産業衛生学雑誌
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原著
日本人女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因,制度利用状況,期待する職場での研究テーマのニーズ:患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)の枠組みを用いたインターネット調査による横断研究
佐々木 那津津野 香奈美日高 結衣安藤 絵美子浅井 裕美櫻谷 あすか日野 亜弥子井上 嶺子今村 幸太郎渡辺 和広堤 明純川上 憲人
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2021 年 63 巻 6 号 p. 275-290

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抄録

目的:本研究では,医学研究における患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)の枠組みを用いて日本人女性労働者の就労上の悩みと期待する職場での研究を把握し,研究の課題発見と優先順位を決定する.対象と方法:日本の女性労働者を対象に,インターネット調査を利用した横断研究を行った.独自の調査票を用いて「女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因(身体症状,精神症状,月経の悩み,妊娠・出産の悩み,ワーク・ライフ・バランスなど)」,「女性労働者が活用できる制度の利用状況」,女性労働者が「期待する職場での研究テーマのニーズ」を尋ねた.「就労上課題となる生物心理社会的な要因」と「期待する職場での研究テーマのニーズ」は基本的属性(年齢,配偶者の有無,子どもの有無,未就学児同居の有無,勤務形態,職種)別にχ2 検定および残差分析を行い,また期待する職場での研究テーマとして頻度の高い4項目に関して症状の有無との関連をχ2 検定で検討した.調査は2019年7月に実施した.結果:本調査では416名から回答を得た.就労上課題となる生物心理社会的な要因として,なんらかの就労に支障がある症状を持つ者の割合は,身体症状(89%),月経に関する悩み(65%),精神症状(49%),ワーク・ライフ・バランスの悩み(39%),妊娠出産に伴うキャリアの悩み(38%)の順で多かった.制度利用の状況として,回答者本人の利用率は不妊治療連絡カード(0%),フレックスタイムやテレワーク(1~3%),生理休暇(4%),短時間勤務制度(8%)であった.期待する職場での研究は,「肩こりや腰痛をやわらげる研究」(45%),「女性のメンタルヘルスを向上させる研究」(41%),「月経と仕事のパフォーマンスに関する研究」(35%),「ワーク・ライフ・バランスを向上させる研究」(34%)の順に多かった.20代/30代・配偶者がいない・こどもがいない・フルタイム勤務という要因をもつ対象者では「メンタルヘルス」と「月経」に関する研究への期待が高かった.未就学児同居の対象者では「産後の精神的な支援」「産後の身体的な支援」「産後うつ予防」の研究への期待が有意に高かったが,「ワーク・ライフ・バランス」に関する研究への期待は有意差がなかった.月経の悩みやワーク・ライフ・バランスの課題を抱えていることと,それらの研究を期待することには有意な関連が見られたが,有症状者のうち介入を期待した者の割合はいずれも48%であった.男性労働者にも共通する心身の課題を除くと月経に関する悩みは最も頻度の高い女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因であった.考察と結論:就労上困難を感じる症状として月経に関連したものは頻度も高く,女性労働者の健康課題として婦人科に関連した心身の状態は今後研究の対象となることが期待された.しかし,悩みや困難を抱えていることと職場での研究を希望しているかどうかについては,個別の文脈で慎重に検討する必要があると考えられる.

Abstract

Objectives: This study aimed to investigate the work-related health and social problems among Japanese female workers and the expected research in the workplace. Method: A cross-sectional study using an Internet survey was conducted on female workers in Japan. Using an original questionnaire, we obtained data on “a system that can be used by female workers,” “female workers’ problems (physical symptoms, mental symptoms, menstrual problems, pregnancy/childbirth problems, work-life balance, etc.),” and “expected research in the workplace.” The last two were compared using the chi-square test and considering demographic characteristics (age, marital status, having children, having preschool children, employment status, occupation). We conducted the chi-square test to examine the relationship between the presence of symptoms and four expected studies. The survey was carried out in July 2019 by using a patient and public involvement (PPI) framework in medical research. Results: We obtained 416 responses that highlighted that those who have work-related problems also have physical symptoms (89%), menstrual problems (65%), psychiatric symptoms (49%), and work-life balance problems (39%), followed by career as well as pregnancy and childbirth concerns (38%). Regarding the system, the respondents’ usage rate was an infertility treatment communication card (0%), flextime and telework (1 to 3%), menstrual leave (4%), and short-time work system (8%). Expected workplace studies included “Research to ease stiff shoulders and back pain” (45%), “Research to improve women’s mental health” (41%), “Research on menstruation and work performance” (35%), and “Research to improve work-life balance” (34%). Expectations for research on “mental health” and “menstruation” were high among subjects in their 20s and 30s, with no spouse or children, and working full-time. Among those who lived with preschoolers, expectations for research on “mental support after childbirth,” “physical support after childbirth,” and “prevention of postpartum depression” were significantly higher, but research related to work-life balance was not remarkably different. There was a significant association between having menstrual problems, work-life balance challenges, and study expectations. However, the percentage of those experiencing certain symptoms who expected workplace studies was about 48%. Conclusions: Menstruation-related symptoms are frequently observed to make work difficult and it is expected that health issues, such as mental and physical conditions related to gynecology, will be the subject of future research regarding female workers. However, discrepancies between having difficulties and whether or not they wish to accept research in the workplace should be carefully considered in each context.

緒言

働く女性の健康や就業継続を困難にさせる職場の要因は,国内外で優先順位の高い社会課題として認識されている1.女性労働者の健康は,国際連合の「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」の3つの目標にも関連している(SDG3:「すべての人に健康と福祉を」,SDG5:「ジェンダー平等を実現しよう」,SDG8:「働きがいも経済成長も」)2,3,4.わが国では,「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)(2016年4月全面施行,2019年5月改正法成立)」が制定され,女性の社会参画が推進されるとともに,内閣府男女共同参画局が中心となった「女性活躍加速のための重点方針2019」5の中で就労女性の健康増進や就労環境を改善することが掲げられている.「男女雇用機会均等法」に,いわゆるマタニティハラスメント防止のため改正(2016年施行),セクシュアルハラスメント防止対策の強化等に係る改正(2019年5月成立)が加わり,「働き方改革関連法(2019年4月施行)」ではワーク・ライフ・バランスを重視した抜本的な変革を企業に求めており,女性労働者の働きやすい環境整備が進んできている.「育児・介護休業法」も,保育所に入れない場合等の育児休業期間の延長等を盛り込んだ改正(2018年10月)が施行されるなど,妊娠・出産期の女性労働者に対する制度整備も進んでいる.健康経営優良法人2019(大規模法人部門)認定基準[3.制度・施策実行]においても,「⑫女性の健康保持・増進に向けた取り組み」が項目に盛り込まれ,企業内の重要な取り組み課題として位置づけられた6

しかし,日本の女性労働者はいまだ様々な就労上の課題を抱えている.例えば,諸外国と比較して日本の非正規雇用者の賃金は低い7状況にある中で,非正規雇用者の68%を女性が占めている8.女性労働者の貧困やそれに伴う健康リスクは無視できない.また,第1子出産後の退職率は47%(2015年)であり,子育て期の女性労働者の就労継続には困難があると考えられる9.ワーク・ライフ・バランスに関連し,家事・育児・介護のため女性は職場以外にも家庭・地域など複数の領域で役割を担うことが多く,複数領域での多重的な役割に伴う対人ストレスが女性労働者のメンタルヘルスに影響を与える特徴的な要因の1つであるとされている1.男性と比較して,女性労働者のメンタルヘルスに特に影響する職場のストレス要因としてはハラスメント10,人間関係11,努力-報酬不均衡12などが指摘されており,職場の心理社会的要因が精神健康に与える影響の男女差も考慮する必要がある.生物学的性差に起因して,肩こり・腰痛などの作業関連運動器障害(Work-related Musculoskeletal Disorders)の有病率は,女性の方が男性よりも高いとされる13.VDT作業の多い事務職や,身体的負荷の高い医療・介護職種において女性労働者が占める割合は大きく14,筋骨格系症状の予防・対策は職場の課題となっている.15歳から49歳の日本人女性約2万人を対象とした調査では,全体の74%に月経随伴症状があると報告されており15,月経に関する就業上の困難も注目されている.また,妊娠・出産に関連する悩みとして,妊娠中の悪阻・切迫流産,出産後に復職した者のメンタルヘルス不調,搾乳に関する悩みなどは産業保健スタッフが考慮すべき事項と指摘されている16.しかしながら,女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因に関する年齢階級・婚姻状況・子供の有無・職種などを考慮した詳細は明らかでない.どのような女性労働者にどのような健康と就労の課題があるか特定することは,今後の介入に役立つ情報となる.また,すべての健康課題を包括的に解決することは困難であると想定されることから,優先順位を決定する上で当事者の意見を把握することは重要である.

職場での健康課題を解決するために,女性労働者の特性をふまえた介入の開発とその効果検証のための研究を推進することが有効であると考えられる.近年,研究対象者が主体的に研究のプロセスに参加することで,より有意義で実現可能性の高い研究成果を形成しようとする取り組みとして,医学研究における患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)が注目されている17,18.PPIは『研究者が研究を進める上で,患者・市民の知見を参考にすること』と定義され17,その対象には,患者のみならず,公衆衛生的介入によって影響を受ける可能性のある一般市民や研究されているトピックに関心を持つ個人も含まれる18.PPIでは,患者・市民の意向を考慮すべき局面を,STEP1 課題発見と優先順位の決定段階,STEP2 研究デザインの立案段階,STEP3 研究助成金の申請段階,STEP4 研究の実施期間中,STEP5 データの分析段階,STEP6 研究結果の普及段階,STEP7 社会実装段階,STEP8 維持と評価の8段階に分類している18,19.対象者は研究対象者としてではなく研究のパートナーとして積極的に参画し,対話を通じた意見交換が求められ,その方法は対面・書面を問わないとされる.PPIは当事者からの意見収集に基づき実現可能性の高い研究成果を得るために重要な医学研究の方法論であるが,PPIを導入してそれを報告した日本の研究はほとんどない.

本研究は,女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因と制度の利用状況,期待する職場での研究テーマのニーズに関する実態を把握し,より当事者のニーズに沿った介入研究の実施に役立てるために,当事者(女性労働者)の経験と意見を収集し研究計画の立案に活かすためPPIのSTEP1の枠組みを用いて,課題発見と優先順位を決定することを目的とした.また,女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因を年齢階級別・勤務形態別・職種別に検討し,集団属性ごとの特性を検討した.

対象と方法

1. PPIの方法

本研究ではSTEP 1(課題発見と優先順位の決定)のための方法として,文書による当事者からの意見収集を行うこととした.市民(女性労働者)が参加する方法として,多肢選択式のインターネット調査を利用した.PPIの一環で行われる研究であるため,PPIガイドライン17に従い,調査対象者に対し研究者が本調査の結果をどのように解釈し,活用していくかに関して研究者の所属研究室のホームページ上(http://plaza.umin.ac.jp/heart/)に調査結果を含めて情報を公開することを伝えた.課題発見と優先順位の決定方法は,PPIの枠組みでは多様な方法が認められているが,本研究においては日本人女性労働者での特有の課題と考えられるもの中で最も頻度の多いものを優先度が高いと判断することとした.

2. 調査研究のデザイン

本研究では日本の女性労働者を対象に,インターネット調査を利用した横断研究を行った.調査は2019年7月9日に実施された.参加者はインターネット調査会社の株式会社マクロミル登録パネル内で募集した.株式会社マクロミルは全国に1,000万人以上の登録パネルを有している.適格基準はパネル登録上の職業が専業主婦・学生・無職以外の就業女性とし,労働時間や職業(自営業を含む)の基準は設けなかった.日本の就業女性の母集団に近づけるため,雇用形態(正社員とそれ以外)×年齢4区分(20歳以上65歳以下の10歳階級)の8層からランダムに層別抽出した.具体的な割り付けは国民生活基礎調査の結果20を参照して,年齢4区分に対し各100名を雇用形態ごとに下記のように計画した.雇用形態は全年代を合わせて正社員45%・それ以外55%となるようにし,各年代では,20代(正社員65%,それ以外35%),30代(50%,50%),40代(40%,60%),50歳以上(25%,75%)とした.

3. 調査内容

本研究では基本属性とともに,(1)女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因,(2)職場での制度利用の状況,(3)期待する職場での研究テーマのニーズについて意見を収集した.本研究では,著者らが独自に開発した調査票を用いた.女性労働者が期待する職場での研究テーマに関するの項目を作成するにあたり,事前にMEDLINE(PubMed)において出版年を指定せず“working women” OR “female workers” OR “female employees”の検索語を用いて検索結果を無作為化比較試験に限定するフィルターを使用して検索を行い,検索された68編の論文のタイトル及び介入内容を参照した.介入内容は「身体活動を促進するための介入」,「メンタルヘルスや生産性を向上させる介入」,「筋骨格系症状の予防や治療の介入」,「月経・妊娠・出産・更年期障害等の女性特有の状況を改善させるための介入」,「そのほか」に分類された.これを基に産業医を含む産業保健研究者ら(NS, KT, YH, EA, YA, AS, AH, RI)で議論し,すべての質問項目と選択肢を生成した.

1) 基本的属性

女性労働者個人の基本的属性として,年齢(実数値),事業場規模(1,000人以上,500~999人,300~499人,100~299人,50~99人,50人未満),雇用形態(正社員,契約社員,派遣社員,パートタイム労働者,その他),勤務形態(フルタイム勤務,短時間勤務,パートタイム勤務,その他),職種(課長職相当以上の管理職,専門・技術職,事務職,製造組立,運転,肉体労働などの現場職,営業・販売職,その他),最終学歴,配偶者の有無,妊娠歴の有無,同居家族の情報,未就学児がいる場合は子育て分担者の有無を収集した.

2) 女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因

「働く女性の悩みとして具体的に多いと考えられるものを挙げています.ご自身の悩みに近いものをいくつでも選択してください.」と質問し,女性の特有の悩みを下記10分類にわけ,それぞれ複数の具体例を提示し,該当するものを選択するよう求めた.回答は複数選択可とした.

① 月経(例:生理前の症状が仕事中もつらい),② 閉経(例:更年期障害の症状で仕事中もつらい),③ 不妊治療(例:不妊治療に通院するためのスケジュール調整が難しい),④ 妊娠(例:妊婦に特有の症状(坐骨神経痛やこむらがえりなど)で仕事に支障が出る,⑤ 出産後の体調(例:出産後,集中力や仕事のパフォーマンスが低下する),⑥ 妊娠・出産に関連するキャリアの悩み(例:産前産後休業で,キャリアが分断する),⑦ ワーク・ライフ・バランス(例:育児/家事/介護により短い時間しか働けない[時短勤務やパートタイム勤務など]),⑧ 性差の悩み(例:男性に比べて,昇進の機会が少ない),⑨ 身体的な症状(例:疲れやすい,疲れがとれない),⑩ 精神的な症状(例:仕事に支障が出るほど不安や緊張が強いと感じる),そのほか(自由記載).このうち,④ 妊娠と⑤ 出産後の体調に関しては,妊娠歴のある者のみを対象に回答を求めた.

3) 職場での制度利用の状況

「下記のそれぞれの制度を,あなた自身もしくは職場の人が利用したことがあるか教えてください.(それぞれいくつでも)」と質問し,「自分自身が利用した」「同じ職場の人が利用していた」「社内に制度はあるが利用している人を知らない」「制度自体が会社に存在しない」「職場にこの制度があるかわからない/どんな制度だか知らない」で回答を求めた.最後の選択肢を選んだ場合以外では,複数回答可とした.利用状況を尋ねた制度は,不妊治療連絡カード,母子健康管理指導事項連絡カード,生理休暇,産前・産後休業,育児休業制度,子の看護休暇,育児時間(授乳時間),フレックスタイム制度,短時間勤務制度,テレワークとした.

4) 期待する職場での研究テーマのニーズ

「現在,世界中で『働く女性の課題を解決するための研究』が行われています.そのような研究の結果の中で,特に結果が知りたいと思う研究はどのようなものですか?あなたのお気持ちに近いものをいくつでも選択してください.(いくつでも)」と質問し,それぞれの項目について回答を求めた.回答選択肢は,「肩こりや腰痛をやわらげる研究」「骨粗鬆症や骨折を予防する研究」「運動をうながす研究」「月経と仕事のパフォーマンスに関する研究」「更年期障害と仕事のパフォーマンスに関する研究」「不妊治療と仕事の両立を促す研究」「女性のメンタルヘルスを向上させる研究」「マタニティブルーや産後うつを予防する研究」「産休・育休後の復職率を高める研究」「産後職場復帰をした女性の精神的なサポートをする研究」「産後職場復帰をした女性の身体的なサポートをする研究(職場復帰後の母乳に関する支援など)」「ワーク・ライフ・バランスを向上させる研究」「女性のキャリアを促進する研究」「そのほか(自由記述)」とした.

4. 解析方法

「就労上課題となる生物心理社会的な要因」「期待する職場での研究テーマのニーズ」は基本的属性(年齢,配偶者の有無,子どもの有無,未就学児同居の有無,勤務形態,職種)別にχ2 検定および残差分析を行った.「職場での制度利用の状況」は妊娠歴のある者,未就学児と同居している者に限定して解析を行った.最終的に,頻度の高いと考えられた「就労上課題となる生物心理社会的な要因」(肩こり・腰痛,月経の悩み,精神的症状,ワーク・ライフ・バランスの悩み)への回答とそれに対応する「期待する職場での研究テーマのニーズ」(肩こりや腰痛をやわらげる研究,月経と仕事のパフォーマンスに関する研究,女性のメンタルヘルスを向上させる研究,ワーク・ライフ・バランスを向上させる研究)の関連をχ2 検定および残差分析で検討した.統計解析ソフトはIBM SPSS Statistic ver. 26を用いた.

5. 倫理的配慮

本研究は東京大学大学院医学系研究科の倫理委員会の承認を得て実施した(No. 2953-(5)).インターネット調査の実施に当たり,回答前に調査画面で研究説明を行い,調査回答の同意を得た.その際,調査で得られた情報は個人を特定できない形でしか表示されないことや,調査の目的以外にはデータを使用しないことを明記した.研究協力者にはインターネット調査会社よりポイントが付与された.

結果

1. 回答者数と属性

本調査では416名から回答を得た.調査項目すべてを必須回答としたインターネット調査のため欠損値は生じておらず,回収した全データを解析対象とした.基本属性を表1に示す.回答者の平均年齢は,40.2歳(標準偏差11.2)であった.回答者のうちフルタイム勤務の者が約6割であり,職種は事務職が最多であった.配偶者のいる者が55%であり,妊娠歴のある者は52%であった.

表1. 対象者の基本属性(N=416)
N(%)
職種
(n=416)
管理職(課長職相当以上)5(1.2)
専門・技術職81(19.5)
事務職176(42.3)
現場職(製造組立,運転,肉体労働など)52(12.5)
営業・販売職98(23.6)
その他4(1.0)
勤務形態
(n=416)
フルタイム勤務243(58.4)
短時間勤務(パートタイム含む)167(40.1)
非常勤3(0.7)
その他3(0.7)
事業場規模
(n=416)
1,000人以上123(29.6)
500~999人30(7.2)
300~499人36(8.7)
100~299人49(11.8)
50~99人44(10.6)
50人未満134(32.2)
最終学歴
(n=416)
中学・高校卒業117(28.1)
短大・専門学校卒業151(36.3)
大学卒業139(33.4)
大学院卒業9(2.2)
配偶者
(n=416)
あり(事実婚含む)229(55.0)
なし187(45.0)
妊娠歴
(n=416)
あり216(51.9)
なし200(48.1)
同居家族
(n=416)
子ども(未就学児)52(12.5)
子ども(小学生以上)121(29.1)
配偶者・パートナー219(52.6)
自分の親97(23.3)
義理の親9(2.2)
その他5(1.2)
一人暮らし59(14.2)
その他の親族23(5.5)
未就学児子育て分担者
(n=52)
子育てを分担してくれる人はいない6(11.5)
配偶者・パートナー43(82.7)
自分の親14(26.9)
義理の親2(0.5)
その他1(0.2)

2. 女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因

2-1. 全体での解析

女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因を表2に示した.就労上の悩みとして,なんらかの課題を抱える者は393名(94.5%)であった.それぞれの分類ごとに「悩みはない」と回答した者を除くと,なんらかの就労に支障がある症状を持つ者の割合は,身体症状(89%),月経に関する悩み(65%),精神症状(49%),ワーク・ライフ・バランスの悩み(39%),妊娠出産に伴うキャリアの悩み(38%)の順で多かった.妊娠歴のある女性労働者に限って妊娠中や出産後の体調に関して尋ねた項目では,妊娠中の集中力やパフォーマンス(21%),出産後の体力の低下(18%)が最も多かった(表3).

表2. 女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因(n=416)
項目n%項目n%
身体症状疲れやすい,疲れがとれない27566.1精神症状ネガティブな考えや気持ちでいっぱいになる14635.1
肩こりや腰痛がある26563.7怒りが抑えられず感情的になってしまう9121.9
頭痛がある14033.7仕事に支障が出るほど不安や緊張が強いと感じる6615.9
なかなか眠れない,または途中で起きたり早く目覚める13632.7その他41
腹痛・下痢・便秘などの消化器系の症状がある12730.5精神的な症状(不安感,うつうつとした気持ちなど)の悩みはない21451.4
食欲がない,または過食である5613.5更年期更年期障害に関連すると思われる気分の波がつらい4811.5
吐き気・嘔吐がある163.8更年期障害の症状で仕事中もつらい286.7
その他71.7更年期症状のために,休職や退職をしたいと考えたことがある30.7
身体的な症状(疲労,肩こり,腰痛など)の悩みはない4811.5その他20.5
月経生理痛や生理期間中のその他の症状が仕事中もつらい16639.9閉経に関する精神的もしくは身体的な悩みはない35084.1
生理周期に合わせて気分の波があることがつらい16439.4不妊不妊治療に通院するためのスケジュール調整が難しい327.7
生理前の症状が仕事中もつらい9723.3上司や同僚に不妊治療のことを言いづらい327.7
生理用品の準備や対処に困ったことがある7618.3不妊治療のために仕事を休んだりすることで上司や同僚から悪く言われる131
生理中だと行えない業務がある133.1その他41
その他41妊活や不妊治療に関する精神的もしくは身体的な悩みはない36688
生理に関する精神的もしくは身体的な悩みはない14434.6WLB育児/家事/介護により短い時間しか働けない(時短勤務やパートタイム勤務など)13332
キャリア男性に比べて雇用形態が不安定になりやすい9723.3終業後の飲み会や親睦会に行けず,それが仕事の幅を狭めている358.4
産前産後休業で,キャリアが分断する7317.5その他143.4
出産や結婚を機に退職を選択する(迫られる)ことがある7016.8ワーク・ライフ・バランスに関する精神的もしくは身体的な悩みはない25661.5
キャリア形成に時間がかかる4410.6
その他10.2
妊娠・出産に関連するキャリアの悩みはない25862
†  WLB:ワーク・ライフ・バランス

表3. 妊娠歴のある女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因(n=216)
項目n%項目n%
妊娠中妊娠してから集中力や仕事のパフォーマンスが低下する4621.3出産後体力が低下し,仕事に支障が出る3918.1
妊娠中のトラブル(悪阻や高血圧,高血糖など)で仕事を休まなくてはいけないことがある4420.4出産後,集中力や仕事のパフォーマンスが低下する3415.7
妊婦に特有の症状(坐骨神経痛やこむらがえりなど)で仕事に支障が出る3114.4母乳に関する悩み(乳房の張りや乳腺炎など)で仕事中もつらい2712.5
その他41.9産後の月経のトラブルで仕事に支障が出る73.2
妊娠に関する精神的もしくは身体的な悩みはない14567.1その他41.9
出産後の体調に関する精神的もしくは身体的な悩みはない15270.4

2-2. 層別解析

身体症状に関する就労上の悩みを年代別・勤務形態別・職種別に層別解析した結果を表4に示す.年代で見ると,20代・30代の若年女性労働者では疲労感や消化器症状が多く,50歳以上では疲労感・頭痛・消化器症状は有意に少なかった.配偶者や子どもの有無で見ると,配偶者のいない人のほうが,いる人と比べて消化器症状・食欲異常(食欲不振・過食)・不眠で悩む人が多かった一方で,子どもがいる人は頭痛・消化器症状が少なかった(表5).同様に,未就学児と同居している人では身体症状に関する悩みが少なかった.職種や勤務形態で見ると,フルタイム勤務の人では消化器症状・不眠に関する悩みが多く,専門・技術職では疲労感・肩こり/腰痛・頭痛が他の職種に比べて有意に多かった.精神症状に関する就労上の悩みの層別解析の結果(表4)では,30代で怒りとネガティブ思考が他の年代よりも多かった.不安・緊張に年代間の差はなく,精神症状の悩みがないと回答した者の数は若年層(20代・30代)で少なく中年層(40代以上)で多い傾向があったが,有意ではなかった.子どもの有無で見ると,子どもがいない人ではネガティブ思考が有意に多かった一方で,未就学児と同居している人では同居していない人と比べて精神症状の悩みはないと回答した者は有意に少なく,なんらかの症状がある人が多い傾向にあり,特に怒りは有意に多い悩みであった(表5).

表4. 女性労働者の年齢階級,勤務形態,および職種と身体的・精神的症状に関する悩みとの関連(N=416)
年齢階級勤務形態職種
20代
(N=104)
30代
(N=104)
40代
(N=104)
50歳以上
(N=104)
フルタイム
(N=243)
それ以外
(N=173)
管理職
(N=5)
専門・
技術職
(N=81)
事務職
(N=176)
現場職
(N=52)
営業・
販売職
(N=98)
その他
(N=4)
n(%)n(%)n(%)n(%)pn(%)n(%)pn(%)n(%)n(%)n(%)n(%)n(%)p
身体的症状
疲労感あり73(70)77(74)67(64)58(56).032165(68)110(64).3591(20)62(77)117(66)28(54)65(66)2(50).027
なし31(30)27(26)37(36)46(44)78(32)63(36)4(80)19(23)59(34)24(46)33(34)2(50)
肩こり
腰痛
あり68(65)71(68)60(58)66(63).441149(61)116(67).2312(40)65(80)103(59)34(65)58(59)3(75).016
なし36(35)33(32)44(42)38(38)94(39)57(33)3(60)16(20)73(41)18(35)40(41)1(25)
頭痛あり42(40)43(41)34(33)21(20).00486(35)54(31).3741(20)39(48)56(32)10(19)33(34)1(25).021
なし62(60)61(59)70(67)83(80)157(65)119(69)4(80)42(52)120(68)42(81)65(66)3(75)
消化器症状あり45(43)34(33)30(29)18(17).00185(35)42(24).0192(40)29(36)50(28)10(19)36(37)0(0).140
なし59(57)70(67)74(71)86(83)158(65)131(76)3(60)52(64)126(72)42(81)62(63)4(100)
食欲異常あり17(16)16(15)19(18)4(4).01036(15)20(12).3381(20)15(19)23(13)2(4)15(15)0(0).219
なし87(84)88(85)85(82)100(96)207(85)153(88)4(80)66(81)153(87)50(96)83(85)4(100)
嘔気・嘔吐あり6(6)5(5)4(4)1(1).30312(5)4(2).1700(0)3(4)8(5)0(0)5(5)0(0).685
なし98(98)99(95)100(96)103(99)231(95)169(98)5(100)78(96)168(95)52(100)93(95)4(100)
不眠あり44(42)35(34)29(28)28(27).06989(37)47(27).0430(0)36(44)52(30)14(27)32(33)2(50).086
なし6069(66)75(72)76(73)154(63)126(73)5(100)45(56)124(70)38(73)66(67)2(50)
悩みなしあり8(8)10(10)15(14)15(14).16628(12)20(12).9901(20)4(5)25(14)9(17)9(9)0(0).169
なし96(92)94(90)89(86)89(86)215(88)153(88)4(80)77(95)151(86)43(83)89(91)4(100)
精神的症状
不安・緊張あり21(20)22(21)13(13)10(10).05642(17)24(14).3482(40)15(19)22(13)3(6)24(24)0(0).014
なし83(80)82(79)91(88)94(90)201(83)149(86)3(60)66(81)154(88)49(94)74(76)4(100)
怒りあり28(27)32(31)20(19)11(11).00263(26)28(16).0181(20)26(32)34(19)6(12)24(24)0(0).065
なし76(73)72(69)84(81)93(89)180(74)145(84)4(80)55(68)142(81)46(88)74(76)4(100)
ネガティブ
思考
あり44(42)49(47)24(23)29(28)<.00191(37)55(32).2331(20)30(37)57(32)16(31)41(42)1(25).584
なし60(58)55(53)80(77)75(72)152(63)118(68)4(80)51(63)119(68)36(69)57(58)3(75)
悩みなしあり47(45)39(38)64(62)64(62)<.001119(49)95(55).2323(60)40(49)95(54)33(63)40(41)3(75).107
なし57(55)65(63)40(38)40(38)124(51)78(45)2(40)41(51)81(46)19(37)58(59)1(25)
∫:  課長以上

脚注1:p値はχ2 検定により算出した

脚注2:太字は残差分析において調整済み標準残差(Z)の絶対値が1.96より大きかったもの

表5. 女性労働者の配偶者,子ども,および未就学児同居の有無と身体的・精神的症状に関する悩みとの関連(N=416)
配偶者子の有無未就学児同居
あり
(N=229)
なし
(N=187)
あり
(N=193)
なし
(N=223)
あり
(N=52)
なし
(N=364)
n(%)n(%)pn(%)n(%)pn(%)n(%)p
身体的症状
疲労感あり160(70)115(61).073127(66)148(66).90345(87)230(63).001
なし59(26)72(39)66(34)75(34)7(13)134(37)
肩こり・腰痛あり144(63)121(65).700123(64)142(64).99135(67)230(63).563
なし85(37)66(35)70(36)81(36)17(33)134(37)
頭痛あり73(32)67(36).39654(28)86(39).02321(40)119(33).272
なし156(68)120(64)139(72)137(61)31(60)245(67)
消化器症状あり59(26)68(36).02048(25)79(35).02014(27)113(31).546
なし170(74)119(64)145(75)144(65)38(73)251(69)
食欲異常あり23(10)33(18).02423(12)33(15).3919(17)47(13).385
なし206(90)154(82)170(88)190(85)43(83)317(87)
嘔気・嘔吐あり5(2)11(6).0514(2)12(5).0803(6)13(4).441
なし224(98)176(94)189(98)211(95)49(94)351(96)
不眠あり65(28)71(38).03859(31)77(35).39123(44)113(31).058
なし164(72)116(62)134(69)146(65)29(56)251(69)
悩みなしあり21(9)27(14).09418(9)30(13).1891(2)47(13).020
なし208(91)160(86)175(91)193(87)51(98)317(87)
精神的症状
不安・緊張あり33(14)33(18).36928(15)38(17).48110(19)56(15).478
なし196(86)154(82)165(85)185(83)42(81)308(85)
怒りあり47(21)44(24).46140(21)51(23).59819(37)72(20).006
なし182(79)143(76)153(79)172(77)33(63)292(80)
ネガティブ
思考
あり72(31)74(40).08455(28)91(41).00917(33)129(35).698
なし157(69)113(60)138(72)132(59)35(67)235(65)
悩みなしあり119(52)95(51).813104(54)110(49).35419(37)195(54).022
なし110(48)92(49)89(46)113(51)33(63)169(46)
∬:  事実婚を含む

脚注1:p値はχ2 検定により算出した

脚注2:太字は残差分析において調整済み標準残差(Z)の絶対値が1.96より大きかったもの

3. 職場での制度利用の状況

自身の職場における制度利用の状況を尋ねた結果を表6に示す.全回答者の中で,不妊治療連絡カードの利用率は0%,生理休暇の利用率は4%であった.多様な働き方に関する制度の中で,フレックスタイムやテレワークの利用率は1~3%,短時間勤務制度の利用率は8%であった.未就学児と同居している女性労働者に限定して見ると,子の看護休暇の利用率は16%であった.直近で制度利用があった可能性が高いと思われる,未就学児と同居しているフルタイム勤務の女性(n=24)に限って制度利用状況をみると,産前・産後休業で17人(71%),育児休業制度で16人(67%),育児時間で3人(13%)であった.

表6. 職場での制度利用の状況(N=416)
自分自身が利用した同じ職場の人が利用していた社内に制度はあるが利用している人を知らない制度自体が会社に存在しない職場にこの制度があるかわからない/どんな制度だか知らない
不妊治療連絡
カード
全体(n=416)0(0%)1(0.2%)4(1%)98(24%)313(75%)
妊娠歴あり(n=216)0(0%)1(0.5%)3(1%)52(24%)160(74%)
未就学児同居(n=51)0(0%)0(0%)0(0%)9(18%)42(82%)
母子健康管理
指導事項連絡
カード
全体(n=416)8(2%)3(0.7%)12(3%)93(22%)300(72%)
妊娠歴あり(n=216)8(4%)0(0%)9(4%)52(24%)147(68%)
未就学児同居(n=51)3(6%)0(0%)7(14%)12(24%)29(57%)
生理休暇全体(n=416)18(4%)16(4%)114(27%)149(36%)119(29%)
妊娠歴あり(n=216)13(6%)11(5%)51(24%)78(36%)63(29%)
未就学児同居(n=51)3(6%)2(4%)14(28%)19(37%)13(26%)
産前・産後
休業制度
全体(n=416)47(11%)155(37%)60(14%)52(13%)102(25%)
妊娠歴あり(n=216)46(21%)57(26%)33(15%)29(13%)51(24%)
未就学児同居(n=51)24(47%)6(12%)12(24%)4(8%)5(10%)
育児休業制度全体(n=416)41(10%)150(36%)57(14%)64(15%)104(25%)
妊娠歴あり(n=216)40(19%)54(25%)33(15%)35(16%)54(25%)
未就学児同居(n=51)24(47%)5(10%)12(24%)5(10%)5(10%)
子の看護休暇全体(n=416)14(3%)64(15%)48(12%)91(22%)199(48%)
妊娠歴あり(n=216)14(7%)25(12%)29(13%)53(25%)95(44%)
未就学児同居(n=51)8(16%)8(16%)9(18%)8(16%)18(35%)
育児時間
(授乳時間)
全体(n=416)6(1%)18(4%)37(9%)126(30%)229(55%)
妊娠歴あり(n=216)6(3%)8(4%)24(11%)74(34%)104(48%)
未就学児同居(n=51)3(6%)0(0%)9(18%)18(35%)21(41%)
フレックス
タイム制度
全体(n=416)14(3%)31(8%)31(8%)183(44%)157(38%)
妊娠歴あり(n=216)6(3%)13(6%)18(8%)104(48%)75(35%)
未就学児同居(n=51)1(2%)1(2%)2(4%)25(50%)22(43%)
短時間勤務
制度
全体(n=416)34(8%)131(32%)47(11%)93(22%)111(27%)
妊娠歴あり(n=216)21(10%)61(28%)27(13%)54(25%)53(25%)
未就学児同居(n=51)9(18%)16(31%)12(24%)7(14%)7(14%)
テレワーク全体(n=416)5(1%)9(2%)10(2%)180(43%)212(51%)
妊娠歴あり(n=216)3(1%)5(2%)4(2%)95(44%)109(51%)
未就学児同居(n=51)1(2%)1(2%)0(0%)19(37%)30(59%)

4. 期待する職場での研究テーマのニーズ

4-1. 全体での解析

女性労働者が結果を知りたいと期待する職場での研究は,「肩こりや腰痛をやわらげる研究」(45%),「女性のメンタルヘルスを向上させる研究」(41%),「月経と仕事のパフォーマンスに関する研究」(35%),「ワーク・ライフ・バランスを向上させる研究」(34%)の順に多かった(図1).

図1.

女性労働者が期待する職場での介入研究

4-2. 層別解析

女性労働者が結果を知りたいと期待する職場での研究の層別解析の結果を表7表8に示す.年代別では,20代・30代の若年女性労働者で,「月経」「メンタルヘルス」に関する職場での研究に対する関心が有意に高かった.妊娠・出産に関連する「育休復帰」「産後の精神的・身体的支援」「不妊治療」「産後うつ予防」への関心も,20代・30代の若年女性労働者で有意に高かった.配偶者なし・子どもなしの人は,それぞれありの人と比較して有意に「月経」「メンタルヘルス」研究への期待が高かった.未就学児同居の有無で「メンタルヘルス」「ワーク・ライフ・バランス」研究への期待に差はなかったが,未就学児同居ありの人では出産後のサポートに関連する研究への期待が有意に高かった.フルタイム勤務の人はそれ以外の人と比較して有意に「月経」「メンタルヘルス」「不妊治療」のテーマへの期待が高かった.その一方で,職種による差はみられなかった.期待する職場での研究テーマとして多かった上位4項目(肩こり,メンタルヘルス,月経,ワーク・ライフ・バランス)と,それらに関する就労上の困難の有無との関連を検討すると,そのテーマに関してなんらかの困難のある人ほど有意にその研究テーマを期待していた(肩こり:χ2(1)=52.1, p<.001メンタルヘルス:χ2(1)=23.8, p<.001月経:χ2(1)=60.3, p<.001ワーク・ライフ・バランス:χ2(1)=22.3, p<.001).身体症状として「肩こりや腰痛がある」と回答した265人中,155人(58.5%)が「肩こり」研究を期待していた.同様に精神症状と「メンタルヘルス」研究,月経関連症状と「月経」,「ワーク・ライフ・バランス」の悩みと研究への期待については,精神症状:202人のうち108人(53.5%),月経:272人のうち130人(47.8%),ワーク・ライフ・バランス:160人中76人(47.5%)で研究への期待があった.これら4項目の間で研究を期待する割合に差があるか,肩こりを比較群として有症状者のみを対象としたχ二乗検定で検討したところ有意な差はなかった(精神症状:χ2(1)=0.99, p=.32,月経:χ2(1)=0.74, p=.39,ワーク・ライフ・バランス:χ2(1)=0.02, p=.88).

表7. 女性労働者の年齢階級,勤務形態,および職種と期待する職場での研究テーマのニーズの関連(N=416)
年齢階級勤務形態職種
20代
(N=104)
30代
(N=104)
40代
(N=104)
50歳以上
(N=104)
フルタイム
(N=243)
それ以外
(N=173)
管理職
(N=5)
専門・
技術職
(N=81)
事務職
(N=176)
現場職
(N=52)
営業・
販売職
(N=98)
その他
(N=4)
n(%)n(%)n(%)n(%)pn(%)n(%)pn(%)n(%)n(%)n(%)n(%)n(%)p
肩こり
腰痛
はい53(51)51(49)32(31)52(50).008110(45)78(45).9711(20)40(49)82(47)24(46)38(39)3(75).406
いいえ51(49)53(51)72(69)52(50)133(55)95(55)4(80)41(51)94(53)28(54)60(61)1(25)
メンタルはい56(54)54(52)38(37)24(23)<.001115(47)57(33).0032(40)40(49)75(43)15(29)39(40)1(25).290
いいえ48(46)50(48)66(63)80(77)128(53)116(67)3(60)41(51)101(57)37(71)59(60)3(75)
月経はい56(54)46(44)31(30)11(11)<.001106(44)38(22)<.0013(60)31(38)62(35)9(17)38(39)1(25).083
いいえ48(46)58(56)73(70)93(89)137(56)135(78)2(40)50(62)114(65)43(83)60(61)3(75)
WLBはい43(41)41(39)28(27)28(27).03684(35)56(32).6403(60)35(43)55(31)13(25)33(34)1(25).206
いいえ61(59)63(61)76(73)76(73)159(65)117(68)2(40)46(57)121(69)39(75)65(66)3(75)
更年期はい11(11)14(13)40(38)28(27)<.00156(23)37(21).6892(40)21(26)42(24)9(17)18(18)1(25).639
いいえ93(89)90(87)64(62)76(73)187(77)136(79)3(60)60(74)134(76)43(83)80(82)3(75)
キャリアはい20(19)29(28)17(16)10(10).00754(22)22(13).0132(40)18(22)29(16)9(17)18(18)0(0).588
いいえ84(81)75(72)87(84)94(90)189(78)151(87)3(60)63(78)147(84)43(83)80(82)4(100)
産後
精神支援
はい25(24)31(30)7(7)10(10)<.00154(22)19(11).0030(0)16(20)34(19)4(8)18(18)1(25).368
いいえ79(76)73(70)97(93)94(90)189(78)154(89)5(100)65(80)142(81)48(92)80(82)3(75)
育休復帰はい28(27)33(32)4(4)4(4)<.00151(21)18(10).0040(0)17(21)34(19)6(12)12(12)0(0).290
いいえ76(73)71(68)100(96)100(96)192(79)155(90)5(100)64(79)142(81)46(88)86(88)4(100)
骨折予防はい11(11)10(10)16(15)31(30)<.00139(16)29(17).8462(40)12(15)35(20)9(17)9(9)1(25).172
いいえ93(89)94(90)88(85)73(70)204(84)144(83)3(60)69(85)141(80)43(83)89(91)3(75)
産後
うつ予防
はい28(27)24(23)7(7)5(5)<.00142(17)22(13).2031(20)18(22)21(12)6(12)18(18)0(0).253
いいえ76(73)80(77)97(93)99(95)201(83)151(87)4(80)63(78)155(88)46(88)80(82)4(100)
産後
身体支援
はい24(23)24(23)7(7)6(6)<.00146(19)17(10).0111(20)18(22)27(15)4(8)12(12)1(25).265
いいえ80(77)80(77)97(93)96(92)197(81)156(90)4(80)63(78)149(85)48(92)86(88)3(75)
運動促進はい15(14)12(12)18(17)13(13).64132(13)26(15).5890(0)15(19)24(14)5(10)14(14)0(0).592
いいえ89(86)92(88)86(83)91(88)211(87)147(85)5(100)66(81)152(86)47(90)84(86)4(100)
不妊治療はい18(17)23(22)3(3)3(3)<.00136(15)11(6).0070(0)16(20)18(10)3(6)10(10)0(0).116
いいえ86(83)81(78)101(97)101(97)207(85)162(94)5(100)65(80)158(90)49(94)88(90)4(100)
∫:  課長以上

†WLB:  ワーク・ライフ・バランス

脚注1:p値はχ2 検定により算出した

脚注2:太字は残差分析において調整済み標準残差(Z)の絶対値が1.96より大きかったもの

表8. 女性労働者の配偶者,子ども,および未就学児同居の有無と期待する職場での研究テーマのニーズの関連(N=416)
配偶者子の有無未就学児同居
あり
(N=229)
なし
(N=187)
あり
(N=193)
なし
(N=223)
あり
(N=52)
なし
(N=364)
n(%)n(%)pn(%)n(%)pn(%)n(%)p
肩こり
腰痛
はい100(44)88(47).48986(45)102(46).80929(56)159(44).101
いいえ129(56)99(53)107(55)121(54)23(44)205(56)
メンタルはい77(34)95(51)<.00164(33)108(48).00224(46)148(41).452
いいえ152(66)92(49)129(67)115(52)28(54)216(59)
月経はい68(30)76(41).02046(24)98(44)<.00120(38)124(34).533
いいえ161(70)111(59)147(76)125(56)32(62)240(66)
WLBはい80(35)60(32).54160(31)80(36).30323(44)117(32).084
いいえ149(65)127(68)133(69)143(64)29(56)247(68)
更年期はい57(25)36(19).17048(25)45(20).2526(12)87(24).045
いいえ172(75)151(81)145(75)178(80)46(88)277(76)
キャリアはい39(17)37(20).46932(17)44(20).40711(21)65(18).565
いいえ190(83)150(80)161(83)179(80)41(79)299(82)
産後
精神支援
はい49(21)24(13).02233(17)40(18).82320(38)53(15)<.001
いいえ180(79)163(87)160(83)183(82)32(62)311(85)
育休復帰はい49(21)20(11).00432(17)37(17).99722(42)47(13)<.001
いいえ180(79)167(89)161(83)186(83)30(58)317(87)
骨折予防はい33(14)35(19).23732(17)36(16).9042(4)66(18).009
いいえ196(86)152(81)161(83)187(84)50(96)298(82)
産後
うつ予防
はい46(20)18(10).00328(15)36(18).64521(40)43(12)<.001
いいえ183(80)169(90)165(85)187(82)31(60)321(88)
産後
身体支援
はい41(18)22(12).08233(17)40(18).54118(35)45(12)<.001
いいえ188(82)165(88)160(83)183(82)34(65)319(88)
運動促進はい29(13)29(16).40525(13)33(15).5887(13)51(14).915
いいえ200(87)158(84)168(87)190(85)45(87)313(86)
不妊治療はい30(13)17(9).1998(4)39(17)<.0016(12)41(11).953
いいえ199(87)170(91)185(96)184(83)46(88)323(89)
∬:  事実婚を含む

†WLB:  ワーク・ライフ・バランス

脚注1:p値はχ2 検定により算出した

脚注2:太字は残差分析において調整済み標準残差(Z)の絶対値が1.96より大きかったもの

5. PPIとしての結果(課題発見と優先順位の決定)

なんらかの就労上課題となる生物心理社会的な要因を抱える女性労働者は94.5%で,要因別では身体症状(89%),月経に関する悩み(65%),精神症状(49%)の順で多く,男性労働者にも共通する心身の課題を除くと月経に関する悩みは最も頻度の高い女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因であった.月経に悩みのある人では,職場での研究として「月経」のテーマへの期待は高く,その期待の度合いは他の症状やテーマと差がなかった.以上より,「月経」は当事者の抱える課題としての優先度は高く,職場での研究の立案にあたり受け入れられやすさの予測は他のテーマより劣らないと考えられ,本研究のPPIとして「月経」に着目するという結果を得た.著者らは本PPIの結果から研究デザインを立案し,職場の心理社会的要因と月経関連症状の関連を検討する系統的レビューを実施する予定とした.

考察

本研究の結果より,身体症状(疲労感,筋骨格系症状,頭痛,不眠),月経に関する悩み,精神症状は就労上課題となる女性労働者の悩みとして頻度が高いことが示された.期待する職場での研究テーマとしては,「20代」・「30代」・「配偶者がいない」・「こどもがいない」・「フルタイム勤務」の属性を持つ女性労働者で,「月経」および「メンタルヘルス」に関する関心が高かった.ただし,いずれのテーマにおいても,有症状者であっても職場での研究テーマとして期待する者の割合は50%程度であり,女性労働者のニーズを反映させた研究を立案する際にはPPIに基づくより詳細な検討が必要と考えられる.

1) 女性労働者の就労上課題となる生物心理社会的な要因

就労上課題となる生物心理社会的な要因としては身体症状,月経に関する悩み,精神症状の頻度が高かった.身体症状としては疲労感(66%),筋骨格系症状(64%),頭痛(34%)についで不眠症状があるとした人が33%と多くなっている.職業性ストレス簡易調査票の女性素点換算表のデータによると,疲労感が「普通/やや高い/高い」に該当する女性労働者は70.6%,筋骨格系症状や頭痛を含む身体愁訴では68.1%と高い割合が報告されており21,本調査の傾向と一致する.男性ではそれぞれ78,1%,63.8%となっており,疲労や身体愁訴は男女とも有訴率の高い健康課題であることがうかがえる.男女差の観点では,不眠の訴えは女性で多いことが知られている.国際的な疫学調査のメタ解析では,女性で不眠の頻度が高いことが示されており22,一般地域住民を対象とした日本の研究でも不眠の有症率は男性で17.3%,女性で21.5%と報告されている23.今回の調査では,就労上困難を感じる不眠の頻度がそれを大きく上回っており,今後留意すべき女性労働者の健康課題である可能性がある.

また,月経に関する就労上の課題は,20代~40代の者に限ると79.2%(結果非表示)の女性がなんらかの悩みを抱えていた.18歳~49歳のフルタイムの就労女性2,000名を対象とした働く女性の健康増進調査(2018)では,月経前症候群(PMS)や月経随伴症状などの婦人科系基礎疾患をもつ(自己申告)割合は24.1%と報告されているが24,診断や治療を受けていないが仕事に影響する症状をもつ女性労働者はさらに多いことが想定される.また,同研究では,女性の健康に関するリテラシーの高さは,仕事のパフォーマンスの高さ,望んだ時期の妊娠,不妊治療の機会を逸失回避,女性特有の症状への対処能力の高さと関連していることが報告されている24.本研究においても「月経」に関連した健康課題の頻度の高さと研究への期待が示されており,ヘルスリテラシーを高める等の職域での介入は症状を軽減させパフォーマンスを高める可能性があるかもしれない.

2) 職場での制度利用の状況

職場での制度に関し,不妊治療連絡カード・母子健康管理指導事項連絡カードでは利用率(「本人が利用」と「周囲の利用」の合計)は5%以下であることがうかがわれた.2つのカードは社内制度ではなく誰でも利用できる厚生労働省が推奨しているツールであるが,それぞれ24%,22%の女性が「制度自体が会社に存在しない」と回答しており,会社に制度がないと利用できないと認識されているかもしれない.厚生労働省の調査では,不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度や取組を行っている企業の割合は9%と少なく,不妊治療中の女性労働者のうち16%が仕事と両立できずに退職していると報告されている25.本研究では連絡カードの利用以前の認知率の低さを示したが,連絡カードの存在を含めて利用に関する正しい知識を周知することで,妊娠を希望する女性労働者の離職を防ぎ,就労上の課題を解決することにつながる可能性があるかもしれない.

生理休暇に関しては経済産業省の調査で,社内で配慮されていると回答した労働者は20~25%と報告されているが26,本研究では「本人が利用」「周囲の利用」合わせても利用率は8%に留まった.生理休暇は労働基準法で保障されている女性労働者の権利であるにも関わらず「制度自体が会社に存在しない」あるいは「職場にこの制度があるかわからない/どんな制度だか知らない」と回答した人が65%いた.法律上は給与の支払い義務がない休暇であり,形骸化の指摘もある27.月経随伴症状などによる社会経済的損失は年間6,828億円と推定されており,うち4,911億円(72%)が労働損失を占めており15,健康経営の取り組みの中では,特に女性特有の健康問題対策に高い関心が寄せられている.本研究では生理休暇の認知率の低さを示したが,生理休暇の有効な活用により女性労働者のパフォーマンスや健康に良い効果がみられる可能性も考えられ,それぞれの企業内で実効性のある制度設計を検討する必要がある.

また,ワーク・ライフ・バランスに関連する制度(フレックスタイム・短時間勤務制度・テレワーク)の自身の利用率は全体で1~8%,未就学児と同居している女性労働者でも2~18%と低い傾向であった.業種や職種により利用できない可能性があり,今後詳細な検討が必要である.

3) 期待する職場での研究テーマのニーズ

20代・30代である・配偶者がいない・こどもがいない・フルタイム勤務という要因を一つでももつ対象者では「メンタルヘルス」と「月経」に関する研究への期待が高かった.未就学児同居の対象者では「産後の精神的な支援」「産後の身体的な支援」「産後うつ予防」の研究への期待が有意に高かったが,「ワーク・ライフ・バランス」に関する研究への期待は有意差がなかった.小さい子どもを育てながら働く女性では,仕事と家庭の両立に関する職場からの支援よりも,出産後の心身の体調面への配慮のニーズが高い可能性がある.「運動促進」への期待は低く,層別解析においても有意差は見られなかった.「肩こりや腰痛」に関する職場での研究への期待は全体として最も高かったが,具体的な内容として運動は希望されていない可能性があり,介入研究の計画の際には考慮が必要である.

各症状や悩みがある人のうち,その研究テーマを期待する人の割合は,肩こり(58.5%),メンタルヘルス(53.5%),月経(47.8%),WLB(47.5%)であった.症状の有無によって研究への期待に差があるか検討すると,症状のある人ほど研究を期待する傾向があったものの,テーマ間では有意差はなかった.この割合は月経とワーク・ライフ・バランスでは50%を下回っており,これは症状があることが必ずしも職場での研究を期待することにつながらないことを示唆しており,個別の職場環境において文脈に応じた慎重な介入計画が必要であることがうかがえる.

4) PPIに関する考察

本研究ではPPIを活用して女性労働者の健康課題発見と研究テーマの優先順位を決定した.当事者の声から今後の研究の方向性について示唆を得ることで,質の高いデザインの研究を推進できる可能性があると考えられる.本研究では健康課題の抽出のみならず,研究の実施にあたっての受け入れられやすさに関しても一定の評価ができたことで,職域での研究の遂行にあたり,事前の計画に活用できると考えられる.本研究の結果より,女性労働者に特有の健康課題として月経に関連した職域の研究が今後の女性労働者研究の重要なテーマとなることが示された.

4-1) 本研究の限界

本研究はオンライン調査であるため,オンラインで情報を授受できるリテラシーがあり,本研究テーマに関心のある人が回答した可能性があり,一般化可能性は限定的である.本調査票の信頼性・妥当性は検証されていないこと,女性労働者の就労上の悩みとして更年期に関する症状に関して該当しないと思われる20代・30代にも聴取していること,妊娠歴のある女性労働者のみを対象とした質問項目では妊娠時点で就労していたかどうかの情報や制度利用の適格基準を満たしているかの情報を得ていなかったことも限界となる.また,最近開始した制度についてはそれ以前に妊娠を経験した女性労働者には認識されていない可能性がある.それにより,症状を持つ者の割合や制度利用率が低く算出された可能性がある.未就学児同居の有無などに関する層別解析では年齢等の要因を考慮できておらず,結果の解釈に注意を要する.また,期待する研究は,今後の系統的レビューの実施を見据え「結果を知りたいと思う職場での研究」を尋ねているため,自身の職場で介入が実施されることへの希望よりも浅い関心を検出している可能性がある点は留意が必要である.また,実際に尋ねている項目は「月経と仕事のパフォーマンスに関する研究」であり,月経症状そのものを緩和・改善した研究テーマになっていないため,症状に特化した介入に限定すると結果が異なる可能性がある.

4-2) PPIとしての限界

本研究におけるPPIにはいくつかの限界がある.PPIでは対象者は研究対象者としてではなく研究のパートナーとして積極的に参画することが求められるが,本研究のようなオンライン調査では十分な参画ができていない.また,アンケート結果に基づくこの研究者の意思決定は,PPIの一環として本調査の全結果を含め調査協力者の方へフィードバックされるが,それに対する意見収集は実施されず,「対話」による意見交換は行われていない.よって,本研究におけるPPIのSTEP1 としての取り組みは限定的なものとなっている.以上の理由により,少数派の意見が十分に収集できていない可能性がある.今後,PPIによる研究を行う際には,参加者との双方向的な交流や対話の機会を増やし,フォーカスグループインタビューなどの形式を含めた積極的な参画の機会を計画することが求められる.また,本研究ではPPIの実施に関するプロセス評価や当事者の個別の文脈に関する詳細な情報収集は行っておらず,標準的なPPIの報告ガイドライン(GRIPP2: Guidance for Reporting Involvement of Patients and the Public2)に沿った内容を網羅的に報告できていない28.今後行われるPPI研究ではPPIで得ようとする結果やインパクトとともに,多面的な情報の収集に関する事前の十分な計画が必要であると考えられる.

結語

本研究の結果より,就労上課題となる生物心理社会的な要因としては身体症状(89%),月経に関する悩み(65%),精神症状(49%),ワーク・ライフ・バランスの悩み(39%)の頻度が高いことがわかった.月経については,20代~40代の者に限ると約8割が就労上困難を感じる悩みがあると回答していた.日本人女性労働者が期待する職場での研究テーマとして,肩こり・腰痛,メンタルヘルス,月経,ワーク・ライフ・バランスに関するニーズが高いことがわかった.悩みや困難を抱えていることと職場介入のニーズには隔たりがあることが考えられるため,対象とする女性労働者にどのようなニーズがあるかあらかじめ把握したうえで介入を検討することが望まれる.本研究はPPIの枠組みを利用することで,今後の女性労働者介入の検討に向けた具体的な仮説をより実態に即した形で立案することができた.

謝辞

本研究は,東京大学職場のメンタルヘルス研究会レビューチーム(TOMH-R)よりご支援・ご指導をいただきました.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

研究助成:本調査は東京大学職場のメンタルヘルス研究会(UTokyo Occupational Mental Health; TOMH)研究費からの支出で行われた.

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