2023 年 57 巻 3 号 p. 224-233
ヒトの皮膚には目に見えない微生物叢が存在する。アトピー性皮膚炎ではStaphylococcus属が優勢となり皮膚細菌叢の乱れが炎症を悪化させることから,細菌叢の比率や多様性と皮膚状態との間に何らかの関係があると考えられてきた。一方で,健常肌では個人特有の細菌叢比率があり,恒常的でほとんど変化をしない。われわれは,細菌叢比率だけでなく,菌数の因子も肌状態に影響を与えているのではないかと考え,一般女性269名の頬部から細菌叢を採取し,抽出した細菌遺伝子のTu(tuf)geneをターゲットとしたqPCRにより皮膚単位面積あたりの総細菌数を算出した。同時に,従来型の細菌叢比率解析と,機器測定および目視評価を行って,菌数と肌状態との関係性を解析した。その結果,皮膚菌数が多い群では,有意に皮脂量が多く,毛穴数が多く,Texture countが高く,真皮が厚く,皮膚色の赤みが高いという結果が得られた。これらのことから,皮膚菌数の多さが肌状態に影響を与えている可能性が示唆された。このように,皮膚細菌叢と肌状態との関係性を知るうえで,細菌叢比率だけでなく,細菌数も重要な因子の1つであると考えられる。