産業衛生学雑誌
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原著
医療機関における産業保健活動の事例分析
佐野 友美 吉川 徹中嶋 義文木戸 道子小川 真規槇本 宏子松本 吉郎相澤 好治
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2020 年 62 巻 3 号 p. 115-126

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抄録

目的:医療機関における産業保健活動について,現場での事例をもとに産業保健活動の傾向や実施主体別の分類を試み,現場レベルでの今後の産業保健活動を進めていくための方向性について検討した.対象と方法:日本医師会産業保健委員会が各医療機関を対象に実施した「医療機関における産業保健活動に関するアンケート調査」調査結果を活用した.自由記載欄に記載された現在取り組んでいる産業保健活動の記述内容を対象とし,複数名の専門家により各施設の産業保健活動の分類を試みた.特に,1.個別対策事例(具体的な取り組み事例・産業保健活動の主体)2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類の2点に基づき分類を行い,各特徴について検討した.結果:有効回答数1,920件のうち,581件の自由記載があり,1,044件の個別の産業保健活動が整理された.1.個別対策事例のうち,具体的な取り組み事例については,個別対策毎の分類では「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(35.7%)」,「Cメンタルヘルス対策関連(21.0%)」,「A労働安全衛生管理体制強化・見直し(19.3%)」等が上位となった.また,施設毎に実施した取り組みに着目した場合,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革関連」と「Cメンタルヘルス対策関連等」を併せて実施している施設が施設全体の13.2%に認められた.産業保健活動の主体による分類では,「a:産業保健専門職・安全衛生管理担当者(71.7%)」が最も多く,「b:現場全体(18.4%)」,「c:外部委託(2.4%)の順となった.2.産業保健活動の取り組み方を反映した分類では①包括的管理(42.0%)が最も多く,②問題別管理(23.8%),③事例管理(16.5%)の順となった.考察と結論:医療機関における産業保健活動として,過重労働対策を含む労務管理・働き方改革,メンタルヘルス対策への取り組みが多く実践されていた.特に,メンタルヘルスにおける一次予防対策と過重労働における一次予防対策を併せて実施している点,外部の産業保健機関,院内の各種委員会,産業保健専門職とが連携し産業保健活動が進められている点が認められた.厳しい労働環境にある医療機関においても,当面の課題に対処しつつ,医療従事者の健康と安全に関する課題を包括的に解決できる具体的な実践が進められつつある.また,各院内委員会や外部専門家との連携によりチームとして行う産業保健活動の進展が,益々期待される.

I. はじめに

近年,わが国では医療機関での働き方・職場環境の改善に注目が集まり,労働時間を含め職場環境の見直しや新たな取り組みが行われている1,2.医療機関で働く医療従事者は,診療等で取り扱う有害要因への接触,患者の移送や長時間の立位の保持,医療安全の確保,患者や家族との適切なコミュニケーション等で物理化学的にも心理社会的にも大きな負担がある3,4.また,多職種との協同,医療系スタッフ・学生への教育,高度な専門知識の継続的な習得等,医療現場を取り巻く環境は特殊で多様であり3,4,そこで働く医療従事者の働き方についても,一律の就業規則や管理システムで統制することが困難である5.一定のルールの下で多種多様な働き方を医療機関自身が主体的に決めることができるシステムと,それを支える産業保健活動の包括的な支援が求められている5

例えば医師を例に挙げると,過酷な労働条件と同様に,身体的・精神的な健康が,医療安全や患者へのケアの質に関わることが報告されている6,7,8.これまでの研究から,医師の身体的・精神的健康は,針刺し事故や処置ミス等の医療事故・医師の交通外傷・バーンアウト等と関わりがあり6,7,8,医療の質や,患者や他スタッフにおける信頼関係の構築にも大きく影響を及ぼすことが明らかにされている6,8,9.また,医師の健康確保に対する職場の支援に関しては,医師の仕事の満足度に影響しうる職場の多様な要素が明らかにされてきている9,10,11.具体的には,仕事の要求・負担度,業務効率,仕事の意味,ワーク・エンゲイジメント,職場文化,医師への社会的支援や労働生活支援等が精神的な満足度に影響しうる要素として挙げられており,幅広い視点から,個人に対して・職場全体に対して現場の支援が求められている8,12

これらの課題の解決には,医療機関における産業保健活動が重要な役割を果たす.現在,医療機関における産業保健活動としては個人・職場全体を対象に様々な取り組みがなされている.医療従事者個人を主な対象とした産業保健活動としては,医療安全・患者ケア等の業務の質向上,医療従事者自身のウェルビーイングや生活・運動習慣改善,リーダーシップ・コミュニケーションの取り方等についての教育・情報共有が実施されている4,8,13.職場全体を対象とした産業保健活動のテーマとしては,医療安全・スタッフ同士のコミュニケーション・業務改善・ハラスメント対策・人間工学的な作業環境・作業方法改善等が挙げられ,幅広い視点からの実践的な職場改善や実施を支援するツールも開発されている13,14.社会的にも医療機関における産業保健活動の重要性が訴えられており,行政レベルでの取り組みとして,医療従事者の勤務環境改善に関する医療機関管理者の努力義務や医療勤務環境改善支援センターの設立・活用等がなされている5,14.現場レベルでの取り組みについては日本医師会が,医師の健康確保のための職場改善の必要性に触れ,実践に関しては包括的な視点の重要性を示している5,14.しかしながら,実際の現場の取り組みに関しては報告が限られており,現状を把握したうえで,既に行われている事例や実現可能性の高い対策をとっていくことが必要である.

そこで本研究では,日本医師会が各医療機関を対象に実施した「医療機関における産業保健活動に関するアンケート」14における自由記載事項を活用し,現場レベルでの具体的な産業保健活動の傾向や特徴を分析し,現場での産業保健活動に携わる者が今後の産業保健活動を推進するための視座を明らかにした.

II. 研究方法

1. 分析対象

日本医師会産業保健委員会が平成29年3月~4月に実施した「医療機関における産業保健活動に関するアンケート」(以下アンケート調査)14の自由記載を対象とした.このアンケート調査の概要は以下である.

日本医師会「医療機関における産業保健活動に関するアンケート調査」14

日本医師会会員名簿より医療機関施設長に分類されているリストより,無作為に5,000人を抽出し,本研究の対象とした.対象施設は20以上の医療施設とし,有床診療所は含まれていない.回答者は施設管理者または施設担当産業医,事務担当者であった.調査項目については,医療機関における産業保健活動推進のための具体的方策について検討を行うにあたり,その基礎資料を得るため,施設規模,産業医の専門状況,産業保健活動の実施状況等を調査した.調査方法は郵送にて調査表を送付し,1,920人から回答を得た(回収率38.4%).調査は平成29年3月~4月に行われた.

本研究における分析対象は,上記アンケート調査の質問項目「17.自施設で取り組んでいる産業保健活動について,力を入れていること,最近実施したこと,これまでの取り組みで改善を行なった点などをご紹介ください.(担当者の選任の見直し,労働時間の削減への働きかけ,各種委員会との連携,有害物管理,など)」の回答欄に記載された自由記入内容とした.

2. 分析方法

産業保健に関する実務経験や研究実績のある専門職により(1)自由記入欄から読み取ることのできる個別対策事例,(2)産業保健活動の取り組み方による分類,を実施した.(1)個別対策事例の分析では,産業保健活動の要素別分類と,産業保健活動の実施主体者別分類を試みた(表1).産業保健活動の要素別分類には日本医師会担当者も分類実施(分類に用いる小紙片の作成および,分類結果に関する齟齬の有無についての確認)に加わっている.

表1. 産業保健活動の主体に基づいた分類のカテゴリ
産業保健活動の主体別定義
a産業保健専門職(産業医・産業保健師),安全衛生管理担当者等産業保健専門職(産業医,産業保健師),安全・衛生管理担当者が中心となり対策を提案・実施した事例
b現場全体対策の提案・実施に現場全体が関わった事例
c外部委託外部専門機関等に委託して対策を提案または実施した事例
d不明記述の主体がわからなかったもの,分類が困難だったもの

また,(2)産業保健活動の取り組み方分類では,包括的管理,問題別管理,事例管理の視点を中心に分類を試みた(表2).具体的な分析の方法は以下のとおりである.

表2. 産業保健活動の取り組み方を反映した特徴の分類カテゴリと具体例
取り組み方定義具体例
1包括的管理生活・働き方全体までも含むような多面的・集団的アプローチ過重勤務対策,労働時間みなおし
医師の長時間労働対策,地域や労使の連携,など
2問題別管理個々の問題を対象とした問題分野別アプローチ感染症対策,有害物管理,作業環境測定,病休チェックなど
3事例管理個人を対象としたアプローチ健診後フォローなど
(過重労働等の働き方と関連した事例管理は1に)
4その他上記以外のもの体制整備,産業医の外部選任等

(1) 個別対策事例の分類と集計

アンケート調査項目の自由記載欄の記載事項について,医療機関も含めた産業保健活動に関して実務経験・研究実績のある専門職4名(医師・保健師)と医師会の担当者が,記載された事項をそれぞれ短冊状の紙に印刷し,一つの産業保健活動が一つの小紙片となるよう作成した.その小紙片を,要素毎に分類・整理した.自由記入欄に記載されている産業保健活動と関連のないもの,意味が判別し難いものは省いた.その際,あらかじめ作成した産業保健活動の要素項目(大項目,中項目,小項目)に基づき仮分類し,前述の産業保健専門職4名で討議を行いながら,KJ法を用いて良好実践例を,その要素および特徴別にカテゴリ化し,各分析対象を再分類した.分類結果をもとに,再度専門職4名と医師会担当者とで分類に関する齟齬がないか確認し,最終的な分類を作成した.

また,事業場における産業保健対策は,その実施主体が不明瞭な場合があり,産業保健活動の役割の明確化が指摘されている4.そこで,個々の活動とその主体となる実施者を明らかにし,適切な対策実施のための示唆を得るため,分類結果を基に,医療機関も含めた産業保健活動に関して実務経験・研究実績のある専門職2名(医師2名)が活動の主体別分類を行った.具体的には,事例毎に「a:産業保健専門職(産業医・産業保健師),安全衛生管理担当者等」「b:現場全体」「c:外部委託」「d:不明」の4つのカテゴリに分類した(表1).分類した結果を再度専門職複数名で確認し,分類に関する齟齬がないか確認を行った.

(2) 産業保健活動の取り組み方を推測した分類と集計

アンケート調査項目の自由記載欄に記載されている事例から,医療機関も含めた産業保健活動に関して実務経験・研究実績のある専門職3名(医師2名,保健師1名)が,医療機関における産業保健活動の取り組み方を推測した分類を行った.具体的には,581件の事例をそれぞれが読み,3名によるKJ法にてカテゴリ化を行った.その後,専門職2名(医師2名)が,事例を作成されたカテゴリに従ってそれぞれ分類をした.分類後,上述の専門職2名(医師2名)で分類結果の相互確認を行い,一致しないものは2人の討議によりどちらかに分類した.その際,近年,勤務環境・労働条件の課題に関して多領域の視点から包括的に対策を講じる取り組みが進められていること16,17,メンタルヘルス対策の分野等においても包括的管理が推進されつつあることをもとに18,医療機関における産業保健活動の取り組み方を分類するにあたって,包括的管理に着目した.分類されたカテゴリに従って特徴的な事例を記述し,それぞれのカテゴリの意義について考察した.

3. 倫理的配慮

対象とした資料は日本医師会「産業保健委員会」より提供を受けた.日本医師会産業保健委員会では「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(平成26年12月22日(平成29年2月28日一部改正))」に従い本調査を実施した.本調査に直接の受益者ではない者が参加し,研究を行い,結果を公表することに関して,大原記念労働科学研究所倫理委員会にて倫理審査を受けた.(受付番号17-013)

III. 結果

アンケート回収数1,920件のうち,分析対象である自由回答欄に記載があったものは581件であった.

1. 個別対策事例の集計結果の概要

(1) 具体的取り組み事例の分類

記載のあった581件を産業保健活動に関する取り組み毎に分類した結果1,044件の取り組み事例に細分化された.1,044件の取り組みを分類した結果,8つの大項目(「A労働安全衛生管理体制強化・見直し」,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革」,「Cメンタルヘルス対策関連」,「D健康管理」,「E有害化学物質・感染管理」,「F筋骨格系(人間工学)対策」,「G両立支援(復職支援)」,「Hその他」)および40項目の小項目に分類できた.分類した7つの大項目および主な小項目の分類結果を表3に示した.なお,表3のそれぞれの大項目別に分類された小項目は,同じ取り組みが10件以上あった事例の要素をキーワードとし,多く記載されていた事例を上から順に並べた.10件以下の取り組み事例は主な事例のみ記載した.

表3. 個別対策事例に関連した取り組み事例(n=1,044)
大項目小項目の例※
A労働安全衛生管理体制強化,見直し
(n=202)
・産業医選任複数化,外部委託
・施設の労働安全衛生方針作成,年間計画・重点計画作成
・職場巡視の実施,他部門との合同実施
・教育研修機会の増加
・衛生管理者選任増強
・健康経営宣言,いきいき働く医療機関宣言
・労働安全衛生委員会の機能強化
<10件以下のもの>
・院内各委員会(医療安全,感染症対策など)との連携,協働,医療勤務環境改善支援センターからの支援,等
B労務管理,過重労働対策,働き方改革
(n=373)
・時間外労働の削減,残業削減,ノー残業デー
・有給休暇取得促進
・勤務制度の見直し(短時間正規職員,時間休,年俸制など)
・労務管理の徹底
・職場環境改善,5S活動
・労働時間把握の工夫
・ノー残業デーの実施
・過重労働対策の報告・周知
・長時間労働者面談徹底
・ワークライフバランス(子育て,育休・介護休暇等)の充実
・業務改善(外来等調整,機器活用,タスクシェア・タスクシフト,補助クラーク活用など)
・会議見直し(定刻開始,時間短縮,時間外会議の自由参加など)
・管理者教育機会増強,報告・周知
<10件以下のもの>
安全衛生委員会での報告,審議,働き方・勤務環境向上委員会・労働時間見直し委員会,シフト・夜勤負担軽減等勤務体系見直し(当直明け医師の負担軽減,三交代から二交代制,当直回数など),声かけ励行,コミュニケーション改善,働く意識調査実施,キャリア支援,教育研修学会機会の確保,等
Cメンタルヘルス対策
(n=219)
・ストレスチェック制度の運用と高ストレス者面談強化
・外部EAP・心理専門職・メンタルヘルス担当医など窓口設置・強化
・教育研修の機会の提供
・メンタルヘルスに関する管理体制の見直し
・職場でのハラスメントに対する対策
<10件以下のもの>
外部資源を利用した取り組み,等
D健康管理
(n=112)
・禁煙対策
・事後措置の充実
・受診率向上
・医療従事者に合わせた保健指導の強化
<10件以下のもの>
健診制度,健診・検診項目の見直し,がん検診,健康相談窓口,研修,生活習慣病対策,等
E有害物管理,感染管理
(n=73)
・VPDの抗体価の把握とワクチン・予防接種
・有害化学物質管理とリスクアセスメント
<10件以下のもの>
感染症曝露後対応(針刺し,結核など)の充実,感染症研修・教育,感染症対策委員会との連携,抗がん剤管理と曝露防止策,放射線防護策の見直し,有害化学物質対応できる人材育成,等
F筋骨格系(人間工学)対策
(n=24)
・腰痛対策
<10件以下のもの>
VDT,IT機器利用に伴う健康管理策,等
G復職支援
(n=28)
・復職・両立支援に関する制度見直し
・復職・両立支援の意識付け,周知
<10件以下のもの>
・メンタルヘルス,がん,妊娠・出産等に関連する復職・両立支援

※分類された小項目は,同じ取り組みが10件以上あったものの要素をキーワードとし,多く記載されていた事例を上から順に並べた.10件以下の取り組み事例は主なものみを記載した.

分類結果では,多いものから順に「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(373事例,35.7%)」「Cメンタルヘルス対策関連(219事例,21.0%)」,「A労働安全衛生管理体制強化・見直し(202事例,19.3%)」,「D健康管理(112事例,10.7%)」,「E有害化学物質・感染管理(73事例,7.0%)」,「G両立支援(復職支援)(28事例,2.7%)」,「F筋骨格系(人間工学)対策(24事例,2.3%)」,「Hその他(13事例,1.2%)」に分類された.また,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(373事例,35.7%)」は数が多く,「長時間労働の削減」等の直接的な改善と共に,日勤・夜勤の引継ぎ体制見直し等,長時間労働削減につながる間接的な改善についても認められた.一方で「時間外労働の削減」,「残業削減に取り組んでいる」等の記載のみで,時間外労働削減について呼びかけのみなのか,具体的に取り組んでいるのか,わからない記載も多く認められた.

さらに,特に取り組みの多かった「B労務管理・過重労働対策・働き方改革」,「Cメンタルヘルス対策関連」に関して医療機関毎に再集計したところ,B・C同時に実施している対策が77件(13.2%)認められた.その中でB・Cの分野での取り組みが,ともに一次予防を目的に実施しているものが26件(33.7%)確認された.

(2) 産業保健活動の実施主体別に関する分類結果

細分化された1,044件を対象とし,産業保健活動の実施主体別に関する分類を行った.その結果,明らかな実施主体の記載が認められなかった「d:不明(151事例,14.4%)」を除くと,「a:産業保健専門職(産業医・産業保健師),安全衛生管理担当者等(749事例,71.7%)」が最も多く,次いで「b:現場全体(105事例,10.1%)」,「c:外部委託(39事例,3.7%)」の順となった.

各実施主体が行ったと推測された産業保健活動の分類結果を図1に示した.「a:産業保健専門職等」が主体となる産業保健活動には「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(192事例)」,「A労働安全衛生管理体制等(177事例)」,「Cメンタルヘルス対策関連(154事例)」となった.Bでは労働時間の把握や時間外労働の削減,産業医による過重労働面談の実施等が含まれる.Aには複数の産業医の選任や外部委託,職場巡視の方法の工夫,教育研修機会を設ける等が含まれていた.Cではストレスチェック制度の運用と高ストレス者面談等が多かった.「b:現場全体」が主体となる産業保健活動では,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革(39事例)」と「Cメンタルヘルス対策関連(39事例)」が上位となった.具体的には,外来等の調整や業務分担の見直し等タスクシェアの取り組み,5S活動等の職場環境改善,声掛けや挨拶等の風通しのよい職場つくり等の取り組みが含まれていた.「c:外部委託」が多く主体となる活動は,「Cメンタルヘルス関連対策(25事例)」であった.これには,ストレスチェックの外部委託等の事例が多く含まれていた.

図1.

産業保健活動の主体に基づいた分類(n=1,044)

また,上記の主体別の産業保健活動事例の中には,互いに連携に関する取り組みも認められた.例えば,「他組織(外部機関・感染症対策委員会等の院内の他委員会等)との産業保健活動に関する連携,産業保健師・産業医・安全衛生管理担当者の中でのチームとしての連携」についての取り組みについて記載されたものは35事例(3.4%)と一定数存在していた.

2. 産業保健活動の取り組み方を推測した分類

産業保健活動として行われている対策について,複数の研究者によりKJ法を用いて分類を行った結果 ①包括的管理,②問題別管理,③事例管理,④その他,の4つのカテゴリが見いだされた(表2).それぞれのカテゴリの内容を次に示す.

① 包括的管理

既存の知見を基に,典型的な産業保健活動に加えて生活・働き方全体までも含む多面的・全体的アプローチを指す事例とした16,17.問題別や個別対応等,個々の取り組みではなく,過重労働対策等,総括管理から作業環境管理,作業管理,健康管理まで多領域にわたる包括的な産業保健活動の事例が含まれる.主な具体例として長時間労働対策,地域連携,労使連携等が挙げられる.

② 問題別管理

産業保健上の特定のリスクや事例に関する管理を対象とした問題分野別アプローチの事例とした.主な具体例として感染症対策,有害物管理,作業環境測定等が挙げられる.

③ 事例管理

主に,医療従事者個人を対象とした産業保健活動の取り組み事例とした.具体例としてストレスチェックの実施と医師面接(集団分析に関連した活動事例は含まれない),健康診断後の判定・事後措置,復職支援等が含まれる.過重労働や働き方改革に関連した事例管理は①に分類した.

④ その他

①~③以外のものとした.具体例として産業医の外部専任依頼,医師確保等が挙げられる.

581件の特徴的な具体的事例を表4に示した.「包括的管理(244事例,41.9%)」が最も多く,「その他(138事例,23.7%)」,「問題別管理(103事例,17.7%)」,「事例管理(96事例,16.5%)」となった.

表4. 産業保健活動の取り組み方を推測した特徴別の分類件数(n=581)
分類項目特徴的な記載事例
包括的管理の例
(n=244)
・管理者会議,職員対象の講習会等で,過重労働の危険性の啓蒙を行なっている.ワクチン接種は,院内感染対策委員会,感染管理センターと共働で行なっている.有機溶剤,ホルマリンの環境測定結果のフィードバックを通して,改善策を病院全体で対応している.メンタルヘルスについて,院外講師を招いて講演会を開催した.年2回定期的に全職員対象に,健康に関する講演会を院内講師で行なっている.
・産業医は他の業務(内科等)と兼務のため,3名の医師を選んでいる.また専任の産業ナース(衛生管理者)を置いて対応.メンタル異常者が増加しているので,復職に向けての指導,リハビリ勤務の指導,その後のフォローを行なっている.針刺し事故の対応は,しっかり行なっている.結核健診をはじめ,職員の健診は受診率を100%にすることができた.
・病院としての安全衛生委員会に加え,法人全体としての安全衛生委員会を行なっている.新入職員に対し,3ヶ月後(看護職については6ヶ月後も)に産業医面談を実施している.病院の規模として,衛生管理者は1名の選任でよいが,複数名体制への移行中である.一般職については,長時間勤務を把握し,長くなっている部署には対策を講じている.
問題別管理の例
(n=103)
・特化物(ホルマリン)及び炭化水素系溶剤(類似有機溶剤)の使用量,保管量管理の徹底,局排の状況管理(安全衛生法,毒劇法,消防法).
・ハラスメント防止対策として,講習と規定を策定した.
・メンタルヘルス対策の充実,産業医を施設管理者以外に変更(心療内科医が受け持つようになった).
事例管理の例
(n=96)
・職員健診時に,40歳以上の希望者にメタボ項目検査実施.希望者には,MRI,MRA検査も実施.
・全職員対象に,ストレスチェックを実施.職員健診後,異常値の出た職員について個別面談を実施,指導を行なっている.
・退職者との面談,メンタルヘルス,ハラスメント等のチェック.
その他の例
(n=138)
・医師数を確保できないと,超過勤務時間の短縮は実現できないので,医師(特に産婦人科,新生児科,麻酔科)の確保に力を注いでいる.
・これまでメンタルヘルス対策は,通常の産業医が行っており,不充分であったが,本年4月より外部委託の産業医にお願いすることになっている.
・産業医を管理職医師から一般医師へ変更した.

IV. 考察

本研究では医療機関で実施されている産業保健活動の傾向や特徴を明らかにし,今後の産業保健活動を推進するための視点を得ることを目的に,医療機関での産業保健活動を「個別対策事例」・「産業保健活動の取り組み方」に着目して分類を行った.その結果,一次予防に着目しメンタルヘルス対策と過重労働対策を同時に実施している現場が多く認められたこと,産業保健活動が医療機関内外の様々な組織・機関・専門家と連携しチームとして進められている傾向があることがわかった.

考察では,「個別対策事例」,「産業保健の取り組み方」に関する分類結果について,近年の医療機関における働き方改革や産業保健活動の動向,これまでに報告された文献等を引用し考察する.

1. 個別対策事例の分類と集計

① 個別対策事例の集計結果

医療機関における産業保健活動は,表1に示すように,長時間労働を含む過重労働対策から有害物質管理まで現場を取り巻く多様なリスクに対して現場レベルでの対応が幅広く行われようとしていることが示唆された.特に多くの現場で実践が行われている「A体制見直し」,「B過重労働・働き方改革」,「Cメンタルヘルス対策関連」,の分類について小項目の特徴を含め,医療機関の管理者等が自由記載欄に報告した医療機関における産業保健活動の特徴について検討する.

A. 体制見直し

労働安全衛生管理体制の見直し等では,産業医の増員や院外への産業医委託等の取り組みが多く認められた.院外の産業医委託に関しては厚生労働省の通達への対応も含まれるが19,より実行性のある産業医の役割ができるように各病院の見直しが行われていることの反映とも考えられる.院外の産業医委託を進める理由として,医療機関の管理者が産業医を担う場合,経営状況が産業医としての判断に影響を及ぼす恐れや,職員が人事等にも影響する可能性を考え,気軽に相談できないといった点が挙げられている13,15.同じく,個人情報でもある自身の健康について同じ病院に働く院内の医師に知られたくないという理由から,健康診断等の診療やメンタルヘルスに関する相談を希望しない意見等も考慮すると13,15,院外の産業医委託は産業医活動をより有用で活性化したものにしようとする各病院の意識の表れであるとも考えられる.産業医の外部委託を行い,産業保健機能の強化に有用であったという事例もあり,今後は医療機関に勤務し,患者を診療する医師に産業医を兼任させずに,外部の産業医の専門性の高い医師に産業医業務を委託する施設も増えることが推測される.

また,安全衛生委員会等これまで存在していた産業保健活動を活用し新たな取り組みを行う動きも多く認められた.日本医師会が提言として衛生委員会の活用を挙げているが5,14,すでに現場でも既存の取り組みを見直し,再活性化が図られている施設が増えていることが示された.さらに,医療機関には医療安全や感染管理等の医療法に基づく各種委員会が設置されているが,各種委員会の中には医療機関の職員の健康・安全管理に関連した項目が重複している点もある.例えば,患者からの暴言・暴力対応や職業感染管理である.産業保健スタッフがこれらの各種医療法に基づく委員会と連携し,効率的・有機的に組織の見直しが行われていることも分かった.ほか,「いきいき働く医療機関宣言」等,近年注目が集まっている健康経営に関する取り組みが医療機関で進められていることも含め,医療機関における労働衛生管理体制に関して新しい動きがみられることが確認された.

さらに,施設の安全衛生方針作成,リスクアセスメントを含む職場巡視,教育研修機会の増加等,労働安全衛生管理体制全体を見渡した取り組みがなされていた.特に医療勤務環境改善支援センターからの支援を得て,取り組みを進めている点は近年の大きな動きである.医療勤務環境改善支援センターは平成26年度の医療法の改正により,各医療機関で勤務環境改善を行うことが努力義務とされ,それを支援するために都道府県に設置された公的機関である20.今後,これらの外部機関と連携をした自主的な医療勤務環境改善が進むことが期待される.

B. 過重労働・働き方改革

今回の分析からは,過重労働・働き方改革に対して,法令に従う過重労働面談等の二次予防だけでなく,労働時間見直し等の一次予防に重きが置かれている取り組みが広がっていることが特徴的であった.一次予防の中でも過重労働対策としての有休取得等,具体的な対策が多く実施されていた.医療従事者の過重労働については,医師の長時間残業は他の職種と比較して極めて長いといった概要的なものから21,22,医師の過労死や過労自殺等の個別的なケースまで,社会的な関心を集め続けている22.今回の調査からその根本的な原因解決に向けて実際に各医療機関が対策を取り組み始めていることも確認された.加えて,表3の「B労務管理・過重労働対策,働き方改革」の欄に記載されているように,集計数としては多くないが,働き方に対する委員会・プロジェクトの立ち上げ等,働き方改革に関連した取り組みが進んでいることも興味深い.

一方,長時間労働削減の取り組みの具体例については,具体例の記載が「時間外労働の削減」,「残業時間削減に取り組んでいる」のみの記載であり,具体的な活動が把握できないものも多く,今回の分析では十分解明できないところがあった.日本医師会は,医師の労働時間管理に対する基本的な考え方として労働時間を管理する責任者の明確化や労働時間の適正把握の方法,医師の過重労働防止のための施設長,診療科長,衛生委員会,産業医の役割等について整理している14.これらの資料とともに,労働時間の把握方法や削減の具体的な方法についての現場での事例を収集し,共有することも重要であろう.今後は,本調査で多く認められた労働時間削減に関する直接的な取り組みや,働き方改革にもつながる労働時間削減に関する根本的対策(業務改善・施設改善・診療体制改善等)が,さらに体系的に展開されることが望まれる.

C. メンタルヘルス対策関連

メンタルヘルス対策においては徐々に職場全体を対象とした一次予防への取り組みがなされていることが見いだせた.ストレスチェック実施が最も多く記載されていたが,相談窓口設置強化,教育研修の機会の提供,ハラスメント対策,外部資源を利用した取り組み等の記載があった.従来メンタルヘルス対策として看護師等,医療スタッフを対象とした取り組みは広く実施されているが4,23,医師を対象としたメンタルヘルス対策は報告が少ない.ストレスチェックを契機に,メンタルヘルス対策に関して今後の取り組みが期待されている.医師を対象としたメンタルヘルス対策を検討する場合,概して自身の悩みや不安を相談することが難しいとされる医師の性質や13,15,診断・治療の方針決定や患者・家族への説明対応等3,一人で責任を抱え込みやすい業務特性であることを考慮に入れる必要がある.今回の研究からは,看護師,医師等の職種別のメンタルヘルス対策の取り組み状況については差異が判断できなかった.職種毎にストレスの要因や勤務環境等が異なるため,具体的な取り組みについてはより詳細な調査が必要だろう.ストレスチェック結果活用に基づく職場環境改善は努力義務とされているが24,現場レベルではその活用方法に困難感を感じる職場も多いと言われている.今後発展させていくためには,戦略的な体制作りや現場全体で取り組みやすい手法やツールの展開が期待されている14,25

また,「B労務管理・過重労働対策・働き方改革」「Cメンタルヘルス対策関連」を併せて実施している企業は全体581件中77件(13.2%)であり,そのうち26件(33.7%)が共に一次予防対策に関する事例であった.メンタルヘルスの一次予防を考えていく上で,その根本の原因となる業務や労働時間等の労働負荷への対策が過重労働対策・働き方改革と密接な関係にあり,両者を合わせてより実践的な取り組みがなされていることが考えられる.

なお,今回の分類は産業保健活動の個別対策事例を著者らが分類したものであり,一般的な産業保健管理における分類等と異なる可能性もある.労働安全衛生法上の産業保健の取り組みでは,総括管理,作業管理,作業環境管理,健康管理,労働安全衛生教育の5つの視点があり,この視点から分類できる可能性も考えられる.また,個別対策で使用した有害要因別の分類として,物理的要因,化学的要因,生物学的要因,心理社会的要因,人間工学的要因等によって分類することも可能である.それらの分類によっては医療機関における新しい産業保健活動の視点が見える可能性も否定できない.

② 活動の主体に基づいた分類

医療機関での産業保健活動では活動主体や役割が明確でないといわれてきたが4,本調査では,従来の産業医・産業保健師や安全衛生管理担当者が産業保健活動の主体的な役割を担いながらも,病院内での他の委員会との協力や外部機関の活用等,従来にない連携・協力体制の構築の中で,チームとして産業保健活動に取り組む新しいあり方が示された.

分類では「a:産業保健専門職(産業医・産業保健師),安全衛生管理担当者等」が最も多く産業保健活動の主体となっていた.「a:産業保健専門職,安全衛生管理担当者等」が主体となる取り組みとしては,「B労務管理,過重労働対策,働き方改革」「A労働安全衛生管理体制強化,見直し」等,組織全体に対する包括的な対策が多く認められた.院内の感染症対策管理者等との情報共有や共同の現場パトロール等,連携も多く認められ,様々な分野の専門家・実務家が,現場を取り巻く問題に対してチームとして協力して取り組んでいく傾向が伺えた.

一方で「b:現場スタッフ全体」が主体となる取り組みに関しては「Cメンタルヘルス対策」,「B過重労働・働き方関連対策」によるものが多く認められた.職員全体を対象にした研修会の実施,メンタルヘルス・働き方改革に関連した職場改善の実施等,現場の一次予防を中心にした取り組みにおいて主体的に活動を担っていることが見いだせた.「c:外部委託」が主体となった取り組みに関しては,「Cメンタルヘルス対策」が多く認められ,ストレスチェックの外部委託をはじめとして,外部講師による研修等と共に,外部からの専門スタッフによる相談窓口の設置等,外部の専門的な立場からの支援や相談者のプライバシーに配慮したあり方が行われていた.

医療機関での産業保健活動に関わる活動とその主体の在り方に関しては,個人・職場・医療機関全体・地域・国といった各ステイクホルダーと望まれる役割について研究がなされている.例えば,医療機関全体の役割としては協力や連携,組織としての方針や体制の構築,ガイドライン等の標準的かつ各現場に合わせることのできる柔軟なシステムの作成が役割として挙げられている8.また,職場の役割としては方針の具体的な実施,例えば労働時間・休暇の取得の確認・調整,職員同士のコミュニケーションの機会の提供,トラブルやストレス等に関しての相談窓口の設置等が示されている8,13.医療者当事者も含め医療機関で働く者には,医療者の健康や安全,働きやすさに関して,医療者自身の個人責任だとする意識が強いとされているが8,15,各ステイクホルダーがそれぞれの役割を認識し,チームとして産業保健活動・産業保健体制を構築しているあり方は新しい特徴であり,医療機関のみならず他の業種にも展開できる新たな潮流となるだろう.

2. 産業保健活動の取り組み方を推測した分類と集計

表4に示すように,産業保健活動の取り組み方を推測した特徴の分類では包括的管理の視点で掲載される件数が全体の4割を占めた.包括的管理の分類の中では過重労働・メンタルヘルスに関する対策が多く,特に過重労働対策では,有給休暇取得,残業削減,子育て支援,業務改善等から,複数の取り組みを組み合わせて実施している報告が多く認められ,原因が複雑な現場の課題に対して,包括的なアプローチが行われていることが伺えた.

問題別管理では感染症対策(針刺し事故・結核・B型肝炎等),化学物質・放射線管理,禁煙教育・腰痛対策が多く認められ,現場が働く上での多様なリスクを認識し対応していることが確認できた.これまでの医療機関における産業保健に関する研究では,医療従事者が考える,医療機関における産業保健上の課題における優先順位等に関しての大津らの調査報告がある26.報告からは,職業感染対策,呼吸器感染対策,医療従事者自身の健康管理の3つが産業保健上の課題として優先度が高く,次に,メンタルヘルス対策,疲労・交代勤務による健康障害予防,暴言・暴力対策,という順にあげられていた26.今回の調査において,具体的に取り組まれている産業保健活動は,過重労働に関連するものが多く,大津らの報告とは大きくことなっていた.今回の調査の回答者は院長等の施設管理者が主であること,働き方関連の取り組みが現在関心の高いトピックスであること等が,大津らとの報告の相違が生まれた可能性がある.また,実際に院内で取り組まれている職業感染管理は「17.自施設で取り組んでいる産業保健活動について,力を入れていること,最近実施したこと,これまでの取り組みで改善を行なった点などをご紹介ください.(担当者の選任の見直し,労働時間の削減への働きかけ,各種委員会との連携,有害物管理,など)」という質問項目では,自由記入欄に書き難かったという可能性もある.

事例管理では個々人に対するストレスチェックとその後の面談の取り組みが多く認められ,近年の産業保健を取り巻くトピックスに対して現場レベルで適切な対応が行われていることが伺えた.これは,各医療機関が一般健康管理としての職業性要因にとどまらない生活習慣病等に対する健康診断の実施と,事後措置に産業保健スタッフの労働時間が多く割かれる現在の状況を振り返り,ストレスチェック制度の導入を契機とし,メンタルヘルス対策において,一次予防から三次予防また,個別アプローチと集団アプローチを視野に入れた包括的産業保健管理体制を進めていることが考えられる.各医療機関が各々に産業保健活動の役割を見直し,新たな対策を考えている現状が伺えた.

3. 研究の限界

本研究は,回答者の属性,回答数,自由記載内容の解析という点で,結果の解釈に制約がある.また,本結果は主に施設管理者による視点での産業保健活動の自由記載事項を分類しているため,本結果が医療機関における産業保健活動の実態としての,実際の活動内容を正確に表しているものではない.自由記載事項も1,920件の回答のうち581件と3分の1以下であり,回答が行われなかった施設の産業保健活動の事例を拾い上げることができていない.しかし,産業保健活動の実施のイニシアティブを持つ施設管理者等が考える産業保健活動として,現在取り組んでいる内容を示すものであり,一定の価値があると思われる.本調査に関しては,急性期病院・特定機能病院・老健施設等については調査しておらず,産業保健活動の病院機能別特徴を反映することができていない.例えば,長時間労働が常態化しやすい医療施設なのか,時間外労働があまりない施設であるのか等に関しては評価できていないため,今後,施設の特徴に合わせた産業保健活動について検討を行う必要もあるだろう.また,今回設定した分析カテゴリでは,記載事項の要素を適切に分類できていない可能性がある.本分析では記載された事例の要素別分類を試みたが,抽象的表現として記載されていた事例では,事例として説明するには具体性が欠けるものがあった.しかし,複数名の専門家でKJ法を用いて,対策の上位概念を大項目として設定したことで,医療機関における産業保健活動の一定の特徴を示すことはできたと思われる.

さらに,分析対象は質問項目が「最近取り組んだ内容として特に力を入れていること」に対する記載であるために,問題別・事例管理・その他カテゴリに入った医療機関が包括的アプローチを行っていないことを示すものではない.しかしながら,包括的な視点での産業保健活動が実施されていたという結果は現場レベルでの対策や体制構築に思案する担当者・産業保健専門職・安全衛生管理担当者に対して,産業保健活動を考える視点を提供しうるだろう.

V. 結論

日本医師会が実施した「医療機関における産業保健に関するアンケート調査」を基に各機関の産業保健活動の種類や主体,活動の考え方等に関して分析を行った.現場では多様なリスクが同時に存在する環境に対応するために組織の各立場が自身の役割を認識・連携し,幅広い包括的な視点で産業保健活動が提供されていた.特にメンタルヘルス・過重労働対策の一次予防が併せて実施されており,根本的な原因解決に踏み込んだ新たな産業保健対策の実践例が認められた.

謝辞

本研究は日本医師会並びに平成29年度日本医師会産業保健委員会による日本医師会会員向け調査結果を活用した調査研究です.調査にご協力頂いた皆様,また,研究の遂行にあたり産業保健活動の包括的管理に関するカテゴリ化とその分類に関してご助言頂いた小木和孝氏,吉川悦子氏に厚くお礼申し上げます.本研究の一部は科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)の研究資金(課題番号17K15754)を用いて行いました.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
© 2020 公益社団法人 日本産業衛生学会
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