産業衛生学雑誌
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調査報告
企業68社における職場のハラスメント防止対策の実施状況や組織風土とハラスメントの実態,対策実施後の従業員や職場の変化
津野 香奈美 早原 聡子木村 節子岡田 康子
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2022 年 64 巻 6 号 p. 367-379

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抄録

目的:ハラスメントの雇用管理上の措置が企業に義務付けられているが,企業に義務付けられている対策が実際にハラスメント防止に効果があるのかは検証されていない.そこで本研究では,ハラスメント指針の中でトップのメッセージ発信や研修実施等に着目し,従業員の対策認識度と企業ごとのハラスメント発生割合を比較した.対象と方法:日本国内の某グループ会社計68社(従業員数計約20,000名)を対象とした.ハラスメント対策は7項目,パワーハラスメント(パワハラ)は厚生労働省の6類型を参考に作成した11項目,セクシュアルハラスメント(セクハラ)は7項目,マタニティハラスメント・パタニティハラスメントは2項目,ケアハラスメントとジェンダーハラスメントは各1項目で測定した.組織風土はシビリティ(礼節),心理的安全性,役割の明確さ等の下位概念から成る10項目で測定し,ハラスメント防止対策実施後の従業員や職場の変化は7項目で測定した.ハラスメント防止対策の従業員認知割合並びに組織風土を高群・中群・低群の3群に分け,企業ごとのハラスメントの発生割合や職場の変化認識割合をKruskal-Wallis検定あるいはANOVAで比較した.結果:自社でハラスメント対策として実態把握等のアンケート調査,ポスター掲示や研修の実施,グループ全体の統括相談窓口の設置,コンプライアンス相談窓口の設置を実施していると7割以上の従業員が認識している企業では,認知度が低い企業と比べてパワハラ・セクハラの発生割合が低かった.一方,トップのメッセージ発信,就業規則などによるルール化,自社または中核会社の相談窓口の設置に関しては,従業員認知度によるパワハラ発生割合の差は確認できなかった.組織風土に関しては,シビリティが高い,心理的安全性がある,役割が明確であると8割以上の従業員が認識している企業では,パワハラ・セクハラの発生割合が低かった.また,従業員がハラスメント防止対策の実施状況を認知している割合が高い企業ほど,従業員が自身や周囲・職場の変化を実感している割合が高かった.考察と結論:各ハラスメント防止対策を実施していると多くの従業員が認識している企業では,ハラスメント発生割合も低い傾向にあった.心理的に安全である・役割が明確であると多くの従業員が回答した企業ではハラスメント発生割合が低かったことから,ハラスメント防止には組織風土に着目した対策も有効である可能性が示唆された.

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© 2022 公益社団法人 日本産業衛生学会
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