産業衛生学雑誌
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調査報告
小規模事業場におけるストレスチェック制度への取り組み状況と課題
斉藤 政彦 中元 健吾和田 晴美西谷 直子山本 楯
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2019 年 61 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

目的:平成27年12月に施行された改正労働安全衛生法によって,従業員数50人以上の事業場に労働者に対するストレスチェックの実施が義務化された.それ未満の事業場では努力義務に留まっている.労働者の半数以上が50人未満の小規模事業場で働いている本邦の現状から,この制度が有効に機能するためには,小規模事業場への普及が課題である.小規模事業場におけるメンタルヘルス対策,およびストレスチェックへの取り組み状況と関連要因を明らかにし,今後の推進に向けた示唆を得ることを目的に,アンケート調査を行った.方法:愛知県内の30人以上50人未満の事業場に対して,ストレスチェックへの取り組み状況と実施上の問題点に関してアンケート調査を行った.結果を,単独の企業(単独群)と,より大きな企業の支社・支店・営業所(支所群)に分けて比較した.さらに,メンタルヘルス推進担当者(担当者)の有無別で比較検討を行った.結果:単独群は290事業場で,支所群は331事業場であった.単独群で,担当者有りは55事業場,無しは235事業場で,支所群では,担当者有りが102事業場,無しが229事業場であった.支所群では,単独群に比較して,担当者のいる割合が高く,メンタルヘルスに対する取り組みが前向きで,特にストレスチェックに関しては,半数近い事業場で既に実施されていた.また,単独群,支所群ともに,担当者のいる事業場で,より積極的にメンタルヘルス対策に取り組まれており,ストレスチェックへの姿勢も前向きであった.50人未満の事業場にも実施が義務となった場合に必要なものは,という問いに対して,いずれも人材がトップで,単独群では続いて予算だったが,支所群では専門家が続いた.結論:小規模事業場では,支所群に比較して単独群で,メンタルヘルス対策およびストレスチェックへの取り組みが遅れていた.ただし,担当者のいる事業場では,いない事業場より,進んでいた.よって,小規模事業場においては,メンタルヘルス推進担当者の選任を促すことが,職場におけるメンタルヘルス対策を促進し,ストレスチェックに対する前向きな取り組みにつながると,期待された.

はじめに

メンタルヘルス不調は,職場の抱える最も大きな健康問題の一つで,その対策は企業にとって大きなテーマである.厚生労働省も対策の必要性を強く認識して,平成12年に「事業場における労働者のこころの健康づくりのための指針」を1,さらに平成18年に「労働者のこころの健康の保持増進のための指針」を2出して,職場での取り組みを促してきた.そして,平成26年6月の労働安全衛生法の改正によって,従業員数50人以上の事業場には労働者に対するストレスチェックの実施を義務付けた.制度が上手く機能して,メンタルヘルス不調者の発生が予防され,より健康で働き易い職場となることが期待される.

従業員のメンタルヘルスの良悪は,業務パフォーマンスに直結し,経営への影響も大きく,企業はその対策の必要性から,規模の大きな企業では率先して取り組まれている.その一方で,規模の小さな事業場では,資金的・人材的な余裕の無さから,取り組みたくても取り組めないのが実情で,各種調査から,規模の小さい事業場ほど,メンタルヘルス対策への取り組みが遅れているという結果が示されている3

ストレスチェックの実施が法律として義務付けられた背景は,あまねく大多数の労働者に対してメンタルヘルス対策が行き届くようにすることにある.しかし,総務省統計局のデータ(2008年)によれば,日本における労働者の半数以上が50人未満の事業場で働いている.よって,努力義務となっている小規模事業場へストレスチェックをいかに普及させるかが,制度の成否のカギを握るといってよい.厚生労働省から発表された2035年を見据えた取り組み『保健医療2035』の中にも,ストレスチェックに関する長期的な対応として「労働者数50人未満の事業場へのストレスチェック制度の義務化について検討を行う」としている4.ただし,産業医の選任義務を初め,小規模事業場では体制が脆弱で,それがストレスチェックの導入に当たり,努力義務に留められた理由でもあるし,ストレスチェックの実施においても,予算や人材の確保などの点において困難が予想される.

我が国における労働安全衛生法令は,事業場単位で規程されており,その事業場に常時勤務する従業員数による規模別に区分され,事業場規模の大きいところには,より充実した体制の整備を求めている.しかし,近年産業構造が第三次産業へと大きくシフトし,サービス業を中心に,小規模事業場が広い地域に分散して存在する企業形態が増えている.一口に従業員数50人未満の事業場といっても,単独の企業と,大企業の支社,支店,営業所などとでは,予算的,あるいは人材的条件が,大きく異なっていると考えられる.また,メンタルヘルス推進担当者は「労働者のこころの健康の保持増進のための指針」2の中で,企業規模に関係なく選任することを努力義務としている.その人が中心となって活動することで,職場のメンタルヘルス対策の前進が期待される.

今回,愛知県内の従業員数30人~49人の小規模事業場を対象に,ストレスチェックへの取り組み状況と関連要因を明らかにし,今後の推進に向けた示唆を得ることを目的に,アンケート調査を行ったので,ここに報告する.

対象と方法

従業員数が30人~49人とされる愛知県内の6,003事業場(※労働基準法別表第1に掲げる事業のいずれにも該当しない事業場の一部を除く)へ,ストレスチェックへの取り組み状況と実施上の問題点をアンケート調査した.平成29年8月中旬に一斉に郵送した.ただし,直後に,583通が宛先不明で返送された(有効送付数5,420).

調査内容としては,属性として,会社全体の従業員数,業種,事業場の従業員数,企業形態(単独の企業か,50人以上の企業の支社,支店,または営業所か)を質問した.

アンケート項目は,A:メンタルヘルス不調者の有無,B:メンタルヘルス推進担当者の有無,C:メンタルヘルス対策への取り組み状況,D:四つのケアの実施状況,E:ストレスチェックへの取り組み状況,F:将来50人未満の事業場で義務化された場合,何が必要か,G:50人未満の事業場に対するストレスチェック実施における公的支援制度の知名度,活用度,H:ストレスチェックをより良い制度とするために何が必要か(自由記載),である.

回答は,同封した返信用封筒を使用しての郵送,またはファクスによる返信とした.分析対象を本来の調査対象である従業員数30人~49人の事業場に絞った上で,単独企業(以下,単独群)と,より大きな企業の支社・支店・営業所(以下,支所群)に分けて比較検討を行った.また,メンタルヘルス推進担当者(以下,担当者)のいる群と,いない群に分けて比較検討した.さらに,単独群の中で担当者がいるかいないか,支所群の中で担当者がいるかいないかで,四つのグループに分けて検討を行った.

統計解析は,支所群と単独群,担当者のいる群といない群の間における比較では,未記入を除いた比率を,χ二乗検定を用いて行った(エクセル統計Statcel).複数回答項目,すなわち,四つのケアへの取り組み状況,および,将来50人未満の事業場で義務化された場合に何が必要か,という問う設問に対する回答に関しては,複数回答をした事業場は,それぞれの回答へ数として加えた.

また,単独群・支所群別で担当者のいるいないによって分類した四つのグループ間で,メンタルヘルス対策への取り組み状況,四つのケアへの取り組み状況,さらにストレスチェックへの取り組む状況における回答事業場数を比較した.なお,回答事業場数が限られるために,メンタルヘルス対策への取り組み状況は,十分に取り組めているかそうでないか,四つのケアへの取り組みは,いずれかの取り組みがなされているか,まったく取り組まれていないか,の二つのグループに分けて検討した.この場合,四つのケアへの取り組み状況は,複数の取り組みをしている事業場は,一つとして数に上げた.同様に,ストレスチェックへの取り組み状況は,「知らない」「聞いたことがある」「予定なし」,と「実施予定がある」「実施済み」の二つのグループに分けて,χ二乗検定を行った.さらに,セルフケアのみか,それ以外のケアまで取り組んでいるかを,それぞれの群,および各グループに分けて比較した.なお,自由記載された内容に関しては,目的に沿った内容のみを抽出し,類型に分けて集計した.同じ事業場から複数寄せられた意見は,それぞれ数に加えた.

結果

1,160事業場より回答があった(回答率:21.4%).属性を表1に示す.会社全体の従業員数では,約半数の588事業場が50人未満で,50人以上が593であった.業種では,製造業が365と最も多く,商業(214)がそれに続いた.事業場の実際の従業員数は,1~29人が219,30~49人が655,50人以上が269であった.さらに企業形態としては,単独の企業が501,企業の支社・支店・営業所などが609であった.

表1. アンケート調査回答事業場の属性
項目区分事業場数
会社全体の従業員数49人以下588
50~99人173
100~299人153
300~999人116
1000人以上151
未回答7
全回答事業場単独群支所群
業種製造業36512992
鉱業000
建設業912723
運輸・交通業891430
貨物取扱業41711
農林業512
畜産・水産業410
商業2144854
金融・広告業37315
映画・演劇業000
通信業24410
教育・研究業461014
保健衛生業671114
接客娯楽業831336
清掃・と畜業2785
官公署1503
事業場の従業員数1~29人219
30~49人655
50人以上269
企業形態単独企業501
支社・支店・営業所609
その他58
未回答20

従業員数30人~49人の事業場655のうち,企業形態の不明な34事業場を除いた621事業場を分析対象とした.そのうち単独群は290,支所群は331であった.単独群では,業種は製造業が最も多く(129事業場),次いで商業(48),建設業(27)の順であった.一方の支所群では,同じく製造業が最も多く(92),商業(54),接客・娯楽業(36)の順であった.

単独群と支所群との比較結果を表2に示した.メンタルヘルス不調者の有無では,両群とも,「いない」が最も多く,「いるが,問題なし」,「いる,苦慮している」の順であった.メンタルヘルス推進担当者がいるかいないかでは,単独群では,支所群に比較して有意に,いると回答した事業場の割合が低かった.職場のメンタルヘルス対策への取り組み状況では,有意差を認め,単独群では,「十分」と答えた事業場が少なかった.四つのケアに対する取り組み状況では,単独群と支所群との間に有意差を認め,単独群では,「取り組み無し」の事業場の割合が多かった.

表2. 単独群と支所群におけるアンケート調査結果の比較
項 目回 答単独群支所群有意差
回答数(%)回答数(%)
A メンタルヘルス不調者の有無(単数回答)p<.05
いない221(76.2)227(68.6)
いるが,問題なし49(16.9)86(26.0)
いる,苦慮している19(6.6)15(4.5)
未記入1(0.3)3(0.9)
B メンタルヘルス推進担当者の有無(単数回答)p<.001
いる55(19.0)102(30.8)
いない235(81.0)229(69.2)
C メンタルヘルス対策への取り組み状況p<.001
十分取り組めている15(5.2)92(27.8)
不十分だが問題ない164(56.6)158(47.7)
人材がいない29(10.0)29(8.8)
余裕がない51(17.6)30(9.1)
取り組む必要が無い28(9.7)19(5.7)
未記入3(1.0)3(0.9)
D 四つのケアへの取り組み状況(複数回答)p<.001
セルフケア141(48.6)197(59.5)
ラインケア33(11.4)95(28.7)
産業保健スタッフによるケア19(6.6)118(35.6)
事業場外資源によるケア27(9.3)72(21.8)
取り組みなし123(42.4)62(18.7)
E ストレスチェックへの取り組み状況(単数回答)p<.001
知らない37(12.8)12(3.6)
聞いたことがある95(32.8)62(18.7)
実施予定なし103(35.5)64(19.3)
実施予定あり17(5.9)23(6.9)
既に実施26(9.0)161(48.6)
未記入12(4.1)9(2.7)
F 義務となった場合何が必要か(複数回答)p<.001
予算145(50.0)92(27.8)
人材195(67.2)122(36.9)
専門家123(42.4)101(30.5)
その他18(6.2)7(2.1)
既に実施17(5.9)151(45.6)
未記入3(1.0)5(1.5)
G 公的支援制度について(単数回答)p<.01
知らない230(79.3)223(67.4)
知っている51(17.6)86(26.0)
活用した2(0.7)9(2.7)
未記入3(1.0)13(3.9)

統計的有意差検定は,未記入を除いた比率を,χ二乗検定を用いて行った.「D四つのケアへの取り組み」と「F義務となった場合何が必要か」は複数回答で,それぞれの回答にチェックを入れた事業場数を表している.その数値を元に検定を行った.「G公的支援制度について」は活用した事業場数が限られるため,「知らない」事業場と,「知っている」または「活用した」事業場の間で検討した.

ストレスチェックの実施についても統計学的有意差を認め,単独群では「知らない」あるいは「聞いたことはあるが,詳しくは知らない」が,支所群に比較して多く,実施したところは少なかった.一方で,支所群では既に実施したところが半数近くあった.50人未満の事業場にも実施が義務となった場合に必要なものは,という問いに対して,いずれも「人材」がトップで,単独群では続いて「予算」だったが,支所群では「専門家」が続いた.公的支援制度については,いずれも知っている割合は低かったが,特に単独群では低く,活用したのは2事業場のみだった.なお,人材とは,職場内でメンタルヘルス対策あるいはストレスチェックの実務を担当する従業員のことを意味し,専門家は,事業場内外で医療的知識をもってアドバイス等を行う人を意味している.

次に,担当者のいるかいないかによる結果を示す.単独群で担当者のいるグループは55事業場,いないグループは235事業場,支所群で担当者がいる事業場は102,いない事業場が229であった.表3に比較結果を示す.メンタルヘルス対策への取り組み状況では,単独群,支所群ともに担当者のいる事業場の方が有意に,十分に取り組めていると回答した事業場が多かった.四つのケアへの取り組みも,担当者のいる事業場で,いずれかの取り組みが行われている事業場の割合が有意に高かった.ストレスチェックへの取り組みは,担当者のいる事業場でより前向きで,特に単独群では,「予定している」「既に実施した」という回答が,有意に担当者のいない事業場に比較して多かった.

表3. 単独群,支所群,それぞれの群における,メンタルヘルス担当者の有無別での取り組み状況の比較

単独群,支所群と分け,メンタルヘルスの取り組み状況,四つのケアへの取り組み状況,さらにストレスチェックへの取り組む状況を比較した.回答事業場数が限られるために,メンタルヘルスへの取り組み状況は,十分に取り組めているかそうでないか,四つのケアへの取り組みは,いずれかの取り組みがなされているか,まったく取り組まれていないか,ストレスチェックへの取り組み状況は,知らない聞いたことがある予定なし,と実施予定がある実施済み,の二つのグループに分けて(内数),統計処理を行った.

セルフケアのみ取り組んでいる事業場とそれ以外の取り組みも行っている事業場の比較を表4に示す.単独群に比較して支所群でセルフケア以外の取り組みを行っている事業場が有意に多かった.また,担当者の有無別での比較では,担当者のいる事業場で,セルフケア以外も取り組んでいる事業場の割合が高かった.さらに,単独群と支所群に分けて,担当者有無別での比較を行うと,単独群では担当者有りの事業場では担当者無しより,セルフケア以外の取り組みが多く行われていた.一方で,支所群では,有意差を認めなかった.

表4. 四つのケアへの取り組み状況,セルフケアのみか,それ以外のケアにも取り組んでいるかの比較.事業場数(%).
回 答単独群支所群有意差
セルフケアのみ109(64.9)88(32.7)p<.001
それ以外のケアも取り組んでいる59(35.1)181(67.3)
担当者有担当者無有意差
セルフケアのみ47(32.6)151(51.5)p<.001
それ以外のケアも取り組んでいる97(67.4)142(48.5)
単独群担当者有単独群担当者無有意差
セルフケアのみ23(46.9)87(73.1)p<.001
それ以外のケアも取り組んでいる26(53.1)32(26.9)
支所群担当者有支所群当者無有意差
セルフケアのみ24(25.3)64(36.8)p<.001
それ以外のケアも取り組んでいる71(74.7)110(63.2)

セルフケアのみと,それ以外のケアにも取り組んでいる事業所数の比較を,χ二乗検定した.

ストレスチェック制度をより良いものにするには,という質問(自由記載)に対する回答を表5に示す.負担軽減と制度変更を求める意見が多かったが,単独群では負担軽減を挙げるところが最も多く,一方で支所群では,制度変更を求める意見が最も多かった.

表5. ストレスチェック制度をよりよくするために必要なこと.括弧内は対象事業場数に対する%
意 見全体単独群支所群
金銭的・労力的な負担軽減や,公的サポートの充実31(5.0)21(7.2)10(3.0)
健診の一つにする,医療保険で取り扱い個人対応とするなど,制度変更31(5.0)14(4.8)17(5.1)
会社(事業者)のストレスチェック制度に関する理解18(2.9)6(2.1)12(3.6)
専門家や専門機関のサポート14(2.3)5(1.7)9(2.7)
一般社会への周知や情報提供13(2.1)5(1.7)8(2.4)
社内の人材育成11(1.8)6(2.1)5(1.5)
従業員への周知11(1.8)5(1.7)6(1.8)
精神疾患やストレスへの理解5(0.8)4(1.4)1(0.3)
産業医(制度)の拡充4(0.6)04(1.2)
職場環境改善など結果の有効活用4(0.6)04(1.2)
その他6(1.0)4(1.4)2(0.6)

目的に沿った内容のみを抽出し,類型に分けて集計した.同じ事業場から複数寄せられた意見は,それぞれ数に加えた.

考察

今回の調査から,同じ小規模事業場でも,単独の企業(単独群)と,より大きな規模の企業の支社・支店・営業所(支所群)では,メンタルヘルス対策への取り組み,ストレスチェックへの取り組み状況に大きな差が認められ,いずれも,単独群に比較して,支所群においてより積極的に取り組まれていた.特にストレスチェックへの取り組み状況に関しては,後者では半数近くが既に実施されていた.この結果は,事業場単位での区分けのみではなく,企業規模を加味して取り扱うことの合理性を示していると考えられた.大規模な企業の支店や支社,営業所では,本社(本店)主導でメンタルヘルス対策が進められ,必要な支援を支社,支店,営業所へ行うことが可能と考えられる.よって,小規模事業場へストレスチェックを普及させる方法として,企業単位での取り組みをより強く促すことが即効的と考えられた.

一方で単独の小規模企業においては,ストレスチェックへの関心が低く,ほとんど取り組まれていない実態が判明した.これは,資金的あるいは人材的に余裕の無いことが原因と考えられ,自由記載で義務化された時に必要なことへの回答でも,負担軽減や支援の希望が多く挙げられた.よって,将来的に50人未満の事業場へ実施義務を課した場合,公的支援体制の拡充を含めて,企業負担の軽減策が必要不可欠と考えられた.その一方で,今回の調査から,公的支援制度があるにもかかわらず,実際には活用されていない現状も判明した.公的支援制度は小規模事業場に対してストレスチェックの実施を促進するために,実施した場合とそれに伴う産業医の業務増への補助が行われるというものであったが,当初は単独企業で50人未満を対象として行われたが,応募が少なかったため,途中から,より大きな規模の企業の支社等でも申請可能と制度が変更になった5.真の意味で援助を必要としている単独企業が活用できるように,その周知方法や支援の仕方については工夫が必要と考えられた.

ストレスチェック制度への関心や取り組みは,事業場のメンタルヘルス対策への取り組み姿勢に関連すると考えられる.平成12年8月に当時の労働省から出された「事業場における労働者のこころの健康づくりのための指針」1では,四つのケア,すなわち,セルフケア,ラインケア,産業保健スタッフ等によるケア,事業場外資源によるケア,が述べられ,各事業場の実情を整理した上で,取り組むことを推奨している.職場におけるメンタルヘルス対策はそのトップを中心に,組織的に取り組むことが重要で,その点,ラインケアを最も優先して取り組むべきと考えられる.しかし,今回の調査で,小規模事業場では,セルフケア主体に取り組まれていた.これは対策が,労働者個人任せになっていて,組織的に取り組めていない実情を表していると考えられた.さらに,単独群では支所群に比較してよりセルフケア以外の取り組みが少なかった.これは単独群でメンタルヘルス対策に取り組むことの困難な実情を表していると考えられた.一方で,メンタルヘルス推進担当者のいる事業場では,いない事業場に比較して,よりセルフケア以外の取り組みがなされているという結果であった.特に単独企業でより顕著で,他からの支援が得られない単独企業においては担当者の存在が大きいと考えられた.よって,メンタルヘルス推進担当者の選任を促すことが,小規模事業場,特にもっとも対策が遅れ気味な単独企業におけるメンタルヘルス対策への取り組みの推進,およびストレスチェック制度の普及・浸透に大きく寄与することが期待された.ただし,選任しただけで,担当者が機能するとは考え難く,企業内で十分に活動できる環境を整える必要がある.また担当者が適切に対処できるように,公的機関によるセミナーの開催などによって,有用な情報を提供し,職場で問題が発生した際にはサポートする,といった公的支援体制の充実も必要と考えられた.

追記

本研究は,独立行政法人労働者健康安全機構の平成29年度産業保健調査研究による.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
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