2015 年 49 巻 1 号 p. 16-21
アルキルリン酸エステルは化粧品や洗浄剤の分野で古くから知られたマイルドな界面活性剤である。しかしながら現状では, 市場に提供されているアルキルリン酸エステルはモノエステル, ジエステル, トリエステルの混合物であることが多く, モノ体特有の性能が打ち消されていた。つまり, モノアルキル純度を高めた直鎖型モノアルキルリン酸エステルを用いることで, 今までにない特徴的な自己組織体を形成することが期待できる。そこで, われわれはモノアルキル純度を高めたアルキルリン酸エステル, 特に本報告では炭素数16のモノヘキサデシルリン酸を用いて, その水溶液物性や水中での会合挙動について詳細に検討した。その結果, 中和剤の種類によって水中への溶解挙動に差があることがわかり, 特にL-アルギニンを対イオンとした際に通常では不安定系であるαゲル相を非常に安定に保持できることが, DSC測定およびSAXS測定などより明らかになった。界面活性剤単独でαゲルを安定に構築するものは見出されておらず, 本報告でのモノヘキサデシルリン酸アルギニン中和物は非常に新しい自己組織体である。また, 水中で結晶化してしまう高級アルコールなどの極性油脂もモノヘキサデシルリン酸アルギニン中和物と混合することで, 水中に安定に保持できることも同時に明らかになった。