産業衛生学雑誌
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総説
トリクロロエチレンの職業病とそれを補完する基礎研究
那須(中島) 民江 伊藤 由起内藤 久雄上島 通浩
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2023 年 65 巻 4 号 p. 171-182

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抄録

目的:トリクロロエチレン(TCE)による腸管嚢腫様気腫症(PCI)と過敏症症候群(HS)の病態とそれらを補完する毒性発現機序研究を俯瞰すること.対象と方法:既報の研究論文を中心にまとめた.結果:PCIは腸管壁内に気体が嚢腫様に膨隆する稀な疾患であり,続発性と原発性がある.1980年代の国内のPCI症例のうち前者にTCE使用者はおらず,後者の約71%に使用が認められ,原発性PCIにTCE曝露の関与が示された.しかし,発生機序は不明であった.TCEは薬物代謝酵素のCYP2E1によって代謝され,CYP2E1との中間体複合体が肝障害性に関与している.2000年に入って中国南部に集積していたHSはTCE曝露から平均約1か月で発症する,抗CYP2E1自己抗体とHLA-B*13:01多型が関与し,サイトカインの上昇やHHV6 の再活性化を伴う全身性皮膚-肝障害である.考察と結論:PCIとHSはそれぞれ日本と中国南部に集積したTCEによる職業病である.後者は免疫系の障害と遺伝子多型が介在していたが,前者への介在は不明である.

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