見込まれ, TC≧200の41人(N/D)で200未満を達成し初めて発症数が1人減少すると推定された.同様に, 血圧140/90未満, 糖尿病ゼロ, 喫煙者ゼロによるDとN/Dは各々38と35, 20と17, 90と32と予測された.N/Dの面で最も効率的な糖尿病対策はD=20と全体での効果は小さい.他方, 禁煙の効果はD=90と大きく, かつN/D=32と比較的効率も良い.TC≧200, HDL-C<45, 血圧130/85以上, 糖尿病, または喫煙習慣のうち少なくとも一つを有する5,386人を全て改善すればD=230(N/D=23)と推定された.以上の結果より, 企業における冠動脈疾患予防の戦略には、施設内の完全禁煙を柱とした喫煙対策から始め, 高脂血症・高血圧症・糖尿病対策を加えていくアプローチが最も効率的であると推定される.

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© 2000 公益社団法人 日本産業衛生学会
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