2022 年 64 巻 6 号 p. 345-353
目的:新型コロナウイルス感染症流行によりオンラインによる産業保健面談が増加した.その経験,満足度および課題を明らかにするため,労働者を対象として新型コロナウイルス感染症流行開始から1年間のオンライン面談の経験について調査した.対象と方法:雇用されている常勤の労働者を対象としたオンライン・パネル調査(E-COCO-J: The Employee Cohort Study in the COVID-19 pandemic in Japan新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査)の参加者に,2021年3月にインターネット調査を実施した.過去1年間のオンラインおよび対面での産業保健専門職による各種の面談の有無,満足度,並びにオンライン面談の課題について回答を得た.結果:調査への回答者1,153人のうち,無職あるいは休業中の者を除く1,102人を解析対象とした.過去1年間にオンライン面談の経験のあった者は50人であり,対面での面談の経験のあった者は57人であった.健康一般についての相談,健康診断の事後措置や保健指導,その他の目的で行ったオンライン面談において,オンライン面談経験者の7割以上が満足したと回答した.一方,長時間労働者の医師面接,休職や復職についてのオンライン面談においては,満足したと回答した者は4割以下だった.オンライン面談を経験した回答者のうち3割以上が,オンライン面談の課題として,労働者の意向との乖離「オンライン面談でなく対面で面談したかった」),コミュニケーションの質の問題(「十分相談できた気がしなかった」など),秘密保護への懸念(「第3者に会話が聞かれているのではと心配だった」など)を報告していた.考察と結論:オンラインでの長時間労働者の医師面接,休職や復職についての面談の満足度は低く,オンライン面談では,労働者が対面面談を希望していたこと,コミュニケーションの質の問題,面談の秘密保持への懸念があることが明らかになった.このことから,産業保健のオンライン面談では,その面談の種別を含めて適否を考慮し,産業保健専門職が面談の質を低下させないような配慮・工夫をする必要があることが示唆された.
Objectives: COVID-19 has led to an increased use of online consultations in occupational health. We examined experience, satisfaction, and difficulties with online consultations during the first year after the COVID-19 pandemic by surveying a sample of workers. Methods: An online survey was conducted in March 2021 among full-time employees of an online panel survey (E-COCO-J: The Employee Cohort Study on the COVID-19 Pandemic in Japan). Respondents were asked to report whether they had online or face-to-face consultations with occupational health professionals in the past year, their level of satisfaction, and their difficulties and problems related to the online consultations. Results: Of the 1,153 respondents, 1,102 (excluding those who were unemployed or on leave) were included in the analysis. Fifty respondents had had online consultations in the past year and 57 had face-to-face consultations. The proportion of respondents who reported satisfaction with online consultations was high (more than 70%) for general health, follow-ups, and guidance consultations, among others. However, the proportion of satisfaction with online occupational consultations was low (less than 40%) for employees who worked long hours, or took leave or returned to work. Over 30% of the respondents indicated that the difficulties with online consultations were due to incongruence with their expectations (“I preferred a face-to-face consultation instead of an online one”), quality of communication (“I did not feel like I was able to consult sufficiently”), and concerns about confidentiality (“I was worried that someone could hear our conversation”). Conclusion: The experience of online consultations was similar to that of face-to-face consultations. Satisfaction with online occupational consultations for those who worked long hours and those who took leave or returned to work was low. In the online consultation for occupational health, the occupational health professional may be required to judge its suitability depending on type of the consultation and take necessary consideration and measures to maintain the quality of the online consultation.
2019年末からの新型コロナウイルス感染流行の拡大により,感染防止のために企業・組織内で物理的距離を保ち感染機会を減らすことが重要視されるようになり,対面や集合による産業保健活動が制限を受けた.テレワークが進んだことにより,労働者への連絡を電話などの遠隔ツール,特にオンラインツールのみで情報収集や日頃の関係性構築を行う必要性が増大した1).労働者に対する産業保健専門職による面談,例えば長時間労働者の医師による面接指導,健康診断の事後措置や保健指導,健康相談やメンタルヘルス相談,休職・復職時の面談などを遠隔で行う必要性が生じたことも,大きな変化の1つである2).例えば,2020年5月の新型コロナウイルス感染拡大第2波における緊急事態宣言中に,日本産業衛生学会遠隔産業衛生研究会がその会員に対して行った調査では,オンラインツールに特化した調査ではないものの,面談の約半数が Webや電話で実施されたと報告している2).
オンラインツールを使用した産業保健専門職との面談(以下,オンライン面談)にはさまざまな課題があると考えられる.例えば,厚生労働省からの情報通信機器を用いた医師による面接指導の実施に関する通達3)では,面接指導に用いる情報通信機器の条件について,医師と労働者とが相互に表情,顔色,声,しぐさ等を確認できるなど安定しかつ円滑なツールであること,情報セキュリティが確保されていること,機器の操作が容易であることをあげている.逆にいえば,これらのことがオンライン面談の課題となる可能性もある.実際,オンライン面談で発生した問題を産業保健専門職に対してたずねた日本産業衛生学会遠隔産業衛生研究会の2020年5月の調査2)によると,音声,映像が途絶えた問題が発生した面談があったと回答した者は65%あり,またオンラインツールがうまく使えない,資料の画面共有がうまくできないなどの回答も約半数あり,技術的なトラブルや面談者のシステム習熟度が問題となっていた.面談対象者の表情が読み取れず支障が生じた面談があったと回答した者も半数強あった.面談対象者が個室でなかった,通信のセキュリティに心配があったなど,面談時の守秘に関する課題も,それぞれ3割,6割の者から回答があった.
オンライン面談の課題は,こうした技術面だけではない.米国心理学会の「遠隔心理サービスのための相談体制チェックリスト」4)や「遠隔心理支援用インフォームド・コンセント」5)では,オンライン面談が対象者にとって適切かどうか確認すること,許可なく面談の録音・録画をしないことなどがあげられており,これらもオンライン面談を受ける対象者に質の高い面談を提供する上での課題となると思われる.さらに,対象となる労働者がオンライン面談と対面面談のいずれを好むのかについても考慮し,話し合った上で,オンライン面談を行うことも望まれるとされている.
新型コロナウイルス感染流行下での産業保健のオンライン面談の実態や課題はまだ世界的にも十分に調査されていない.日本産業衛生学会遠隔産業衛生研究会の2020年5月の調査2)は流行初期のものであり,その後1年間にオンライン面談がどれくらい実施されたかは不明である.またオンライン面談の課題については産業保健専門職が評価したものであり,面談を受けた労働者の意見ではない.さらに,オンライン面談に対する労働者の満足度などの評価を行った調査研究は,これまでにない.定型的な情報提供や助言を行う場合と,本人の病状や意向を踏まえて判断を行う場合とでは,オンライン面談への労働者の満足度は変わってくると想定される.またオンライン面談が対面の面談(以下,対面面談)と比較してその効果に優劣があるかを知るためには,その満足度を,同じ面談種別の対面面談の満足度と比較することも必要である.
この調査報告では,新型コロナウイルス感染症の流行第1波から約1年を経過した2021年3月に実施された常勤労働者を対象としたオンライン調査(E-COCO-J)において,過去1年間に産業保健のオンライン面談を受けたかどうか,受けた場合にはその満足度や課題を労働者に尋ねることで,新型コロナウイルス感染症流行下での労働者におけるオンライン面談の経験,満足度,課題を明らかにすることを目的とした.特にオンライン面談の経験,満足度については,対面面談の経験,満足度と比較を行った.調査結果は,新型コロナウイルス感染症流行下での労働者におけるオンライン面談の実態を理解し,産業保健専門職がオンライン面談をどう実施すべきか考える上での有用な情報となると期待される.
本研究は横断研究であり,その対象者は,2021年3月に実施されたインターネットオンライン調査に回答した労働者である.「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」(E-COCO-J: The Employee Cohort Study in the COVID-19 pandemic in Japan)URL: https://dmh.m.u-tokyo.ac.jp/e-coco-j/は,新型コロナウイルス感染症に対する企業の対策の状況および労働者の精神健康状態などを,新型コロナウイルス感染症流行下で継続的に明らかにすることを目的として実施されている,常勤労働者を対象としたオンライン・パネル調査である6).E-COCO-Jでは,2019年2月にインターネット調査会社に登録されているモニターのうち20歳から59歳までの全国の常勤フルタイム勤務をしている労働者を対象に実施したオンライン横断調査の回答者4,120名のうち,2020年3月19日~22日に先着1,500名を上限に回答を募集し,1,448名から回答を得て,この者に対して2021年3月までに合計6回の調査を実施した.今回の研究では,2021年3月に実施された第6回調査の回答者のうち,この時点で就労を継続している者を対象とした(この時点で無職,一時帰休,産休・育児・介護・休暇,病気休業中の者を除いた).本研究は,東京大学大学院医学系研究科・医学部で倫理審査を受け承認されている(10856-(5)).
2. 方法 1) オンラインでの産業保健面談の経験と面談の種類,満足度この論文では,医師による面接指導,医師・保健師等による事後措置や保健指導,産業保健専門職による健康相談,メンタルヘルス相談,休復職に関する面談など,産業保健に関する面接,指導,相談を,オンラインあるいは対面面談で実施したものを一括して「面談」と呼ぶこととする.
過去1年間のオンライン面談の経験については,調査対象者に「本年(2020年)4月以降で,あなたの会社の医師(産業医)や保健師等(看護師も含む)あるいはカウンセラーと,面談を【オンラインツールを使って】行ったかどうか教えてください.」と尋ねた.その際,「面談での顔出しの有無は問いませんが,電話相談,メールやチャットでの相談は含みません.」と付記した.「はい」と回答した場合には,以下の①~⑦のそれぞれの面談種類について,「とても満足した」,「まあまあ満足した」,「やや不満だった」,「とても不満だった」,および「行っていない」の選択肢で回答を求めた.「行っていない」以外の回答の場合,当該種別の面談の経験ありと評価した.
①ストレスチェックによる「高ストレス者」の医師面接
②長時間労働者の医師面接
③健康診断の事後措置や保健指導(医師または保健師等)
④健康一般についての相談(医師,保健師等,カウンセラーなど)
⑤メンタルヘルスの相談(医師,保健師等,カウンセラーなど)
⑥休職や復職についての面談(医師,保健師等,カウンセラーなど)
⑦その他の目的での面談(医師,保健師等,カウンセラーなど)
さらに,いずれかの種別の面談でオンライン面談の経験のあった者には,その課題や問題点について,16のリストから当てはまるものをいくつでも選ぶように依頼した(リストは表3参照).
以上の面談の種類については,先行研究2)を参考に,産業保健の実務専門家を含む著者らが相談して作成した.またオンライン面談の課題や問題点のリストは,行政の資料や先行研究を参考に作成した2,3,4).
2) 対面での産業保健面談の経験と面談の種類,満足度過去1年間の対面での面談の経験については,「本年(2020 年)4月以降で,あなたの会社の医師(産業医)や保健師等(看護師も含む)あるいはカウンセラーと,面談を【対面で】行ったかどうか教えてください.」と質問した.「はい」と回答した場合には,オンライン面談に関する質問と同じ7種の面談について,「とても満足した」,「まあまあ満足した」,「やや不満だった」,「とても不満だった」,および「行っていない」の選択肢で回答を求めた.「行っていない」以外の回答の場合,当該種別の面談の経験ありと評価した.当該種別の面談の経験ありの場合には,「とても満足した」あるいは「まあまあ満足した」と回答した場合に,面談に満足したと区分した.
3) 基本属性基本属性として,性別(男性,女性),年齢(20–34,35–49,50歳以上),婚姻状態(単身,既婚),会社の規模(1,000人以上,50–999人,50人未満),職種・地位(管理職,事務系,現業系,医療系),テレワークの状況(出勤のみ,週1回以下,週2回以上),主要な慢性身体疾患(有無)を調査票から評価し括弧内のように区分した.会社の規模,主要な慢性身体疾患の有無については第1回調査(2020年3月)で,職種・地位については第2回調査(2020年5月)で調査されたデータを利用した.これ以外は第6回調査の回答である.これに加えて第6回調査では,新型コロナウイルス感染症への不安について,「あなたは,新型コロナウイルス感染症について,不安を感じますか.それとも不安を感じませんか.」と質問し,「とても不安を感じる」,「不安を感じる」,「どちらかといえば不安を感じる」,「どちらかといえば不安を感じない」,「不安を感じない」,「まったく不安を感じない」の6段階で回答を求めた.前3つの選択肢の場合,新型コロナウイルス感染症への心配が大きい,後ろ3つの選択肢の場合,心配が少ないと区分した.
3. 統計解析オンライン面談または対面面談の経験を算出した.両方を経験した者もいると想定されることからその経験も求めた.基本属性別にオンライン面談と対面面談の経験に差があるか,基本属性x 3群(オンラインのみ,対面のみ,両方)のχ二乗検定を行って検討した.オンライン面談および対面面談の満足度の比較は,オンライン面談経験者中の満足の者の割合と,対面面談経験者中の満足の者の割合を比較し,χ二乗検定を行った.ただしオンライン面談経験者と対面面談経験者は一部重複することが想定されるため,この検定は厳密には正確でない.より正確にオンライン面談・対面面談の満足度を比較するために,両者を経験した者と,片方しか経験しなかった者に回答者を層別化した.前者では,McNemar検定を実施して,オンライン面談・対面面談の満足度の差を検定した.後者では,χ二乗検定を実施して,オンライン面談・対面面談の満足度の差を検定した.オンライン面談経験者について,オンライン面談の課題,問題点の各項目の有無求めた.以上の解析はIBM SPSS v26によって実施された.検定における危険率は両側5%とした.
回答者1,153人のうち,無職・学生(24人),一時帰休(5人),産休・育児・介護休暇(15人),病気休業中の者(7人)を除く1,102人が解析の対象となった.解析対象者の属性は,男女がほぼ同数であり,年齢では35–49歳が最多で,約半数が既婚,企業規模は500人以上が41%と最多であった.職種・地位では事務系は6割を占めていた.テレワークを行っている者は255人(23%)で,週1回以下と週2回以上が半々であった.79%が新型コロナウイルス感染症を心配しており,約2割が身体的な慢性疾患をもっていた.
2. 基本属性とオンライン面談の経験過去1年間にオンライン面談の経験のあった者は50人(4.5%)であった.一方,過去1年間に対面での面談の経験のあった者は57人(5.2%)であり,両方を経験した者は30人(2.7%)であった.オンライン面談を経験した者のうち,60%が対面面談も経験していた.男性では対面での面談が多い傾向にあったが,有意でなかった(p = .065)(表1).現業系でも対面面談が多い傾向にあったが,有意でなかった(p = .149).これ以外では,どの基本属性別の群においても,オンライン面談と対面面談との頻度はほぼ同一であった.なお,解析から除いた者におけるオンライン面談経験者の人数(%)は,無職・学生0人,一時帰休0人,産休・育児・介護休暇1人(7%),病気休業中1人(14%)であった.
オンライン面談 | 対面面談 | (両方の経験者)¶ | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
回答者数 | 人数 | % | 人数 | % | 人数 | % | オンライン面談経験の差* | ||
性別 | 自由度 | p値 | |||||||
男性 | 586 | 34 | 5.8 | 44 | 7.5 | 24 | 4.1 | 2 | .065 |
女性 | 516 | 16 | 3.1 | 13 | 2.5 | 6 | 1.2 | ||
年齢(歳) | |||||||||
20–34 | 285 | 13 | 4.6 | 14 | 4.9 | 7 | 2.5 | 4 | .805 |
35–49 | 451 | 18 | 4.0 | 22 | 4.9 | 10 | 2.2 | ||
50+ | 366 | 19 | 5.2 | 21 | 5.7 | 13 | 3.6 | ||
婚姻状態 | |||||||||
単身 | 514 | 17 | 3.3 | 16 | 3.1 | 9 | 1.8 | 2 | .579 |
既婚 | 588 | 33 | 5.6 | 41 | 7.0 | 21 | 3.6 | ||
会社の規模§ | |||||||||
1,000人以上 | 347 | 28 | 8.1 | 29 | 8.4 | 18 | 5.2 | 4 | .639 |
50–999人 | 472 | 18 | 3.8 | 24 | 5.1 | 10 | 2.1 | ||
50人未満 | 237 | 2 | 0.8 | 3 | 1.3 | 1 | 0.4 | ||
職種・地位 | |||||||||
管理職 | 108 | 7 | 6.5 | 9 | 8.3 | 5 | 4.6 | 4 | .149 |
事務系 | 615 | 31 | 5.0 | 29 | 4.7 | 17 | 2.8 | ||
現業系 | 296 | 6 | 2.0 | 15 | 5.1 | 5 | 1.7 | ||
医療系 | 83 | 6 | 7.2 | 4 | 4.8 | 3 | 3.6 | ||
テレワーク | |||||||||
なし(出勤のみ) | 847 | 27 | 3.2 | 36 | 4.3 | 15 | 1.8 | 4 | .162 |
週1回以下 | 131 | 15 | 11.5 | 14 | 10.7 | 11 | 8.4 | ||
週2回以上 | 124 | 8 | 6.5 | 7 | 5.6 | 4 | 3.2 | ||
新型コロナウイルス感染症への心配 | |||||||||
少ない | 229 | 6 | 2.6 | 4 | 1.7 | 3 | 1.3 | 2 | .402 |
大きい | 873 | 44 | 5.0 | 53 | 6.1 | 27 | 3.1 | ||
慢性疾患 | |||||||||
なし | 896 | 34 | 3.8 | 41 | 4.6 | 21 | 2.3 | 2 | .798 |
あり | 206 | 16 | 7.8 | 16 | 7.8 | 9 | 4.4 |
個別のオンライン面談の内訳では,健康診断の事後措置や保健指導(医師または保健師等)の経験者が42人と多かった(表2).この傾向は対面面談でも同様であった.オンライン面談の満足度は,健康一般についての相談,その他の目的での面談,健康診断の事後措置や保健指導で約7割かそれ以上と高かった.オンラインでの長時間労働者の医師面接,休職や復職についての面談は約4割以下と相対的に低かった.対面での面談の満足度と比べると,オンラインでのストレスチェック「高ストレス者」の医師面接,長時間労働者の医師面接,休職や復職についての面談の満足度は低い傾向にあった.しかしその差は有意ではなかった(p = .297, .409および.131).両方の面談の経験者での比較,一方だけの面談の経験者の比較でも同様の傾向が見られたが,有意な差ではなかった.
面談経験者合計 | 両方の経験者 | いずれか一方の経験者 | |||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
オンライン面談 | 対面面談 | オンライン面談 | 対面面談 | オンライン面談 | 対面面談 | ||||||||||||||||
n | 満足 (人数) | 満足度 % | n | 満足 (人数) | 満足度 % | p* | n | 満足 (人数) | 満足度 % | n | 満足 (人数) | 満足度 % | p* | n | 満足 (人数) | 満足度 % | n | 満足 (人数) | 満足度 % | p* | |
1.ストレスチェックの「高ストレス」の医師面接 | 28 | 15 | 53.6 | 31 | 21 | 67.7 | .297 | 19 | 10 | 52.6 | 19 | 14 | 73.7 | .219 | 9 | 5 | 55.6 | 12 | 7 | 58.3 | 1.000 |
2.長時間労働者の医師面接 | 28 | 10 | 35.7 | 26 | 13 | 50.0 | .409 | 15 | 6 | 40.0 | 15 | 7 | 46.7 | 1.000 | 13 | 4 | 30.8 | 11 | 6 | 54.5 | .408 |
3.健康診断の事後措置や保健指導(医師または保健師等) | 42 | 29 | 69.0 | 41 | 28 | 68.3 | 1.000 | 24 | 17 | 70.8 | 24 | 18 | 75.0 | 1.000 | 18 | 12 | 66.7 | 17 | 10 | 58.8 | .733 |
4.健康一般についての相談(医師,保健師等,カウンセラーなど) | 30 | 23 | 76.7 | 33 | 26 | 78.8 | .759 | 14 | 11 | 78.6 | 14 | 12 | 85.7 | 1.000 | 16 | 12 | 75.0 | 19 | 14 | 73.7 | 1.000 |
5.メンタルヘルスの相談(医師,保健師等,カウンセラーなど) | 30 | 18 | 60.0 | 28 | 17 | 60.7 | 1.000 | 13 | 6 | 46.2 | 13 | 8 | 61.5 | .500 | 17 | 12 | 70.6 | 15 | 9 | 60.0 | .712 |
6.休職や復職についての面談(医師,保健師等,カウンセラーなど) | 26 | 11 | 42.3 | 19 | 13 | 68.4 | .131 | 10 | 5 | 50.0 | 10 | 7 | 70.0 | .625 | 16 | 6 | 37.5 | 9 | 6 | 66.7 | .226 |
7.その他の目的での面談(医師,保健師等,カウンセラーなど) | 21 | 16 | 76.2 | 11 | 7 | 63.6 | .681 | 7 | 6 | 85.7 | 7 | 4 | 57.1 | .625 | 14 | 10 | 71.4 | 4 | 3 | 75.0 | 1.000 |
過去1年間にいずれかのオンライン面談を経験した50人に聞いたオンライン面談の課題では,「オンライン面談でなく対面で面談したかった」が最多で48%を占めた(表3).次いで,「十分相談できた気がしなかった」(42%),「面談者と信頼関係を築けなかった」(38%)が多かった.「第3者に会話が聞かれているのではと心配だった」(38%),「インターネット接続の安全性(セキュリティ)が心配だった」(34%),「録画,録音されているのではと心配だった」(30%)も,頻度高く報告されていた.機器やシステムの準備不足,ログインの手間取り,技術的なトラブルによる中断などもそれぞれ約3割の者から報告されていた.顔がよく見えない,画質や音声の悪さ,画像オフの面談などの課題も約4分の1の者からあげられていた.「接続に自己負担の費用がかかった」(26%),「プライバシーを保って面談できる場所を選ぶのに困った」(20%)など,接続環境に関する課題もあげられていた.
n | % | |
---|---|---|
本当はオンラインではなく対面で面談したかった | 24 | 48 |
十分相談できた気がしなかった | 21 | 42 |
面談者と信頼関係を築けなかった | 19 | 38 |
第3者に会話が聞かれているのではと心配だった | 19 | 38 |
インターネット接続の安全性(セキュリティ)が心配だった | 17 | 34 |
オンライン面談のための機器やシステムの準備が十分でなかった | 16 | 32 |
オンライン面談のシステムにログインするのに手間取った | 15 | 30 |
録画,録音されているのではと心配だった | 15 | 30 |
技術的なトラブルが起きて面談が中断した | 13 | 26 |
照明の問題で相手の顔がよく見えなかった | 13 | 26 |
接続に自己負担の費用がかかった | 13 | 26 |
オンラインで面談するには体調が十分でなかった | 12 | 24 |
画質や音質が悪かった | 12 | 24 |
画像オフ(顔出しなし)の面談だった | 11 | 22 |
プライバシーを保って面談できる場所を選ぶのに困った | 10 | 20 |
その他,面談時やその前後でトラブルがあった | 5 | 10 |
新型コロナウイルス感染症が流行した2020年4月から2021年3月までの過去1年間に,健康管理に関してオンライン面談を経験した労働者は50人(5%)であった.オンライン面談を経験した者のうち,60%が対面面談も経験していた.オンライン面談の満足度は,健康一般についての相談,その他の目的での面談,健康診断の事後措置や保健指導で約7割かそれ以上と高かったが,長時間労働者の医師面接,休職や復職についての面談では約4割と低かった.過去1年間にオンライン面談を経験した労働者に聞いたオンライン面談の課題では,労働者の意向との齟齬(「オンライン面談でなく対面で面談したかった」),コミュニケーションの質の問題(「十分相談できた気がしなかった」など),秘密保護への懸念(「第3者に会話が聞かれているのではと心配だった」など)が,3割以上の労働者から報告されていた.
過去1年間に健康管理に関してオンライン面談を経験した者は4.5%であり,過去1年間に健康管理に関する対面面談を経験した者の割合(5%)と同等であった.日本産業衛生学会遠隔産業衛生研究会の報告2)では,オンラインに特化した調査ではないが,Web面談または電話での相談に変更したと回答しているものが約半数いた.産業保健におけるオンライン面談の頻度は,対面面談の頻度と同等程度にまで高くなっているのではないかと考えられる.なお,オンライン面談を経験した者のうち60%が対面面談も経験していることから,オンライン面談と対面面談は,状況や課題によって使い分けられたり,組み合わせて利用されていると推察された.個別のオンライン面談の経験は,健康診断の事後措置や保健指導(医師または保健師等)が多かった.基本属性別,面談の種類別のオンライン面談の頻度は,対面面談の頻度の傾向と同様であった.日本産業衛生学会遠隔産業衛生研究会の報告では,テレワーク導入企業でオンライン面談が多いとしている2).本調査でもテレワーク労働者で,出勤のみ労働者と比べてオンライン面談の経験割合は高かった.しかし,テレワーク労働者では対面面談の頻度も高く,むしろテレワークを実施した企業で,面談を増やし,テレワーク労働者の健康管理に努めた結果とみることもできる.
オンライン面談の満足度は,健康一般についての相談,その他の目的での面談,健康診断の事後措置や保健指導では,同じ種別の対面面談と同等であり,約7割であった.面談を受けた労働者の満足度で,面談の効果を判断することはできないが,これらの種別の面談については,オンライン面談は対面面談と同等に機能していると推測される.本結果は,テレビ会議システムによる保健指導と対面での保健指導との間で対象者の満足度に大きな差はなかったとする先行研究とも一致している7).またオンライン面談とは異なるが,電話やメールなどの遠隔ツールを使った保健指導では,対面や集団での保健指導と同等の生活習慣改善効果が認められているという先行研究もあり8),オンライン面談という保健指導を目的とした面談は,オンライン面談でも対面面談と同程度の効果が期待できる可能性があると考えられる.一方,オンラインによる長時間労働者の医師面接,休職や復職について面談では満足度が,有意な差ではないものの同じ種別の対面面談よりも低く,それぞれ36%対50%,42%対68%であり,その差は15ポイントに上る.偶然の差の可能性は否定できないが,オンラインによる長時間労働者の医師面接,休職や復職についての面談の質が低くなる可能性があり,注意する必要がある.満足度の高いオンライン面談と低いオンライン面談の面談種別の違いについては,休職や復職についての面談のような合意形成が重要なタイミングでは対面で実施したほうがよいという報告がある9).面談が情報提供や助言といった比較的シンプルな内容や構成であるのか,あるいは対象者から情報を聞き出し,これに基づいて判定や対処を行う必要があるかが,オンライン面談と対面面談との満足度の差に影響している可能性がある.さらに,面談対象者が面談を希望しているかどうかにもよっても異なる可能性もある.長時間労働者の医師面接では法令よりも手厚く,本人の希望の有無に関わらず実施している企業もある.休職や復職に際しての面談も,多くの企業では必須のものと位置づけられている.希望しないで受けることになった面談では,意思疎通や共感がしにくいオンライン面談10)の場合に,対面よりも満足度が低くなる可能性がある.さらに面談の結果が本人の期待通りにならない状況では,同様の理由で,オンライン面談で対面面談に比べて満足度が下がりやすいことも考えられる.長時間労働者の医師面接で,自分の勤務の状況ついて特段の措置や改善がない場合,あるいは休職や復職に際しての面談で,本人の期待通りの支援や判断がもらえなかった場合などでは,対面にくらべて意思疎通,共感がしにくいオンライン面談は,満足度がより低下しやすいことが想定される.十分な意思疎通を必要とする種類のオンライン面談を行う産業保健専門職は,対象者の表情など非言語的なコミュニケーションにもより一層の注意を払いながら対象者からの意見や情報を十分に聞き取る10),判定や対処について明確に伝える,対象者に気持ちや意見を表明させる機会をしっかり確保できるように留意するなど,オンライン面談の質が低下しないように注意すべきと思われる11,12).また,より多数の対象者を対象に,オンラインによる長時間労働者の医師面接,休職や復職についての面談の質の評価やその関連要因について詳細な調査を行うことが求められる.
過去1年間に健康管理に関するオンライン面談を経験した50人が回答したオンライン面談の課題では,労働者の意向との齟齬(「オンライン面談でなく対面で面談したかった」)が48%と最多であった.オンライン面談となった背景には,感染防止やテレワーク実施などオンライン面談にせざるを得なかった理由があるはずで,労働者の意向にそのまま沿うことが難しかった背景があると考えられる.しかし,対面面談の機会を模索したり,あるいはオンライン面談が止むを得ない理由を労働者に説明したり,オンラインでも対面と同様の面談に近づける工夫を行っていることを説明することで,オンライン面談対象者に納得感をもってもらうよう取り組むことはオンライン面談の質を上げる上で重要かもしれない.先行文献の中には,オンライン面談時の工夫について言及しているものもある.例えば,画面に映らない情報に関して積極的に質問して情報不足を補ったり,オンライン上では冷たく感じやすいと考えられるために声のトーンや抑揚を意識して話す,非言語的なコミュニケーションには対面面談時以上に気を付ける,感染対策に支障がない場合にはできるだけマスクを外して表情が読み取れるようにする,などがあげられている13,14).コミュニケーションの質の問題(「十分相談できた気がしなかった」など),秘密保護への懸念(「第3者に会話が聞かれているのではと心配だった」など)も,健康管理に関するオンライン面談を経験した回答者の3割以上が報告していた.これは,日本産業衛生学会遠隔産業衛生研究会の報告2)でも,相手の表情が読み取れず支障が生じた,通信のセキュリティに心配があったなどの課題が産業保健専門職から報告されていたことと一致する.「プライバシーを保って面談できる場所を選ぶのに困った」との回答が2割と少数ながらあったことも,上記の報告2)と一致していた.さらに本調査では,面談時の秘密の保持に関して,「第3者に会話が聞かれているのではと心配だった」,「録画,録音されているのではと心配だった」との課題も3~4割の者からあったと回答していた.これらの点について,面談対象者にそのような事実はなく個人情報は守られることを説明し,安心してもらうことも大事な取り組みと考えられる.技術的なトラブル,オンライン面談の接続の質に関する課題があがっていることも,先行研究2)と一致しているところである.
本調査研究にはいくつかの限界がある.まず,本調査の対象者は全国の労働者のうち,インターネット調査会社のモニターに登録している約30万人から選択されたものである.そのため,インターネットの利用頻度の高い者が多く対象となった可能性があり,また基本属性では,日本における職種分布と比べて現業系の労働者が少ないなどの偏りがある.二つ目として,本調査では既存のE-COCO-Jの調査データを利用しており常勤労働者を対象にしているため,短時間労働者は含まれていない.そのため,本調査の結果を現業系やパートタイムなどの短時間労働者に一般化することには注意が必要である.さらに本調査では,回答者から調査時点で無職の者および休業中の者を除外している.これらの者のうちオンライン面談の経験者は2人であったため結果に大きな影響はないと考えるが,休業中の労働者へのオンライン面談などは,この調査からは除外されている可能性がある.三つ目として,本調査では過去1年間のオンライン・対面での面談の経験を回答者に思い出して回答してもらった.面談の記憶の忘却などにより,オンライン・対面のいずれの面談の経験も過小評価されている可能性がある.四つ目として,本調査では行政の資料や先行研究5,6,7)を参考に,産業保健の実務専門家を含む著者らが相談して作成した16の課題リストを使用しており,16項目以外にも把握できていない課題があるかもしれない.本調査研究では,オンライン・対面の面談の質を満足度により評価したが,満足度が面談の質の評価に最適な指標であるかどうかは不確かである.たとえ面談対象者が不満に感じたとしても,面談自体は適切に実施されたり,十分な効果を示した場合もあると思われる.本調査研究における満足度は,面談の質のある側面に関する指標と考えることがよいであろう.また,本調査ではオンラインと対面の両方の面談を経験した者での比較と,いずれか一方のみを経験した者での比較で結果が異なる場合があった.例えば,長時間労働者の医師面接の満足度(オンライン対対面)は,両方経験した者では40.0%対46.7%でその差は大きくなかった.一方のみの経験者では満足度はそれぞれ30.8%対54.5%と開きが大きかった.両方を経験した者では属性などを統制して比較ができている点ではこちらを信頼出来る結果とみることもできるが,一方で両方を体験したことでオンライン面談の満足度も引き上げられ差がみられなくなっている可能性もある.いずれか一方のみを経験した者ではオンラインと対面面談の2群の間に属性や健康問題,置かれた状況などの差があり,これが交絡要因となって差が見られた可能性は否定できない.オンラインと対面面談の満足度の比較については,より多数の対象者における属性などを調整した研究デザインや,ランダム化比較試験などの実験的研究デザインにより,差の大きさや関連要因について研究が行われることが望まれる.
常勤労働者を対象としたインターネット調査により,新型コロナウイルス感染症流行開始から1年間の健康管理に関するオンライン面談の経験について調査したところ,回答者の約5%が健康管理に関するオンライン面談を経験していた.オンライン面談を経験した回答者の中で,オンラインでの長時間労働者の医師面接,休職や復職についての面談の満足度は低く,オンライン面談の課題では,労働者の意向との齟齬,コミュニケーションの質の問題,面談の秘密保持への懸念が報告されていた.オンライン面談では,その種別を含めてその適否を考慮し,また質を低下させないように産業保健専門職が配慮・工夫をすることが求められる.
利益相反自己申告:小川明夏はオリンパス(株)に常勤で働いている.今村幸太郎は,品川駅前メンタルクリニックに非常勤で働いている.川上憲人は,富士通Japan(株),アジャイルHR(株)から共同研究費を受け入れている.川上憲人は,淳風会メンタルサポートセンター,積水化学工業,SBアットワークの技術顧問である.川上憲人は(公財)日本生産性本部との共同事業「健康いきいき職場づくりフォーラム」を主宰している.
資金提供:文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)課題番号18H04072