産業衛生学雑誌
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健診有所見学率上昇に及ぼす間接的要因の影響 : 企業外労働衛生機関における有所見判定方法の実態調査結果より
寶珠山 務高橋 謙藤代 一也内田 和彦大久保 利晃
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2000 年 42 巻 3 号 p. 88-96

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抄録

わが国の労働者の健診有所見率は, 近年上昇の一途にあり, 1998年には41.2%に達した.われわれは, 有所見率上昇の間接的要因を探る目的から, 136企業外労働衛生機関を対象に, 定期一般健診結果報告書の記載内容についての質問紙調査を行った.調査項目には, 有所見者の定義と判定方法, それらの使用開始時期, 総コレステロール値の現行の基準範囲とその直前に使用されていたものなどを含めた.有効回答数107(有効回答率82.3%)のうち, 結果報告書の作成サービスを行っていた85機関を解析対象とした.調査の結果, 標準化された健診有所見者の定義は使用されていないことがわかった.各健診項目の基準値の設定と, 健診有所見者の判定方法のいずれも, 機関間で統一されておらず, かなりのばらつきが見られた.健診有所見者を同定する際, 13機関(15.3%)では, 単純にその該当者を計数するだけではなく, 過去のデータや現在の治療の有無なども併せて考慮していた.1980年代後半から1990年代前半にかけて, 多くの機関で, 健診有所見者の同定方法が変更されており, 特に, 総コレステロールの基準値は引き下げられている傾向があった.これらは, 主に労働安全衛生法の改正や関連学会の基準値勧告の影響を受けているものと思われた.近年の健診有所見率が上昇しているにもかかわらず, 有所見者の定義が変更された可能性が高いために, 経年的な比較を行うことは, 必ずしも妥当ではない.わが国の産業保健の実状を示す極めて重要な統計指標の一つである健診有所見率が, 将来の職域健診システムと整合性を保ち, また, 客観的な定義のもとで有効活用されるべきである.

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© 2000 公益社団法人 日本産業衛生学会
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