産業衛生学雑誌
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調査報告
「看護職の職業性アレルギーと一次予防のための健康管理指針案」の看護管理者による評価
菊地 由紀子 佐々木 真紀子長谷部 真木子工藤 由紀子杉山 令子武藤 諒介石井 範子
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2023 年 65 巻 2 号 p. 82-90

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抄録

目的:看護職はゴム製品や薬剤等に触れる機会が多く,職業性アレルギーのリスクが高い集団といえる.そこで我々は今回,「看護職の職業性アレルギーと一次予防のための健康管理指針案」(以下,指針案とする)を作成し,臨床での活用の可能性と課題を明らかにすることを目的に質問紙調査を実施した.対象と方法:指針案の内容は文献等を参考にA. 職業性アレルギーの基礎知識 B. 看護職に多い職業性アレルギー疾患 C. 看護職における特定のアレルゲンによる職業性アレルギー D. 手湿疹と手のスキンケア E. 職業性アレルギーに対する健康管理とした.400床以上の同意が得られた80病院の看護管理者等各1名に質問紙調査を実施した.指針案で示した内容の理解度,方法を取り入れることに対する意見等を尋ねた.研究者所属の倫理委員会の承認を得て実施した.結果:30名から回答を得た.指針案で示した【職業性アレルギー】【看護職に多い職業性アレルギー】【手湿疹と手のスキンケア】については,理解できたと回答した者が70%を超え,だいたい理解できたと回答した者も合わせると100%であった.【作業管理】の内容を理解できた者は57%,取り入れたいと思った者は90%であった.取り入れたいと思ったができそうにないと回答した者は10%で,その理由は「全体周知と他職種も巻き込んだ取り組みが難しい」などであった.【作業環境管理】の内容を理解できた者は53%,取り入れたいと思った者は83%であった.取り入れたいと思ったができそうにないと回答した者は17%で,その理由は「アレルゲンのモニタリングを実際に行うのは難しい」「局所換気装置の設置は難しそう」などであった.考察と結論:指針案は,職業性アレルギーや健康管理方法の知識の提供に役立ち,臨床で活用可能であることが推察された.具体的に対策方法を取り入れるには,他職種を含め病院全体での理解と調整を図る必要があることが示唆された.

Abstract

Objective: Individuals in nursing occupations are often exposed to various materials such as rubber products and drugs, and they comprise a population at high risk of developing occupational allergies. We therefore created a “Health management guideline on occupational allergy in nursing occupations and its primary prevention” (hereinafter referred to as “HMG”) and conducted a questionnaire survey to elucidate its potential use and the challenges of implementing it in clinical practice. Subjects and Methods: The HMG includes the following content: A. Basic knowledge of occupational allergies; B. Common occupational allergies in nursing occupations; C. Occupational allergies triggered by specific antigens in nursing occupations; D. Eczema and skincare for hands; and E. Health management for occupational allergies. A questionnaire survey was conducted on one nursing manager each from 80 hospitals, with at least 400 beds. The survey included questions to gauge the level of understanding the content described in the HMG and opinions on incorporating the management method. The ethics committee of the researcher’s institution approved the study. Results: Responses were obtained from 30 nursing managers. Over 70% responded that they understood the instructions for [occupational allergies], [common occupational allergies in nursing occupations], and [eczema and skincare for hands] presented in the HMG, and 100% said they either understood or mostly understood them. For [work management], 57% said they understood the content and 90% wanted to incorporate it. Furthermore, 10% responded that they wanted to incorporate the guidelines but did not believe it was feasible, given that “achieving general awareness and efforts involving other occupations are difficult.” For [work environment management], 53% said they understood the content and 83% wanted to incorporate it. Additionally, 17% responded that they wanted to incorporate it but did not believe it was feasible, amid concerns that “allergen monitoring is difficult in reality” and “installation of local ventilation systems seems difficult.” Discussion and Conclusions: The HMG was postulated to be useful in providing knowledge on occupational allergy and health management methods, and for employing in clinical practice. The study recommended that in order to specifically incorporate the management methods, it is imperative that the entire hospital, including staff from other occupations, understand the guidelines and make adjustments accordingly.

I. はじめに

職業性アレルギーは,職業環境に存在する感作性物質が抗原となってアレルギー症状を来すことをいう.抗原の作用部位により,気道や粘膜の場合には職業性アレルギー性鼻炎,職業性喘息,過敏性肺炎を引き起こし,結膜の場合は職業性結膜炎,皮膚では職業性刺激性接触皮膚炎,職業性アレルギー性接触皮膚炎などを発症する.看護職の職場環境には様々な薬品や薬剤が存在する.また手洗いの頻度は高く,患者のケアや処置では手袋の装着が必要な場面も多い.職業性アレルギー疾患診療ガイドライン1では,職業上のアレルゲンとしてラテックス手袋やゴム手袋の加硫促進剤として用いられるチラウム,消毒剤のグルタルアルデヒドなどが指摘されている.また,槙田ら2は薬剤や化学物質を抗原とする喘息のアレルゲンとして,ジアスターゼ,パンクレアチンなどを挙げているが,その他にも様々な薬剤粉塵がアレルゲンになりうる.さらに,頻回な手洗いは手の皮膚炎の悪化を招くことが報告されており3,手の皮膚炎は職業性接触皮膚炎の危険因子にもなる.以上のことから,看護職は職業性アレルギーのリスクの高い集団といえる.

2018年に看護管理者を対象に行われた先行研究4では,回答した99人中,健康診断にアレルギー疾患の既往や治療歴の項目があるとしたのは62.6%,そのうち82.3%は症状管理を個人に委ねていた.また,職業性アレルギー疾患や予防の教育を行っている施設は31.3%にとどまっていたことを報告している.これらの結果から,看護職のアレルギーの症状管理はセルフケアが主であり,職業性アレルギーへの関心は高いとはいえない状況が推察された.アレルギー症状の悪化は看護職自身の健康状態を悪化させ,看護ケアへの障壁となることから,発症や重症化の予防が重要である.そのためには,一次予防として,看護職自身がアレルゲンや予防策を正しく認知しセルフケアに取り組むこと,そして組織としての健康管理や作業管理・作業環境管理を行うことが大切と考える.看護職の職業性アレルギー対策の指針としては,日本看護協会による労働安全衛生ガイドライン5,6が公表されている.これにはラテックスアレルギーや消毒薬による皮膚炎が取り上げられているが,詳細には示されていない.職業性アレルギー疾患を網羅した指針としては,職業性アレルギー疾患診療ガイドライン1が公表されているが,これは主に日頃アレルギー疾患診療に携わる医療従事者が患者の早期発見・早期治療を行うために作成されたものである.そのため専門性が高く,看護職自身のセルフケアに活用するのは現実的ではないと考える.そこで我々は今回,看護職に職業性アレルギーに関する正しい知識を提供し,個人および組織で行う健康管理に役立てられるガイドとして「看護職の職業性アレルギーと一次予防のための健康管理指針案」(以下,指針案とする)を作成し,指針案の臨床での活用の可能性と課題を明らかにすることを目的に質問紙調査を実施した.

II. 用語の操作的定義

看護職の職業性アレルギーとは,看護の職場に存在する感作性物質(繰り返し接触することで過敏反応をおこしやすい物質)によって,アレルギー症状を発症することである.

III. 指針案の内容

看護職における職業性アレルギーの理解や予防のために役立てられると考えた以下A~Eで構成した.作成にあたっては,公表されている各種ガイドラインや関連する書籍,研究論文等を参照しながら研究者7名で複数回意見交換を行った.研究論文の検索には,原則としてPubMedまたは医中誌webを使用し,出版年は指定しなかった.作成した原案はアレルギー専門医のスーパーバイズを受け,信頼性・妥当性の確保に努めた.

A.職業性アレルギーの基礎知識

「アレルギーとは」「アレルギーの発生機序」「職業性アレルギーの定義」「職業性アレルギーの歴史」「職業性アレルギーの疫学」で構成した.アレルギーの発生機序についてはGellとCoombsの分類を用いて,I型からIV型のアレルギーそれぞれについてのメカニズムと代表的疾患を表で示した.免疫反応の説明に使用される看護職に馴染みのない専門用語については,用語の解説欄を設け説明を加えた.

B.看護職に多い職業性アレルギー疾患

「職業性アレルギー性喘息」「職業性アレルギー性鼻炎」「接触性皮膚疾患(アレルギー性接触皮膚炎,刺激性接触皮膚炎)」「職業性アナフィラキシー」の4つを取り上げた.それぞれについて,〈定義〉〈発生機序と病態生理,主な症状〉〈看護の職場におけるアレルゲンと文献から見た発症事例の紹介〉を記載し,発症事例の紹介では国内外の文献を引用しながら,4つの職業性アレルギー疾患それぞれについて先行研究7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19からの報告例を提示した.看護職に馴染みのない専門用語については,用語の解説欄を設け説明を加えた.

C.看護職における特定のアレルゲンによる職業性アレルギー

「ゴム製品による職業性アレルギー」「ゴム手袋における化学物質によるアレルギー性接触皮膚炎(遅延型アレルギー)」「薬剤・消毒薬による職業性アレルギー」の3つを取り上げた.「ゴム製品による職業性アレルギー」では,〈ラテックスアレルギーの定義とゴム製品〉〈ラテックスアレルギーの発生機序と病態生理〉〈ラテックスアレルギーの診断〉〈ラテックス-フルーツ症候群〉について記載し,発症事例を4例20,21,22,23提示した.「ゴム手袋における化学物質によるアレルギー性接触皮膚炎(遅延型アレルギー)」では,〈ゴム手袋における化学物質によるアレルギー性接触皮膚炎の定義〉〈ゴム手袋の化学物質によるアレルギー性接触皮膚炎の原因アレルゲン〉〈アレルギー性接触皮膚炎の症状〉〈アレルギー性接触皮膚炎を明らかにするための検査法〉について記載した.「薬剤・消毒薬による職業性アレルギー」の薬剤としては抗生物質や局所麻酔薬による発症事例を2例24,25,消毒薬としてはグルタルアルデヒド等による発症事例を4例26,27,28,29提示した.

D.手湿疹と手のスキンケア

「手湿疹(手あれ)」「手のスキンケア」で構成した.手湿疹は,手掌や手背,手指表面に生じる皮膚炎の総称30で,かゆみやヒリヒリ感を伴う可逆性の炎症反応である31.症状や発生機序について,また看護職や女性の罹患率が高いことについて概説した.看護職では感染予防のための頻回な手洗いが求められるが,この手洗いが手の皮膚のバリア機能を低下させ,刺激物質による皮膚炎や,アレルゲンの感作が高まりアレルギー性接触皮膚炎を発症させることがある.またアトピーの既往があると,皮膚のバリア機能が低下していることから,アトピー型の手湿疹を引き起こしやすい.これらの手湿疹の予防や悪化を防ぐことが看護職にとっては職業性のアレルギー性皮膚炎や刺激性皮膚炎の一次予防として重要であることを説明した.「手のスキンケア」においては,手洗いにより手の汚れを落とし清潔に保つこと,適宜手袋を着用すること,保湿外用剤を用いて,手の皮膚のバリア機能を保つことが大切である.皮膚のバリア機能は皮膚から体外への水分の喪失を防ぎ,外界からの刺激物質や病原体を防ぐ機能であり,皮膚表面の皮脂膜と角層が重要な役割を果たしていることについて説明した.また,〈手洗い〉〈手袋の着用〉〈保湿外用剤(保湿剤・バリアクリーム)の塗布〉において,手湿疹を防ぐために推奨される方法を説明した.

E.職業性アレルギーに対する健康管理

「健康管理(アレルギー症状の自己チェック・職場の健康診断)」「健康教育」「作業管理」「作業環境管理」で構成した.職業性アレルギーの健康管理では,発症や重症化の予防が重要である.そのためには一次予防として看護職自身がアレルゲンや防護対策を認知しセルフケアに取り組むこと,また組織としての健康管理,健康教育,作業管理,作業環境管理の充実が求められる.本文中には「職業性アレルギー疾患診療ガイドライン2016」1に掲載されている各方法の推奨グレード(A:行うよう強く勧められる B:行うよう勧められる C1:行うほうがよい C2:行わないほうがよい D:行わないよう勧められる)も示しながら説明した.

「健康管理(アレルギー症状の自己チェック)」においては,職業性アレルギー疾患と症状の例を示し,症状の有無や,症状の悪化・改善のタイミングをチェックすることについて説明した.「健康管理(職場の健康診断)」においては,就業前や配置転換前にアトピー素因の有無を検査することの有効性や,就業後のアレルギー症状の発症・悪化の状況を適切に把握することの重要性を説明した.また,健康診断にアレルギーに関する項目を取り入れる場合の問診内容や免疫学的検査の種類を具体的に提示した.「健康教育」においては,看護職のセルフケアのために職場での系統的な教育の実施が望まれることや,健康教育の効果・有効性について説明した.また,健康教育のポイントを具体的に提示した.「作業管理」とは,アレルゲンによる環境汚染を防ぐ作業方法を決めることや,職員がアレルゲンのばく露を少なくするような防護具を使用することである.ただし,手袋は正しく使用されないとアレルギー性皮膚炎を起こす可能性もあり注意が必要であることなどを説明した.作業管理のポイントとしては,適切な呼吸防護具の使用,正しい手袋の着用,作業後の保湿剤の塗布について提示した.「作業環境管理」とは,環境中のアレルゲンのモニタリングを行い,職業性アレルギー発症の危険性がないかを管理することである.作業環境管理のポイントとして,アレルゲンや刺激性物質を特定するための環境モニタリング,安全データシート公布義務のある化学物質のリスクアセスメントなどについて提示した.

IV. 研究方法

1. 対象と対象の抽出方法

全国の400床以上の647病院(小児,精神などの専門病院を除く)に勤務する看護管理者に対して調査協力の依頼を行い,同意が得られた80病院の,看護職の健康管理を行っている管理者等各1名を対象とした.なお,病院の抽出には医療情報センターウェルネス(https://wellness.co.jp/)を用いた.

2. 調査方法

自記式質問紙による郵送留め置き法とし,調査期間は2020年1月~2月であった.

3. 調査内容

1) 属性

対象の年齢・性別・所属部署・職位,所属する病院の種類・病床数・総看護職員数

2) 健康診断の項目および職員のアレルギー発症の状況

雇用時または定期の健康診断におけるアレルギーの既往や症状を確認する項目の有無,看護職員の職業性アレルギー(ラテックス製品や医療製品,環境を原因としたアレルギー)発症の有無,有の場合はその原因物質(自由記述)

3) 指針案における職業性アレルギーと看護職の対策に関する理解度

【職業性アレルギーについて】【看護職に多い職業性アレルギーについて】【看護職に多い職業性アレルギーの物質とそのメカニズムについて】【手湿疹と手のスキンケアについて】,理解できた・だいたい理解できた・あまり理解できなかった,の3肢択一とした.

4) 健康管理(アレルギー症状の自己チェック・職場の健康診断)についての認識

【健康管理にアレルギー症状の自己チェックを取り入れるか】【健康診断にアレルギーに関する項目を取り入れるか】【職業性アレルギー予防や悪化防止の健康教育を取り入れるか】について,取り入れたい・取り入れたくない・取り入れたいができそうにない,の3肢択一とした.取り入れたくない・取り入れたいができない場合は,理由を自由記述とした.

5) 作業管理,作業環境管理についての認識

指針案における作業管理,作業環境管理の内容の理解度をそれぞれ,理解できた・だいたい理解できた・あまり理解できなかった,の3肢択一とした.作業管理,作業環境管理を取り入れることについてそれぞれ,取り入れたいと思った・思わなかった・思ったができそうにない,の3肢択一とした.思わなかった・思ったができそうにない場合は,理由を自由記述とした.

6) 指針案についての意見

指針案についての意見を自由記述で記載してもらった.

4. 分析方法

記述統計を行った.自由記述については意味・内容の類似するものをまとめた.

V. 倫理的配慮

調査にあたっては,対象者および対象者の所属する施設長の同意を得て行った.調査への参加は自由意思であること,得られた情報は匿名性を保ち厳重に管理すること,質問紙の回答送付をもって参加の同意とみなすことを依頼時に書面で伝えた.

本研究は秋田大学大学院医学系研究科医学部倫理委員会の承認を得て実施した(医総第1109号 平成30年7月25日).

VI. 結果

30名から回答があり(回収率37.5%),すべて有効回答であった.

1. 対象および施設の概要(表1

対象の平均年齢は54.7歳(標準偏差5.8)で,全員女性であった.職位では副看護部長(局次長,副局長を含む)が40.0%と最も多く,次いで看護部長(局長,副院長含む)が26.7%,師長が23.3%であった.所属する病院の種類は一般病院が80.0%であった.また,がん拠点病院が66.7%であった.平均病床数は540.1床(標準偏差163.9),平均総看護職員数は567.0人(標準偏差275.4)であった.

表1. 対象の属性
(n = 30)
項目平均(標準偏差)(%)
年齢(歳)54.7(5.8)
性別
 女性30(100)
 男性0(0)
所属部署
 看護部,看護局,管理室24(80.0)
 その他(手術室,内科等)5(16.7)
 無回答1(3.3)
職位
 看護部長,局長,副院長8(26.7)
 副部長,局次長,副局長12(40.0)
 師長7(23.3)
 副師長1(3.3)
 看護師1(3.3)
 無回答1(3.3)
病院の種類
 大学病院6(20.0)
 一般病院24(80.0)
がん診療拠点病院か
 はい20(66.7)
 いいえ9(30.0)
 無回答1(3.3)
病床数(床)540.1(163.9)
総看護職員数(人)(27人が回答)567.0(275.4)

2. 健康診断の項目および職員のアレルギー発症の状況

雇用時または定期の健康診断で,アレルギーの既往や症状を確認する項目があると回答したのは17人(56.7%)であった.看護職員の職業性アレルギーの発症を経験しているのは19人(63.3%)で,原因物質はラテックス製手袋,手指消毒用アルコール,抗生剤などであった.

3. 指針案における職業性アレルギーと看護職の対策に関する理解度(表2

【職業性アレルギーについて】【看護職に多い職業性アレルギーについて】【手湿疹と手のスキンケアについて】は,理解できたと回答した者が70.0%を超えていた.【看護職に多い職業性アレルギーの物質とそのメカニズムについて】は,だいたい理解できたと回答した者が最も多く56.7%であった.すべての項目で,あまり理解できなかったと回答した者はいなかった.

表2. 職業性アレルギーと看護職の対策の理解度
(n = 30)
項目(%)
職業性アレルギーについて
 理解できた21(70.0)
 だいたい理解できた9(30.0)
 あまり理解できなかった0(0.0)
看護職に多い職業性アレルギー疾患について
 理解できた23(76.7)
 だいたい理解できた7(23.3)
 あまり理解できなかった0(0.0)
看護職に多い職業性アレルギーの物質とそのメカニズムについて
 理解できた13(43.3)
 だいたい理解できた17(56.7)
 あまり理解できなかった0(0.0)
手湿疹と手のスキンケアについて
 理解できた21(70.0)
 だいたい理解できた9(30.0)
 あまり理解できなかった0(0.0)

4. 健康管理(アレルギー症状の自己チェック・職場の健康診断)についての認識(表3

【健康管理にアレルギー症状の自己チェックを取り入れるか】については,取り入れたいと回答した者が90.0%,既に取り入れている者が3.3%であった.取り入れたいができそうにないと回答した者は6.7%で,その理由は「入職時にチェックできる体制をとりたいがすぐには難しい,免疫学的検査を公費にするかなど調整に時間がかかりそう」などであった.【健康診断にアレルギーに関する項目を取り入れるか】については,取り入れたいと回答した者が83.3%,既に取り入れている者が6.7%であった.取り入れたいができそうにないと回答した者は10.0%で,その理由は「個別対応が必要,訴えに応じた対応が難しい,費用面の問題」などであった.【職業性アレルギー予防や悪化防止の健康教育を取り入れるか】については,取り入れたいと回答した者が90%であった.取り入れたいができそうにないと回答した者は10.0%で,その理由は「他の教育プログラムの運用のために現状では取り入れにくい,誰がどのような項目で対応するか検討が必要,教育をする人材がいない」などであった.

表3. 健康管理(アレルギー症状の自己チェック・職場の健康診断)についての認識
(n = 30)
項目(%)
健康管理にアレルギー症状の自己チェックを取り入れるか
 取り入れたい27(90.0)
 取り入れたくない0(0.0)
 取り入れたいができそうにない2(6.7)
 その他(既にある)1(3.3)
健康診断にアレルギーに関する項目を取り入れるか
 取り入れたい25(83.3)
 取り入れたくない0(0.0)
 取り入れたいができそうにない3(10.0)
 その他(既にある)2(6.7)
職業性アレルギー予防や悪化防止の健康教育を取り入れるか
 取り入れたい27(90.0)
 取り入れたくない0(0.0)
 取り入れたいができそうにない3(10.0)

5. 作業管理,作業環境管理についての認識(表4

指針案における作業管理の内容を理解できたと回答した者は56.7%,だいたい理解できたと回答した者は40.0%であった.作業管理を取り入れたいと思ったと回答した者は90.0%であった.取り入れたいと思ったができそうにないと回答した者は10.0%で,その理由は「全体周知と他職種も巻き込んだ取り組みが難しい,指導や教育はできるが個人管理が中心となる」などであった.取り入れたいと思わなかったと回答した者はいなかった.

作業環境管理の内容を理解できたと回答した者は53.3%,だいたい理解できたと回答した者は43.3%であった.作業環境管理を取り入れたいと回答した者は83.3%であった.取り入れたいと思ったができそうにないと回答した者は16.7%で,その理由は「全体周知と他職種も巻き込んだ取り組みが難しい,アレルゲンのモニタリングを実際に行うのは難しい,管理を誰がいつどのように行うか,局所換気装置の設置は難しそう,SDSリスクアセスメントを正しくできるのか」などであった.取り入れたいと思わなかったと回答した者はいなかった.

表4. 作業管理,作業環境管理についての認識
(n = 30)
項目(%)
作業管理についての理解
 理解できた17(56.7)
 だいたい理解できた12(40.0)
 あまり理解できなかった1(3.3)
作業管理について取り入れたいか
 取り入れたいと思った27(90.0)
 取り入れたいと思わなかった0(0.0)
 取り入れたいと思ったができそうにない3(10.0)
作業環境管理についての理解
 理解できた16(53.3)
 だいたい理解できた13(43.3)
 あまり理解できなかった0(0.0)
 無回答1(3.3)
作業環境管理について取り入れたいか
 取り入れたいと思った25(83.3)
 取り入れたいと思わなかった0(0.0)
 取り入れたいと思ったができそうにない5(16.7)

6. 指針案についての意見(表5

16件の意見が得られた.意味・内容の類似するものをまとめた結果,指針案の内容に関する項目と職業性アレルギーの対策に関する項目に分類された.指針案の内容については「参考になる」「理解しやすい」の他,「読みにくい」という意見もあった.職業性アレルギーの対策については「必要なことである」「病院全体で取り組むべきである」にまとめられた.

表5. 指針案についての意見
カテゴリー(件)記述内容
指針案の内容について参考になる(4)・これほど網羅的にまとめられたものは今までになく大変参考になった.院内でも取り入れたい.
・職業性の喘息についてあまり認識していなかったので参考になった.
・自分も含め医療従事者も知らない人が多い.啓蒙活動が大切.
・看護師にとってこれを読むことはとても意義がある.
理解しやすい(2)・非常にわかりやすく具体例もあり理解しやすい.
・報告例があり説得力がある.
読みにくい(2)・全体に文字が続き読みにくい.
・図や絵を入れてパンフレット型にすると分かりやすい.
職業性アレルギーの対策について必要なことである(5)・職員の安全を守るために必要であると思う.
・対策が標準的になってくれればいいと思った.
・長期的に勤務するにためには対応が必要と思った.
・身近に職業性アレルギーのスタッフがいないため考えたこともなかったが,対策として必要なことだと思った.
・個人の問題としてとらえがちであり置き去りになっていた.医療職に切り離せないことだからこそ対応が求められていると受け止めた.
病院全体で取り組むべきである(3)・看護職だけでなく病院全体で取り組む内容と思った.
・看護職だけでなく病院職員の安全対策として必要なことと思った.
・職業性アレルギーの発症を組織として把握していきたい.

VII. 考察

今回,我々は「看護職の職業性アレルギーと一次予防のための健康管理指針案」を作成し,看護管理者を対象に,指針案の理解度や活用に関する認識を把握するための質問紙調査を行った.30人の回答による本調査の結果から,指針案の臨床での活用の可能性と課題について考察する.

まず,職業性アレルギーに関する理解度の結果から,本指針案は職業性アレルギーの基礎知識を提供し,看護職に多いアレルギー疾患について概ね理解可能な内容であったと考える.しかし,「看護職に多い職業性アレルギーの物質とそのメカニズムについて」については「だいたい理解できた」が「理解できた」を上回り,理解が十分とはいえなかった.本指針を有効に活用するためには,理解できなかった内容についてさらに調査を行うなどにより,理解度を高められる内容に洗練する必要がある.指針案についての意見には「報告例があり説得力がある.」や「身近に職業性アレルギーのスタッフがいないため考えたこともなかったが,対策として必要なことだと思った.」などがあり,指針案において職業性アレルギーの発症事例を文献引用により紹介したことは,職業性アレルギーが身近に起こりうるものとして認識するのに効果的であったと推測する.

今回は,看護管理者を対象とした調査であり,管理者以外の看護職の理解度については明らかではない.しかし,指針案において看護職に馴染みのない専門用語については用語の解説欄を設けて説明を加えているため,管理者以外の看護職においても理解度は同程度であろう.従って,本指針案は看護職が職業性アレルギーを認識し,知識を獲得するためのツールとして活用可能と考える.また,職業性アレルギー予防や悪化防止の健康教育を取り入れたいと回答した者は90.0%であった.本指針案を活用した健康教育の実施により,職業性アレルギーの一次予防として,看護職一人ひとりの適切なセルフケアにつながることが期待される.

職業性アレルギーに関する作業管理や作業環境管理の理解度は,理解できるが半数程度にとどまっており,高い理解度とはいえなかった.一方で,作業管理では90.0%,作業管理では83.3%が取り入れたいと回答していた.作業管理とは,アレルゲンによる環境汚染を防ぐ作業方法を決めることや,職員がアレルゲンのばく露を少なくするような防護具を使用することである.作業環境管理とは,環境中のアレルゲンのモニタリングを行い,職業性アレルギー発症の危険性がないかを管理することである.指針案においては,作業管理や作業環境管理における推奨事項や管理のポイントを示したことにより,臨床での管理方法がイメージ化され,取り入れたいという回答につながったものと考えられる.今後理解できない部分を明確にし,具体的な解説を加えることで,より臨床で活用できる指針の提供につながると考える.

作業管理で10.0%,作業環境管理で16.7%は取り入れたいができそうにないと回答しており,その理由は「全体周知と他職種も巻き込んだ取り組みが難しい」「アレルゲンのモニタリングを実際に行うのは難しい」「局所換気装置の設置はむずかしそう」などであった.看護の職場にあるアレルゲンは看護師だけではなく医師や薬剤師などの他の医療従事者の業務に起因して環境汚染につながる可能性もある.また,そのアレルゲンにばく露する者も看護職に限らない.環境モニタリングにより,これらの物質の種類や濃度,およびそれらの発生源を特定し,リスクを低減する管理措置を施すことが必要である32.このような管理体制を整えるには,組織全体での意識を高め,他職種を含め病院全体での理解と調整を図る必要があり,今後の課題と考えられた.

今回の調査にはいくつかの限界が考えられる.まず,回答者数は30人に限られたため,母集団を代表しているとは言い難い.また,63.3%が職業性アレルギーの発症を経験していたことから,対象は職業性アレルギーの対策に関して比較的関心の高い集団に偏っていた可能性があること,理解度を尋ねる質問が「理解できた・だいたい理解できた・あまり理解できなかった」の3肢択一であったため,選択肢の偏りから結果が実際よりも高い理解度を示している可能性があることが考えられる.今後は,本指針案を多くの看護職に活用してもらい,厳密な調査によって再評価することでさらに実用性の高い指針の作成を目指したい.

VIII. 結論

我々が作成した指針案は,職業性アレルギーや健康管理方法の知識の提供に役立ち,臨床で活用可能であると考えられた.指針案に示した対策方法を取り入れるには,他職種を含め病院全体での理解と調整を図る必要があることが示唆された.

謝辞

本研究にご協力いただきました看護管理者の皆様に心から感謝申し上げます.また,指針案を作成するにあたり,専門的なご助言を賜りました藤田医科大学ばんたね病院教授 矢上晶子先生(日本皮膚科学会皮膚科専門医,日本アレルギー学会アレルギー専門医・指導医)に深く感謝申し上げます.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

資金提供:本研究はJSPS科研費JP18K10139により実施した.

文献
 
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