抄録
本報は,PID制御で達成可能な制御性能の限界を示すとともに,最小分散制御をベンチマークとする制御性能評価指標をPID制御系に適用する際の問題点を明らかにすることを目的とする.設定値追従と外乱抑制とでは,PID制御によって達成可能なHarris indexが大きく異なるため,最小分散制御をベンチマークとする性能評価手法を利用する際には,結果の解釈に注意が必要である.外乱の影響が大きくなく,設定値変更が行われるPID制御系であれば,最小分散制御をベンチマークとする手法を適用しても問題ない.ただし,目標値は0.9程度とすべきである.なお,プロセスモデルが既知である,あるいは同定できるという前提をおけば,より厳密にPID制御の性能を評価できる.しかし,この場合,最小分散制御をベンチマークとする手法の簡便さは失われてしまう.実際,すべての制御ループにおいて同定実験を行うのは現場への負担が大きいため,簡便なPID制御性能評価手法の開発が望まれる.