2023 年 51 巻 2 号 p. 145-149
中脳の片側病変により両側上方注視に限局する眼球運動障害をきたすことはまれである.また,脳血管内治療の合併症として同症状を呈したとする報告はみられない.貴重な症例と考え報告する.
患者は,44歳女性.最大径10.7mmの脳底動脈先端部動脈瘤に対してコイル塞栓術を受け,その直後から右眼裂狭小および眼位の異常を呈した.斜偏視に加え,両眼とも高度の上転障害を呈していた.その他に神経学的異常はみられなかった.MRIで中脳片側の微小梗塞が確認された.症状は2週間ほどで軽快した.
脳底動脈先端部動脈瘤に対するコイル塞栓術中の血栓性合併症として,中脳の片側に微小梗塞を起こし,両側上方注視に限局する眼球運動障害をきたした症例を経験した.血管内治療の合併症としてまれであり,また完全には明らかとなっていない上方注視のメカニズムに示唆を与え得る症例であった.