日本化粧品技術者会誌
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毛の発育制御機構解明における最近の進歩と育毛剤
板見 智
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1999 年 33 巻 3 号 p. 220-228

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抄録
胎生期に形成された毛包は生後一定の周期をもって成長と退縮を繰り返す。この毛周期の調節にはEGF, HGF, PTHrP, FGF5などの増殖因子が関与する。EGF, HGFシグナル伝達に関わる転写因子であるSTAT3を表皮と毛包に特異的に欠損させるコンディショナルノックアウトマウスでは, 胎生期における毛包形成と初回の休止期までは正常であるが, 第2毛周期へ移行できない。このマウスの表皮細胞はEGF, HGF刺激による増殖は正常であるが, 遊走が阻害されている。すなわちSTAT3を介するシグナルは胎生期における器官形成には関与しないが成長期の開始に必須であると考えられる。ヒトの毛周期に影響を与える男性ホルモンの標的細胞が毛乳頭細胞であることが明らかになっている。男性ホルモン受容体の発現は髭, 腋毛, 前頭部の毛乳頭細胞に認められる。髭と男性型脱毛の前頭部の毛乳頭細胞はII型の5α-リダクターゼのmRNAを発現しているが, 後頭部の毛乳頭細胞ではI型の5α-リダクターゼの発現しか認めず, 男性ホルモン受容体の発現も少ない。髭, 腋毛の毛乳頭細胞は共存培養条件下で男性ホルモン依存性に外毛根鞘細胞の増殖を促進する。この男性ホルモン依存性のparacrine growth factorがIGF-Iであることをわれわれは明らかにした。一方, 男性型脱毛のモデルであるベニガオザルの前頭部毛乳頭細胞は男性ホルモン依存性に外毛根鞘細胞の増殖を抑制するが, これがいかなる因子によるのかはいまだ不明である。最近本邦でも使用可能になったミノキシジルは毛乳頭細胞におけるPGHS-1を活性化する。産生されたPGは毛乳頭細胞のIGF-I分泌を刺激することで育毛作用を発揮すると考えられる。フィナステライドはII型の5α-リダクターゼの特異的阻害剤であり, 男性ホルモン作用を阻害することで男性型脱毛の抑制効果を示す。今後, 毛周期に関与する転写因子を調節する薬剤の開発が期待される。
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