2020 年 62 巻 4 号 p. 149-153
現代社会において勤務形態は多様化しており,夜勤・交代勤務は建設業や製造業を始め多くの産業で広く採用されている.日本における夜勤・交代勤務者の割合は増加傾向にあり,2012年には労働者の約2割(約1,200万人)に達する1).しかしながら,夜勤・交代勤務に長期に従事することで肥満2),高血圧3),2型糖尿病4)などの生活習慣病や前立腺がん5)といったホルモン関連がんなど様々な健康障害のリスクが高まるとの報告がなされている.夜勤・交代勤務によってこれらのリスクが高まるメカニズムとして生体リズムの乱れが指摘されている.
その他のメカニズムとして,夜勤・交代勤務では日光曝露の機会が制限されることが疾患リスクに影響していると推測されている6).その生物学的な説明として,日光(紫外線)曝露の減少に伴う体内のビタミンD不足あるいは欠乏の関与が示唆されている6).ビタミンDは紫外線曝露により皮膚で産生されるが7),近年,血圧調整ホルモンへの影響,自己免疫能の調整に関与するホルモン様作用などを有することが明らかになっており8),ビタミンDは骨疾患に加え,がん8)や循環器疾患8),自己免疫疾患8),または精神疾患9)など多くの疾患の予防に関与していると考えられている.
観察研究の系統的レビューにおいても,夜勤・交代制勤務者にビタミンD欠乏が多いことが示されている6).しかし日本では小規模の研究報告(対象者14名)10)があるのみで,大規模な調査は行われていない.よって夜勤・交代勤務者が勤務形態の影響でビタミンDが不足しているなら対策を講じる必要があると考え,日本の製造業従事者における栄養疫学調査データに基づいて,夜勤・交代勤務と血清中25-水酸化ビタミンD(25(OH)D)濃度との関連を横断的に検討した.
本調査は2012年および2013年に定期健康診断にあわせて実施した.関東の某企業2事業所(製造業)に勤務する勤労者約2,800名に調査への協力を依頼し,2,162名(約77%)から同意を得た.健診前に,勤務形態や通勤,運動,睡眠,喫煙習慣などに関する健康調査票および食事調査票を対象者に配布し,健診時に回収した.健診時に血中栄養成分などを測定するために研究用採血を行った.
この2,162名のうち,25(OH)Dの測定を行わなかった221名,勤務形態の分類が「その他」であった17名,心血管疾患やがん,腎臓疾患,肝臓疾患の既往のある50名,女性171名(うち夜勤・交代勤務者1名)を除外し,男性1,703名について解析した.
2. 測定方法勤務形態の回答選択肢として「日勤のみ」「深夜勤のみ」「2交代」「3交代」「フレックスタイム勤務」「その他」を示し,それにより対象者を日勤帯勤務者(「日勤のみ」「フレックスタイム勤務」)と夜勤・交代勤務者(「深夜勤のみ」「2交代」「3交代」)の2群に分けた.2交代は隔週ごとの日勤帯・夜勤帯を繰り返し,3交代は日勤帯・準夜勤帯・夜勤帯を繰り返す勤務形態であった.また2交代の夜勤は10日程度,3交代の夜勤は6~7日程度であり,休日は勤務形態によって差はなく月8~10日程度であった.
体内のビタミンD量の指標として血清中25(OH)D濃度を測定した.測定はcompetitive protein binding assay(CPBA)法を用いてLSIメディエンス(東京)により液体シンチレーションカウンターLSC-5200(日立アロカメディカル)を用いて行われた.測定内変動係数は8.9%~10.9%であった.測定手順として血液検体は健康診断を受診した順番に並べ,その順に測定を行った.交代勤務に関する情報は測定者には知らせなかった.25(OH)D濃度が 20 ng/mL未満であればビタミンD欠乏と定義した12).
その他の変数につき,身長は 0.1 cm刻み,体重は 0.1 kg刻みで実測し,Body mass index(BMI)は体重(kg)を身長(m)の二乗で除して求めた.喫煙,飲酒,仕事中の身体活動および余暇の身体活動の評価方法について詳細は過去に報告しているが11),生活習慣調査票を用いて評価した.仕事および余暇の身体活動量については,活動強度ごとにその実施時間を評価し,さらに活動強度(メッツ)を乗じた合計値を用いた.また,食生活を簡易型自記式食事歴法質問票により評価し,得られた結果から総エネルギー摂取量およびビタミンD摂取量を計算した.マルチビタミンサプリメントの摂取は生活習慣調査票にて評価した.
3. 解析方法日勤帯勤務者と夜勤・交代勤務者の25(OH)D濃度の平均値の差の比較にはt検定を用いた.夜勤・交代勤務とビタミンD欠乏との関連をロジスティック回帰分析にて調べた.交絡要因として以下を調整した.Model 1 では基礎属性および社会経済要因として年齢(歳,連続変数),婚姻(有無),および事業所で調整し,Model 2 は生活習慣要因として,Model 1 の変数に追加して,BMI(kg/m2,連続変数),飲酒習慣(非飲酒者,エタノール摂取量<23 g/日,23–45 g/日,≥46 g/日)を追加して調整した.Model 3 はModel 2 の変数に加え,食事要因としてマルチビタミン摂取(有無),総エネルギー摂取量(kcal/日,連続変数),ビタミンD摂取量(μg/1,000 kcal/日,連続変数)を加えて調整した.Model 4 はModel 3 の変数に加えて潜在的な介在因子として,喫煙習慣(吸ったことはない,以前吸っていた,吸っている),余暇の運動量(0メッツ・時/週,3メッツ・時/週未満,3メッツ・時/週以上,10メッツ・時/週未満,10メッツ・時/週以上)を追加して調整した.
2事業所で調査時期(A事業所2012年4月,B事業所2013年5月)が異なるため,日射によるビタミンDへの影響を考慮し,事業所別にも解析した.また,夜勤・交代勤務者において25(OH)D濃度が低い者の特徴を明らかにするため,夜勤・交代勤務者内でビタミンD欠乏群と非欠乏群とで社会経済学的要因や生活習慣要因の差をt検定,Mann-WhitneyのU検定,カイ二乗検定を用いて比較した.統計解析はSAS version 9.3(SAS Institute, Cary, NC, USA)を使用し,統計学的な有意水準は両側検定で0.05とした.
4. 倫理的配慮本研究計画は国立国際医療研究センター倫理委員会の承認を得た.参加者からは個別に書面による同意を得た.
日勤帯勤務者は1,322名,夜勤・交代勤務者は381名であった.対象者の特性をTable 1 に示す.夜勤・交代勤務者群(夜勤・交代勤)は日勤帯勤務者群(日勤)に比べ,年齢が若く(平均値:夜勤・交代勤39.7歳,日勤44.6歳),既婚者の割合が低く(夜勤・交代勤:64.0%,日勤73.8%),喫煙者が多く(夜勤・交代勤49.1%,日勤26.7%),仕事の身体活動量が多かった(中央値:夜勤・交代勤30.5メッツ・時/日,日勤5.0メッツ・時/日).一方,余暇の運動量(中央値:夜勤・交代勤1.5メッツ・時/週,日勤3.5メッツ・時/週)やビタミンD摂取量(平均値:夜勤・交代勤 5.3 μg/1,000 kcal/日,日勤 5.7 μg/1,000 kcal/日)は低かった.BMI,多量飲酒,マルチビタミン摂取,総エネルギー摂取には群間で顕著な差は認めなかった.
日勤帯勤務者 | 夜勤・交代勤務者 | p値* | |
---|---|---|---|
N | 1,322 | 381 | |
年齢(歳) | 44.6±9.0 | 39.7±9.0 | <0.001 |
Body mass index(kg/m2) | 23.5±3.2 | 23.5±3.5 | 0.97 |
A事業所 | 727(55.0) | 202(53.0) | 0.46 |
婚姻あり | 974(73.8) | 244(64.0) | <0.001 |
現在喫煙者 | 352(26.7) | 187(49.1) | <0.001 |
仕事の身体活動量(メッツ・時/日) | 5.0(2.3–10.1) | 30.5(18.5–44.3) | <0.001 |
余暇の運動量(メッツ・時/週) | 3.5(0.3–10.9) | 1.5(0–7.7) | 0.02 |
多量飲酒(エタノール摂取量 ≥ 46 g/日) | 123(9.3) | 39(10.2) | 0.58 |
マルチビタミン摂取あり | 93(7.0) | 17(4.5) | 0.07 |
総エネルギー摂取(kcal/日) | 1,805±528 | 1,887±553 | 0.26 |
ビタミンD摂取(μg/1,000 kcal/日) | 5.7±3.3 | 5.3±3.4 | 0.02 |
連続変数:平均値±標準偏差または中央値(25,75パーセンタイル),カテゴリ変数:人数(%)
勤務形態別の血清中25(OH)D濃度の平均値(標準偏差)は日勤帯勤務者 21.90±5.25 ng/mL,夜勤・交代勤務者 20.77±5.37 ng/mLで,夜勤・交代勤務者が有意に低かった(p<0.001).ビタミンD欠乏該当者は日勤帯勤務者では498名(37.7%)であり,夜勤交代勤務者では191名(50.1%)であった.夜勤・交代勤務とビタミンD欠乏の関連について多変量解析の結果をTable 2 に示す.日勤帯勤務者と比べ,夜勤・交代勤務者のビタミンD欠乏の割合は高く,年齢や婚姻状況,事業所を調整したオッズ比(95%信頼区間)は1.44(1.13–1.83)であった.BMIと飲酒習慣を調整に加えたModel 2(オッズ比1.39 [1.09–1.78]),さらにマルチビタミン摂取,総エネルギー摂取量,ビタミンD摂取量を調整したModel 3(オッズ比1.37[1.08–1.76])では関連はほとんど変わらなかった.しかし,夜勤・交代勤務とビタミンD欠乏との関連の潜在的な介在因子である喫煙および余暇運動を追加調整すると関連は弱まった(Model 4:オッズ比 1.17[0.90–1.51]).事業所別の夜勤・交代勤務とビタミンD欠乏との関連をTable 3 に示す.A事業所と比べB事業所で関連は強い傾向にあり,B事業所のみ交絡要因を調整後も統計学的に有意であった(Model l–3).また夜勤・交代勤務者内でのビタミンD欠乏の有無別の特徴を比較したところ,欠乏群は非欠乏群と比べ年齢は若く,未婚者が多く,喫煙者も多かった.飲酒量と余暇の運動量には明確な差は認めなかった(表中にはデータを示していない).
日勤帯勤務者 | 夜勤・交代勤務者 | p値 | |
---|---|---|---|
N | 1,322 | 381 | |
血中25(OH)D<20 ng/mL,人数(%) | 498(37.7) | 191(50.1) | |
オッズ比(95%信頼区間) | |||
Model 1* | 1(参照カテゴリ) | 1.44(1.13–1.83) | 0.003 |
Model 2† | 1(参照カテゴリ) | 1.39(1.09–1.78) | 0.007 |
Model 3‡ | 1(参照カテゴリ) | 1.37(1.08–1.76) | 0.01 |
Model 4§ | 1(参照カテゴリ) | 1.17(0.90–1.51) | 0.23 |
ビタミンD欠乏のオッズ比(95%信頼区間) | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
N | 血清中25(OH)D ng/mL濃度 (平均値±SD) | Model 1’* | p値 | Model 2’† | p値 | Model 3’‡ | p値 | Model 4’§ | p値 | ||
A事業所 | 日勤帯勤務者 | 727 | 21.6±5.24 | 1(参照カテゴリ) | 1(参照カテゴリ) | 1(参照カテゴリ) | 1(参照カテゴリ) | ||||
(2012年4月) | 夜勤・交代勤務者 | 202 | 20.7±5.40 | 1.35(0.97–1.87) | 0.07 | 1.34(0.96-1.87) | 0.09 | 1.33(0.95–1.87) | 0.10 | 1.14(0.81–1.63) | 0.45 |
B事業所 | 日勤帯勤務者 | 595 | 22.3±5.24 | 1(参照カテゴリ) | 1(参照カテゴリ) | 1(参照カテゴリ) | 1(参照カテゴリ) | ||||
(2013年5月) | 夜勤・交代勤務者 | 179 | 20.9±5.35 | 1.55(1.09–2.20) | 0.02 | 1.46(1.02-2.09) | 0.04 | 1.46(1.02–2.10) | 0.04 | 1.23(0.84–1.81) | 0.30 |
製造業の労働者を対象にした本疫学調査から,夜勤・交代勤務者は日勤帯勤務者と比べビタミンD欠乏が多いことが示された.この結果は最近の系統的レビュー6)の結果とも一致している.今回の調査では十分な対象者数を確保したことで,統計学的にも有意な関連を認めた.夜勤・交代勤務とビタミンD欠乏との関連は,潜在的な介在要因である余暇運動と喫煙を調整すると弱まった.事業所別の検討結果では,4月(気象庁によると当時の平均UV-B量 16.55 kJ/m2)に調査を実施したA事業所に比べて5月(当時の平均UV-B量 24.51 kJ/m2)に調査を実施したB事業所で交代勤務の有無によるビタミンD濃度の違いを認めた.5月には紫外線量増加に伴い日勤帯勤務者の血清中25(OH)D濃度が上昇する一方,夜勤・交代勤務者では日中の紫外線曝露機会が少ないため血清中25(OH)D濃度が上昇せず,その差が拡大した可能性がある.喫煙率に関してもA事業所:27.8%,B事業所:36.3%であり,喫煙率が高いB事業所の方が関連を強く認めていた.また3交代制勤務と比べ夜勤の多い2交代制勤務ではわずかであるがビタミンD欠乏の割合が多かった(表中にはデータを示していない).これらの結果より,夜勤・交代勤務がビタミンD欠乏を引き起こす機序として,夜勤・交代勤務によって紫外線曝露機会となる日中の屋外での余暇活動が少なくなることや13),血中25(OH)D濃度を低下させる喫煙を開始するリスクを高めること14,15)などが可能性として考えられた.
本研究にはいくつかの限界点がある.第一に,夜勤・交代勤務者と日勤帯勤務者の間で日光曝露量を正確に比較できていない.休日日数に違いはないため,休日の過ごし方による影響はあまりないと考えられるが,今後は勤務中や勤務時間以外の正確な日光曝露量を加味した検討が望まれる.第二に,本研究では週当たりの余暇運動量を評価しており,この値が高いほど,日光に曝露される機会は多いと考えられるが,運動実施場所を屋内と屋外を分けて評価できていない.第三に,血清中25(OH)D濃度測定手法のゴールドスタンダードは液体クロマトグラフィータンデム質量分析法であるが16),本研究ではCPBAで測定したため,ランダムな測定誤差に伴う誤分類により,交代勤務との関連は過小評価されている可能性がある.最後に,対象者が男性のみである.近年,女性の夜勤・交代勤務者が増加しているが,女性は美白やシミ・シワ対策として日焼け止めを常用している場合が多く,紫外線曝露量が男性よりもさらに少ないことが予想される.このため,本研究の結果が女性労働者にもあてはまるかはわからず,女性労働者での検証が必要である.
製造業の男性従業員を対象とした本研究において,夜勤・交代勤務者は日勤帯勤務者と比べてビタミンD欠乏の割合が高いことが明らかになった.また日勤帯勤務者においても約4割がビタミンD欠乏の状態であった.これは調査を春先に行ったため,冬季の日射量低下の影響を反映している可能性があるが,多くの労働者がビタミンDが充足していない状態にあることが疑われるため,ビタミンDに留意した生活指導は勤務形態に関わらず行う必要があろう.
利益相反自己申告:報告すべき利益相反はないが,著者である幸地勇氏,江口将史氏は参加企業の社員である.
資金提供:本研究は日本学術振興会(課題番号25293146,25702006),AMED(課題番号15ek0210021h0002),労働衛生会館,および上原記念生命科学財団から助成を受けた.