日本化粧品技術者会誌
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57 巻, 3 号
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総説
  • 長谷川 登志夫
    2023 年 57 巻 3 号 p. 217-223
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル フリー

    人がにおいを感じるのは,においのもとであるにおい分子が存在するからである。そして,におい分子のさまざまな構造変化をにおい受容体がとらえることで,人は多様なにおいを区別している。におい受容体の種類は約400しかないのに,多様なにおいを感じることができる。さらに多くのにおい素材のにおいは多数のにおい成分から構成されている。では,どのようにして,素材のにおいは個々のにおい分子のにおいから作られているのか,その理由を知るには嗅覚特有の複雑な受容機構の理解が必要である。そして,受容体がにおい分子の構造のどんな変化をとらえているかについての知見もにおい受容機構の解明には必要である。代表的な香材である白檀や乳香などの香気特性の解析から,構造類似のにおい分子の共存が,素材の香気特徴の発現にとって重要であることが示された。さらに,サンタロールやアネトールなどのにおい分子の構造変換から,におい受容体がにおい分子のどのような構造を認識しているかについての知見も得られた。

原著
  • 太田 聖子, 鈴木 留佳, 青木 郁子, 坂田 修, 畑 毅
    2023 年 57 巻 3 号 p. 224-233
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル フリー

    ヒトの皮膚には目に見えない微生物叢が存在する。アトピー性皮膚炎ではStaphylococcus属が優勢となり皮膚細菌叢の乱れが炎症を悪化させることから,細菌叢の比率や多様性と皮膚状態との間に何らかの関係があると考えられてきた。一方で,健常肌では個人特有の細菌叢比率があり,恒常的でほとんど変化をしない。われわれは,細菌叢比率だけでなく,菌数の因子も肌状態に影響を与えているのではないかと考え,一般女性269名の頬部から細菌叢を採取し,抽出した細菌遺伝子のTu(tuf)geneをターゲットとしたqPCRにより皮膚単位面積あたりの総細菌数を算出した。同時に,従来型の細菌叢比率解析と,機器測定および目視評価を行って,菌数と肌状態との関係性を解析した。その結果,皮膚菌数が多い群では,有意に皮脂量が多く,毛穴数が多く,Texture countが高く,真皮が厚く,皮膚色の赤みが高いという結果が得られた。これらのことから,皮膚菌数の多さが肌状態に影響を与えている可能性が示唆された。このように,皮膚細菌叢と肌状態との関係性を知るうえで,細菌叢比率だけでなく,細菌数も重要な因子の1つであると考えられる。

  • 坂田 翔平, 三園 武士, 田中 佳祐, 栁 由紀
    2023 年 57 巻 3 号 p. 234-241
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,新しい透明シャンプーの処方設計を提案するものである。われわれはシャンプー希釈時に生じるコアセルベーションに着目し,コアセルベート中に多量のオイル成分を取り込ませる方法を考案した。はじめに,いくつかのアニオン界面活性剤を用いてオイル成分との相溶性や起泡性を評価した。開発されたシャンプーは多量のオイル成分を透明に配合でき,毛髪表面へのオイル成分の吸着量や毛髪表面の滑り性を向上させた。従来の透明シャンプーではオイル成分を多量に配合できず,それによる感触改良やコンディショニング性の付与は困難であったが,特徴的な構造を有するアニオン界面活性剤を配合することで,透明シャンプーの性能を高めることが示唆された。本研究の知見によって,新たな価値を提供でき,新しい透明シャンプーの創造の一助となることを期待している。

  • 栃岡 沙希, 齋藤 悠, 五十嵐 崇訓, 山澤 隆史, 芝野 友紀子, 半山 香穂里
    2023 年 57 巻 3 号 p. 242-250
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル フリー

    一般的にファンデーションを使用すると,カバー効果が得られると同時にマットで白浮きするといった不自然さを伴いやすく,カバー効果と仕上がりの自然さの両立は依然として課題である。この課題の主な要因は,肌と化粧塗膜の構造および光伝播特性の比較から,カバー効果付与のために配合された高屈折率の顔料の形成する塗膜表面の凹凸が光の多くを乱反射し,塗膜内部での顔料による光吸収を妨げることで,自然さとして重要なツヤと発色を損なうことであると考察した。これを解消し,カバー効果と自然さを両立するためには,化粧塗膜中の顔料の存在状態を制御し,顔料より屈折率の低いビヒクル内部に顔料を均一に保持した塗膜を形成することが有効である。そこで本研究では両親媒性ポリマーに着目し,併用する界面活性剤を最適化することで,W/Oエマルション中で強固なポリマーネットワーク構造を形成し,高い顔料保持能を発現させる技術を新たに構築した。塗膜解析および仕上がり評価の結果,本技術を用いた製剤が狙いとした特徴を有する塗膜を形成し,カバー効果とツヤ・白浮きのない発色を兼ね備えた自然で美しい仕上がりを実現することが確認された。

  • 上門 潤一郎, 豊田 洋介, 藤原 暢之, 小林 和樹, 鈴田 和之, 上甲 恭平
    2023 年 57 巻 3 号 p. 251-264
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル フリー

    ブリーチ顧客の毛髪は,洗髪時に絡みやすく,根元からうねって広がる現象が観察される。ブリーチ毛髪のうねり発生機構を明らかにするために,うねり現象の再現,ブリーチ毛髪の基本物性とうねり現象との因果関係,うねり部位の構造について検討を行った。ブリーチ毛髪は,未処理毛髪,カラー毛髪に比べ,ⅰ)毛髪表面は水が広がりやすく親水性が高くなっている,ⅱ)水による膨潤度が高い,ⅲ)水中の弾性率,強度は低く変形に対する回復性も低い(残留歪みが高い),ⅳ)乾燥状態での弾性率,強度は大差ないが変形に対する回復性は低い(残留歪みが高い),といった性質があることが確認された。ブリーチ毛髪の物性ⅰ),ⅱ),ⅲ)は洗髪水洗後に毛髪同士が曲がった状態で接着する絡まり現象を,ⅳ)は絡まりを解きながらドライヤーで乾かす過程で生じた変形が固定されるうねり現象を誘引する。ブリーチ毛髪のうねり現象は,ブリーチ毛髪を乾かす際,絡まった交差部分が移動しながら延伸されることにより,毛髪の非晶性中間径フィラメント結合タンパク質(IFAP)が圧縮され,その厚みが薄くなることが原因であることが明らかになった。

短報
  • 土井 康子, 小嶋 悠, 松本 善行, 樋口 智則
    2023 年 57 巻 3 号 p. 265-269
    発行日: 2023/09/20
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル フリー

    角栓は,毛穴の目立ちやザラつきだけでなく毛穴周りの黒ずみや肌のくすみにつながり,女性の肌悩みの上位に位置する。角栓除去を目的としたクレンジングオイルの連用試験で,ポリグリセリン脂肪酸エステル(PGFE)を配合したクレンジングオイルは,角栓を小さくし,毛穴周りの角層タンパク質のカルボニル化(CP化)レベルを低減させる効果が認められた。角栓は皮脂とケラチンが主成分のタンパク質から構成される物質であるため,本研究ではその構成成分の皮脂に注目し,クレンジングオイル中の界面活性剤の違いによる皮脂への作用を検討した。その結果,ポリエチレングリコール型界面活性剤(PEG)と比較し,PGFEは皮脂との相溶性が良好であり,さらに皮脂の融点を下げる効果が高いことが確認された。これらの結果より,PGFE配合クレンジングオイルによる角栓除去効果の作用機序として,皮脂との易相溶性と融点降下が関連すると考察した。

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