日本化粧品技術者会誌
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化粧品の機能と感触の両立 分子レベルからのべたつき改善
工藤 大樹井柳 宏一吉沢 賢一大倉 さゆり中前 勝彦
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2006 年 40 巻 3 号 p. 195-200

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抄録

化粧品にとって保湿機能はとても重要であるが, 保湿機能を向上させるために保湿剤を高濃度配合するとべたつき感が強くなってしまい, 消費者に嫌われる感触となる。われわれは, 保湿剤によるべたつき感の原因は極性基の表面への露出であると考え, 「極性基の露出を防ぐ物質を共存させることで, べたつき感が抑制できる」という仮説のもとに, 課題の解決を試みた。保湿剤には優れた保湿効果を有するグリセリンを選択した。共存させる物質として既存物質を検討したが, 期待する効果の得られるものは見出せなかった。検討の結果, グリセリンの極性基の露出を効果的に抑制するには, ポリマーによる膜形成が有用であると判断し, グリセリンへの選択性の高いカスタムメイドポリマーである, polyglycolmethacrylate-2-hydroxyethylmethacrylate-fluoroalkylacrylate copolymer (ポリマーSR) を合成するに至った。ポリマーSRは, グリセリンの保湿効果を低下させることなく, 疎水的な膜を形成することで, 有意にべたつき感を抑制することができた。ポリマーSRのべたつき抑制メカニズムを解明するため, 溶液中におけるグリセリンとポリマーSRとの相互作用に関して, NMRおよび静的光散乱測定から解析を行った。その結果, ポリマーSRは肌上に塗布されると, 外側に疎水基を配向した構造をとって存在することが示唆された。官能評価の結果は, この疎水的な構造が皮膚上においても保たれていることを支持している。今回, われわれが保湿剤のべたつき感の抑制手段として確立した方法は, 対象とする機能と使用性を考慮して, 共存させる物質を設計することにより, 保湿剤以外への応用も期待され, 今後の化粧品開発に対して大きく役立つものと確信する。

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