2022 年 50 巻 1 号 p. 59-63
虚血発症の成人もやもや病に対し片側の血行再建術を行ったところ,手術側のみならず対側の脳血流不全も改善した1例を経験した.
37歳,男性.注意障害および一過性の左上肢しびれを主訴に受診した.頭部MRIで右大脳半球に散在性梗塞を認めた.脳血管撮影でもやもや病(右が鈴木分類1期,左が同3期)と診断し,右前大脳動脈から左側への前交通動脈を介した盗血を認めた.脳血流検査では,両側とも安静時脳血流は保たれていたが,脳循環予備能低下を認め,特に左半球の低下が顕著であった.脳梗塞発症後4カ月目に,左側の浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術およびencephalomyo synangiosisを行った.術後3カ月の脳血流検査では左大脳半球の血流改善を認めたが不十分であった.このため,右大脳半球に対する血行再建術を計画したが,齲歯が原因の全身性の炎症反応を併発したため手術を延期した.術後18カ月の脳血流検査では,左大脳半球のみならず右側も脳循環予備能が正常化し,脳血管撮影では右前大脳動脈から左側への盗血が減少していた.このため,右大脳半球への血行再建術は行わずに引き続き外来経過観察としている.