産業衛生学雑誌
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65 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
Issue Information
総説
  • 那須(中島) 民江, 伊藤 由起, 内藤 久雄, 上島 通浩
    原稿種別: 総説
    2023 年 65 巻 4 号 p. 171-182
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2023/05/19
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    目的:トリクロロエチレン(TCE)による腸管嚢腫様気腫症(PCI)と過敏症症候群(HS)の病態とそれらを補完する毒性発現機序研究を俯瞰すること.対象と方法:既報の研究論文を中心にまとめた.結果:PCIは腸管壁内に気体が嚢腫様に膨隆する稀な疾患であり,続発性と原発性がある.1980年代の国内のPCI症例のうち前者にTCE使用者はおらず,後者の約71%に使用が認められ,原発性PCIにTCE曝露の関与が示された.しかし,発生機序は不明であった.TCEは薬物代謝酵素のCYP2E1によって代謝され,CYP2E1との中間体複合体が肝障害性に関与している.2000年に入って中国南部に集積していたHSはTCE曝露から平均約1か月で発症する,抗CYP2E1自己抗体とHLA-B*13:01多型が関与し,サイトカインの上昇やHHV6 の再活性化を伴う全身性皮膚-肝障害である.考察と結論:PCIとHSはそれぞれ日本と中国南部に集積したTCEによる職業病である.後者は免疫系の障害と遺伝子多型が介在していたが,前者への介在は不明である.

原著
  • 三橋 祐子, 荒木田 美香子, 錦戸 典子
    原稿種別: 原著
    2023 年 65 巻 4 号 p. 183-191
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2022/11/03
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    目的:地域・職域連携は,生涯を通じた効果的な健康づくりを推進するため,国としても推進している事業であるが,健康支援活動を展開する専門職を始めとした実践者レベルでの連携には至っていない現状がある.そこで,本研究は,産業看護職における地域保健との連携の実態と連携経験に関連する要因を明らかにし,産業看護職が地域・職域連携を推進していくための示唆を得ることを目的として実施した.対象と方法:(社)日本産業衛生学会の会員である産業看護職2,574名を対象とし,自記式質問紙調査を2017年に実施した.調査項目は,基本属性,連携の必要性の認識とその理由,連携経験の有無,および自己研鑽や学習経験等である.結果:分析対象者756名中,地域保健との連携経験者は34.0%,連携の必要性を感じている者は80.8%であった.また,連携経験の有無には,産業看護職としての通算経験年数,ガイドラインの閲読経験や地域保健主催の研修会や勉強会などへの参加経験,連携の必要性に関する認識が関連していた.考察と結論:地域保健との連携経験者は少なく,必要性を認識していない者もいたことから,産業看護職が地域保健との連携事例に触れる機会が乏しく,その必要性を見出しにくい可能性が考えられた.本研究により,ライフイベントによる学びを補強し,産業看護職が地域保健に関する情報を得られる仕組みをつくること,連携経験者が連携未経験者へ具体的な連携事例を通して伝える機会を設けることで,産業看護職が地域保健との連携を推進していける可能性が示唆された.

  • 谷 直道, 埴岡 隆, 樋口 善之, 太田 雅規, 倉冨 育美, 山本 良子, 赤津 順一
    原稿種別: 原著
    2023 年 65 巻 4 号 p. 192-202
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2022/12/29
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    目的:高齢者を対象とした先行研究では,咀嚼能力が低下することで食物繊維が豊富な食品や硬い食品を避け,柔らかい食品を摂取しやすくなることが報告されている.しかしながら,勤労者を対象とした咀嚼状態と食習慣に関するエビデンスは乏しい.従って,我々は勤労者の咀嚼状態と食習慣の関連性を明らかにするために歯科を含む健康診断(以下,健康診断)の結果を分析した.対象と方法:2018年4月から2019年3月までに健康診断を受診し,データに欠損がない18歳以上65歳未満の6,703名(45.6 ± 10.2歳)の勤労者を分析対象とした.特定健康診査の標準的な質問票における咀嚼状態の項目に対する回答に応じて,対象者を咀嚼状態良好または咀嚼状態不良に分類した.健康診断問診票の食習慣に関する質問への回答を目的変数とし,咀嚼状態を説明変数として,性別,年齢,現在歯数,歯周ポケットの深さ,口腔清掃状態,Body Mass Index,喫煙習慣,飲酒習慣,運動習慣,現病歴の有無,行動変容ステージで調整したロジスティック回帰分析を行った.また,性別と年代(40歳未満と以上)で層別化して同様のフレームワークを用いたサブグループ解析を行った.結果:食習慣の18項目のうち,「栄養のバランスを考えている」,「緑黄色野菜をよく食べる」,「ゆっくりよくかんで食べる」,「海藻類や小魚をよく食べる」,「食事を1日3回ほぼ決まった時間に食べる」,「朝食をほぼ毎日とる」,「毎食,たんぱく質食品を食べる」,「乳製品(牛乳,ヨーグルト,チーズ)をよく食べる」,「食事は就寝2時間前までに終わらせる」において咀嚼状態不良と有意な負の関連を認めた(p < .05).また,「ジュース・缶コーヒーを1日平均2本(2杯)以上飲む」,「こってりした肉料理をよく食べる」,「フライやトンカツなど油で揚げたものをよく食べる」,「インスタント食品や加工食品をよく食べる」,「洋・和菓子,スナック菓子を平均して1日2種類(個)以上食べる」,「塩辛いものをよく食べる」,「間食,夜食が習慣になっている」において咀嚼状態不良と有意な正の関連が認められた(p < .05).サブグループ解析の結果,40歳未満,以上の男女においても,得られた効果量の方向性はほぼ同様の傾向であった.考察と結論:本研究の結果,咀嚼状態が不良である者は年齢,性別にかかわらず望ましくない食習慣を有している可能性が示唆された.従って,職域歯科健診の拡大と,職域における全ての勤労者を対象とした歯科保健指導を含む保健指導の推進が必要であると考えられる.

  • 福田 沙織
    原稿種別: 原著
    2023 年 65 巻 4 号 p. 203-211
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2023/02/09
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    目的:疾病の早期発見のため健康診断の機会が設けられているが,特に職域での有所見者は半数以上いるにもかかわらず,多くが再検査(以下,二次検診)を受診していない.本研究では職域における健康診断後の二次検診に関して,Health Belief Modelを用いて受診行動に影響を及ぼす要因を明らかにすることで,二次検診受診行動を促すための効果的なアプローチ方法を検討する.対象と方法:予備調査にて,Health Belief Modelの構成要素に基づき5因子(25項目):「健康への過信」,「行動への後押し」,「再検査に対する負担感」,「病気になることの重大性」,「再検査への認識の甘さ」からなる質問紙を作成した.その後の本調査で,健康診断の結果再検査に該当したことのある労働者1,400名を対象にweb調査を行った.有効回答167件(有効回答率11.9%)を二次検診受診の有無に分け,基本属性の割合と質問紙の各因子得点について比較検討した.因子得点は1人の回答者につき構成因子ごとに合計点を算出した後,各構成因子の合計点を標準化し算出した.二次検診受診の有無で統計学的有意差を認めた基本属性と質問紙の構成因子を独立変数,二次検診受診の有無を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った.結果:受診あり群と受診なし群において,属性のうち,配偶者の有無とかかりつけ医の有無で有意差をみとめ,配偶者を有する者の方が二次検診を受診する割合が高く(p = .005),かかりつけ医を有する者の方が二次検診を受診する割合が高かった(p = .003).両群における因子得点の比較では「行動への後押し」と「再検査への認識の甘さ」で有意差をみとめ,「行動への後押し」については,受診あり群の得点の方が有意に高く(p = .024),「再検査への認識の甘さ」については,受診なし群の得点の方が有意に高かった(p < .001).ロジスティック回帰分析の結果,配偶者の有無,かかりつけ医の有無,「再検査への認識の甘さ」が有意な因子として選択された.考察と結論:職域健康診断において,配偶者の有無,かかりつけ医の有無,「再検査への認識の甘さ」が二次検診受診行動に直接的に影響を与えていることが明らかになった.二次検診受診行動を促すためには,身近な存在を意識した支援や,再検査への認識を高めるためのヘルスリテラシーの向上を念頭に置いた支援が求められる.

事例
調査報告
  • 赤松 友梨, 武藤 繁貴, 中村 美詠子, 尾島 俊之
    原稿種別: 調査報告
    2023 年 65 巻 4 号 p. 218-230
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/25
    [早期公開] 公開日: 2022/09/28
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    目的:コロナ禍における産業保健活動の実態に関する報告は,首都圏を中心とした産業医もしくは事業所を対象とした報告が多い.本研究は同時期に事業所と産業医双方に調査を行い,首都圏とは異なる感染状況下の地方都市における産業保健活動の実態や,新型コロナウィルス感染症(以下COVID-19)対策に関する産業医の助言/支援及び社員の感染状況等の情報共有に関する事業所と産業医両者の認識の違い等を明らかにし,今後の産業保健活動に資することを目的とした.対象と方法:静岡県中西部に位置する聖隷福祉事業団3施設が契約する事業所213箇所及び担当嘱託産業医42名を対象として,2021年7~10月に郵送によるアンケート調査を実施した.まず事業所に調査票(無記名)と本調査への協力及び担当産業医が同様の調査に協力することへの同意の有無を記載する記名式返信用葉書を計196通郵送した.担当産業医の調査協力に同意を得られた事業所の担当産業医36名に,事業所149箇所分の調査票(記名式)を郵送した.調査内容は,基本属性,コロナ禍の産業保健活動の変化,感染対策,社員の感染状況,自由記述の5項目である.結果:有効回答率は,事業所155通(79.1%),産業医29名より事業所124箇所分(83.2%)であった.業種は製造・加工業が,事業所規模は100人未満が最も多かった.事業所調査票では,産業医が衛生委員会にリモート参加したことがある事業所は8.4%に留まり,職場巡視中止をしたことがある事業所は14.5%であった.コロナ禍に,約90%の事業所が産業医から感染対策等で助言/支援を受けており,その場としては職場巡視が最も多かった.しかし,産業医からの助言/支援を事業所が最も有用だと感じる場は衛生委員会であった.多くの事業所が感染対策を行っていたが,産業医からの助言/支援では,COVID-19感染予防の啓発活動促進や換気方法,食事の際の感染対策を有用だと感じ,禁煙促進の実施は難しく感じるとの回答が多かった.感染状況について,産業医と話すことに抵抗がある事業所は6.6%だったが,事業所と情報を共有することに抵抗がある産業医は34.5%であった.社員の感染経験がある事業所は,事業所調査票では39.4%であったが,産業医調査票では28.2%に留まり,双方で情報共有に差があった.自由記述では,事業所の困っている/困ったことの記載が多かった.考察と結論:今回の調査で,首都圏とは感染状況の異なる地方都市におけるコロナ禍の産業保健活動の実態や課題,社員のCOVID-19感染状況の情報共有について産業医と事業所の認識が異なること等が明らかになった.事業所・産業医間の感染状況の情報共有については,今後も同様のパンデミック等が起きた時に備え,公的な機関や学会がある程度の指針を示す必要性があると考えられた.本報告より,COVID-19関連と従来の産業保健活動を併せた今後の産業保健活動の在り方を探る一助となることを期待したい.

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