2025 年 59 巻 3 号 p. 155-161
近年,「クリーンビューティー」という概念は,健康意識,環境の持続可能性,企業の透明性に対する消費者の関心の高まりを背景に,化粧品業界において大きな注目を集めています。クリーンビューティーは,安全な成分の使用にとどまらず,倫理的な原料調達,環境に配慮した製造,サプライチェーン全体における情報開示を含む幅広い概念です。その一方で,この言葉には世界共通の明確な定義が存在せず,基準のばらつきやグリーンウォッシュの可能性が指摘されています。本稿では,クリーンビューティーの進化とその基本的な柱である「安全性」「倫理性」「環境責任」「透明性」について考察し,科学的根拠に基づく成分選定の課題,誤解を招きやすい“○○フリー”表記のリスク,代替成分の厳密な評価の必要性について考えていきます。企業の具体的な取り組みを紹介しながら,クリーンビューティーをマーケティングの目的ではなく,責任ある製品開発の「結果」として自然に達成されるべきものであるという考え方を提示します。そして,コストや規制の課題に業界全体で取り組むとともに,技術者自身が積極的に情報発信を行い,クリーンビューティーが一過性の流行ではなく,新たなスタンダードとなることを目指す必要性を主張します。