脳卒中の外科
Online ISSN : 1880-4683
Print ISSN : 0914-5508
ISSN-L : 0914-5508
51 巻, 2 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
原  著
  • 山田 茂樹, 伊藤 広貴, 石川 正恒, 山口 真, 山本 一夫, 野崎 和彦
    2023 年 51 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    出血性脳卒中後の続発性正常圧水頭症(sNPH)の発症機序はいまだ不明であり,4D flow MRIを用いた脳脊髄液(CSF)の動態観察を行った.

    対象は出血性脳卒中後にsNPHを併発した患者7人,sNPHを併発しなかった出血性脳卒中急性期患者8人,さらに同年代健常者9人とした.4D flow MRIと3D T2強調SPACEを撮像し,SYNAPSE VINCENTの4Dフローアプリを用いて,大孔部からMonro孔における一心拍中のCSFの反復移動量(SV)と逆流率,さらに中脳水道における振動剪断応力(OSS)と振動剪断指標(OSI)を算出し,3群間で比較した.

    sNPH群は出血性脳卒中群や健常群と比較して,Magendie孔と中脳水道下端におけるSVと逆流率,中脳水道上端とMonro孔におけるSVが有意に大きかった.中脳水道背側におけるOSSの振幅と最大値は,出血性脳卒中群が健常群よりも有意に大きかった.

    出血性脳卒中急性期の頭蓋内圧亢進によって脳のコンプライアンスが下がり,中脳水道を通過するCSFのSVが増加し,OSSの振幅が増大し,壁拡張をきたすと考えられた.

    出血性脳卒中群は健常群よりも中脳水道におけるOSSの振幅,最大値が大きく,さらに出血性脳卒中群よりもsNPH群のほうが脳室内のSVが大きく,中脳水道背側のOSSの振幅,最大値は大きい傾向にあった.

  • 小澤 常徳, 中川 忠, 森 宏, 藤井 幸彦
    2023 年 51 巻 2 号 p. 107-116
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    われわれの椎骨動脈(VA)解離に対する開頭術を提示した.体位はsemi-prone positionで,開頭終了まではベッド回転で腹臥位として頭側から後頭下減圧開頭に準じた開頭を行う.硬膜切開後semi-prone positionに戻して尾側からtrans-cerebellomedullary fissure approachを用いて見上げるように顕微鏡下手技を行う.解離遠位側VA確保が可能であれば,遠位の延髄穿通枝の確認をしてpin-pointにtrappingする.PICA-involved typeではPICA血行再建術を併用し,PICA近位部からの穿通枝確認を行ったうえで,PICA起始部のpin-point clippingを行う.連続7例(SAH 4例,解離増悪 3例)に開頭術を行い,trapping 4例中 2例で遠位側穿通枝を確認,PICA血行再建術併用 4例中 2例でPICA近位部からの穿通枝を確認し,いずれも温存した.後者は解剖学的によく知られた事実であるが,あらためて認識すべき知見と考えられた.基本的・標準的手技のみで行う開頭術での,下位脳神経障害を回避しつつ行う可及的trappingとともに確実な穿通枝温存を目指す工夫が有用と考えられた.

  • 佐々木 貴夫, 片山 耕輔, 奈良岡 征都, 嶋村 則人, 浅野 研一郎, 大熊 洋揮
    2023 年 51 巻 2 号 p. 117-123
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    重症くも膜下出血(SAH)の治療成績は不良であることが知られている.本研究では重症SAHの転帰向上に向け,その転帰規定因子を明らかにすることを目的に,後方視的に当科における症例を検討した.

    当科へ搬送された重症SAH 95例を対象とした.退院時mRS0-3を転帰良好群,同4-6を転帰不良群と定義し,患者背景,合併症,治療法などについて統計学的に比較検討した.さらに,動脈瘤処置症例,Grade IV症例,Grade V症例においてサブグループ解析も行った.

    95例中,転帰良好群は32例,転帰不良群は63例であった.転帰に関する多変量解析では,動脈瘤処置非施行,入院時Grade V,痙攣発作があることが転帰不良をもたらす有意な因子であった.動脈瘤処置を行った症例の検討では転帰不良をもたらす有意な因子は認めなかった.Grade IV症例の検討では動脈瘤処置非施行が転帰不良をもたらす有意な因子であった.また,Grade V症例において転帰良好例では入院時に対光反射を認めた例が多かった.

    重症SAHの転帰改善のためにGrade IV症例は可及的早期に動脈瘤処置を行うべきと考えられ,Grade V症例でも対光反射や意識レベルの経時的改善などの確認により脳幹機能障害が可逆的と判断された時点で,可及的早期に動脈瘤処置を行うべきと考えられた.

症  例
  • 坂本 周平, 鈴木 啓太, 山田 清文, 大川 将和, 吉田 和道, 宮本 享
    2023 年 51 巻 2 号 p. 124-128
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    carotid web(CW)とは内頚動脈起始部における内膜の棚状突出であり,近年,若年脳梗塞の塞栓源の1つとして注目を集めている.ここに,computed tomography angiography(CTA)によって初めて症候性CWであると診断し,carotid endarterectomy(CEA)を行い良好な経過を得た1例を報告する.

    症例は,40歳男性.一過性の左上肢の脱力・感覚障害を訴え,救急搬送された.MRIにて右前頭葉弁蓋部皮質に急性期脳梗塞を認めた.抗血栓療法を行いながらembolic stroke of undetermined source(ESUS)として塞栓源の検索を開始したが,十二誘導心電図などの検査で異常を認めなかった.頚動脈超音波では,頚動脈分岐部近傍の小さなプラーク形成を指摘されたのみであったが,後日行った頚部CTAにて右内頚動脈起始部にCWが確認された.CEAを行い,現在までの術後14カ月間に再発を認めていない.CW診断において,超音波検査のみでは,偽陰性が少なからず存在する可能性があり,特に若年ESUSの塞栓源検索における,頚部CTAの重要性が示唆された.

  • 土屋 拓郎, 金丸 英樹, 南平 麻衣, 清水 重利, 鈴木 秀謙
    2023 年 51 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    くも膜下出血(SAH)で発症後に自然閉塞したが,早期再開通をきたした破裂解離性椎骨動脈瘤に対し,血管内治療を行った症例を経験したので報告する.

    症例は,51歳の男性.SAH発症1時間後にCT血管撮影で解離性椎骨動脈瘤が原因と診断したが,発症2時間後の脳血管撮影時には自然閉塞していた.そのため,人工呼吸器管理下に鎮静,降圧を行い,連日CTを撮像し再出血がないことを確認した.第3病日に再度脳血管撮影を行い,再開通を認めたため同日引き続いて母血管閉塞術を行った.術後経過は良好で自宅に退院した.破裂解離性椎骨動脈瘤が発症直後に自然閉塞した際に保存的加療を行う場合には,早期再開通の可能性を念頭に慎重に画像評価を行う必要がある.

  • 穂刈 正昭, 澤谷 亮佑, 新保 大輔, 浅岡 克行, 内田 和希, 高田 達郎, 安喰 稔, 板本 孝治
    2023 年 51 巻 2 号 p. 135-138
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に脳内出血を伴うことはよく経験されるが,動脈瘤の遠隔部に脳内出血を併発することはまれである.今回,右内頚動脈-後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤破裂によるくも膜下出血と左側頭葉脳内出血を同時に発症した1例を経験したため報告する.

    症例は,73歳女性.頭痛と嘔吐,進行する意識障害を発症し搬送された.重度意識障害と瞳孔不同(右>左)を認め,頭部CTでびまん性のくも膜下出血と左脈絡裂と連続する左側頭葉の脳内出血を認めた.3D-CTAで3mm大の右IC-PC動脈瘤を認めたが,左側は内頚動脈に壁不整を認めるのみで明らかな動脈瘤を認めなかった.まず,左開頭を行って左内頚動脈の確認と左側頭葉の血腫除去を行ったが,動脈瘤は認めなかった.そのため,左側の閉頭後に右開頭を行い,右IC-PC動脈瘤が破裂瘤であることを確認してclippingを施行した.本症例の頭部単純CTは左内頚動脈瘤破裂を強く疑わせるものであったため,3D-CTA上は明らかな左内頚動脈瘤を認めなかったものの,左側からアプローチを先行したが,結果として脳内出血は動脈瘤と独立して発症したものであり,対側のアプローチが必要となった.くも膜下出血と同時に別の脳内出血を発症した症例は現在まで8例報告されているのみであり,本症例を加えてその機序について考察する.

  • 佐柳 太一, 林 拓郎, 田伏 将尚, 赤路 和則, 中村 芳樹
    2023 年 51 巻 2 号 p. 139-144
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻(cavernous sinus dural arteriovenous fistula:CS-dAVF)には血管内治療が第一選択とされ,多発転移性脳腫瘍(multiple brain metastasis:MBM)には全脳照射(whole brain radiation:WBR)および定位放射線照射(stereotactic radiotherapy:SRT)が有用とされている.放射線照射が経過に影響を与えた両者の合併例を経験したので報告する.

    症例は,78歳女性.当院受診1年前に乳がんと診断され,その後MRIにてMBMを指摘されていた.受診する数カ月前より続く複視,右眼球突出と充血を主訴に当科を受診し,頭部MRIで新たに右CS-dAVFを認めた.MBMに対してのWBR+SRTを先行し,転移巣の縮小を認めたため,dAVFに対する積極的な加療を検討することが可能となった.放射線療法後40日目に施行した脳血管撮影ではapproach routeの選択肢となる上眼静脈,浅側頭静脈がdrainerとなっていた.治療を予定した放射線治療後77日目にはfeederのflow減少に加え,drainerがいずれも消退傾向であった.右外転障害は増悪傾向であり,“paradoxical worsening”の状態と考えた.予定していたcavernous sinusまでのapproach routeを変更し,閉塞した錐体静脈洞経由での経静脈的塞栓術を施行した.術後,右眼球突出と充血は改善した.

    MBMとCS-dAVFの合併例はまれであるものの,MBMによるgrowth factorやestrogen,凝固能異常などがdAVF成因に関与した可能性がある.本症例ではCS-dAVFの血行動態変化は,MBMに対する放射線療法が関与している可能性がある.MBM,dAVFの合併例では治療とその順序を検討する余地がある.

    MBMとCS-dAVFのまれな合併例であるが,先行した放射線治療により硬膜動静脈瘻の血行動態が変化し得ると考えられた.

  • 笠倉 至言, 神山 信也, 飯星 智史, 塚越 瑛介
    2023 年 51 巻 2 号 p. 145-149
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    中脳の片側病変により両側上方注視に限局する眼球運動障害をきたすことはまれである.また,脳血管内治療の合併症として同症状を呈したとする報告はみられない.貴重な症例と考え報告する.

    患者は,44歳女性.最大径10.7mmの脳底動脈先端部動脈瘤に対してコイル塞栓術を受け,その直後から右眼裂狭小および眼位の異常を呈した.斜偏視に加え,両眼とも高度の上転障害を呈していた.その他に神経学的異常はみられなかった.MRIで中脳片側の微小梗塞が確認された.症状は2週間ほどで軽快した.

    脳底動脈先端部動脈瘤に対するコイル塞栓術中の血栓性合併症として,中脳の片側に微小梗塞を起こし,両側上方注視に限局する眼球運動障害をきたした症例を経験した.血管内治療の合併症としてまれであり,また完全には明らかとなっていない上方注視のメカニズムに示唆を与え得る症例であった.

  • 高野 裕樹, 阿部 圭市, 野村 誠, 米山 琢, 比嘉 隆, 川俣 貴一
    2023 年 51 巻 2 号 p. 150-154
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    症例は,65歳男性.意識障害で発症より1時間30分で搬送された.National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)36点,posterior circulation Alberta Stroke Program Early CT Score(pcASPECTS)8点であった.magnetic resonance angiography(MRA)にて脳底動脈閉塞を認めt-PA投与および血栓回収術を行い,再開通を得たが右椎骨動脈起始部に狭窄残存を認めた.内科的治療を開始しリハビリテーションを実施した.初回手術より5日後に意識レベル低下と右上下肢不全麻痺を認めた.血管撮影では椎骨動脈狭窄部の再閉塞を認めたため,緊急PTAを施行した.術後意識障害の改善を認め,翌日同部位に椎骨動脈ステントを留置した.tandem lesionを伴う後方循環病変に対するantegrade approach,およびretrograde approachの優位性ははっきりしない.後方循環においては,側副血行路が乏しいことがたびたびある.後方循環においてretrograde approachによる迅速な再開通および椎骨動脈ステントは,有用な治療オプションとなり得る.

  • 森 尚昌, 上田 祐司, 原田 克己, 市川 靖充, 藤村 直子, 山下 武則, 藤本 和弘, 山本 学, 原田 有彦
    2023 年 51 巻 2 号 p. 155-160
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    症例は,65歳女性.突発した左背部の激痛のため救急搬送された.胸部単純CTにて脊髄腔内にくも膜下出血(SAH)を認め,造影CTでは左Th5椎体レベルに3mm大の異常血管影を得た.脊髄動脈撮影で同部位はradiculopial arteryにおけるisolated spinal aneurysm(ISA)と診断した.背部痛はプレガバリンが奏効し,降圧を主体とした保存的加療を2週間行ったが,再検した造影CTで動脈瘤は依然として描出されたため,第17病日に再破裂予防目的で外科的動脈瘤切除術を行い,病理学的に解離性動脈と診断した.術後経過は良好で神経脱落症状なく自宅退院した.ISAはまれな疾患であり病態は不明な点が多く,自然退縮の報告がある一方で再出血による死亡例も知られており,統一された治療指針はない.胸髄レベルのradiculopial arteryにおけるISA破裂例は,保存的加療にて自然治癒しない場合は外科的治療介入が有用なオプションになり得る.

  • 斉藤 克也, 野川 博嗣, 柴尾 俊輔, 冨田 栄幸
    2023 年 51 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    前脈絡叢動脈(anterior choroidal artery:AchoA)の起始部や灌流域に関する破格には複数のバリエーションがある.今回われわれはAchoAの起始部および灌流域の両者の破格をもち,その近傍に破裂動脈瘤が発生したというまれな症例を経験したため報告する.

    症例は,80歳女性.意識障害で発症し頭部CTで広範なくも膜下出血を認めた.CT angiographyでは内頚動脈-後交通動脈(posterior communicating artery:Pcom)分岐部に3mmの膨らみを認める以外は出血源として明らかな所見はなかった.脳血管撮影ではPcom近位部に3mmの小瘤を認めるとともに,Pcomと共通幹を形成する形で内頚動脈から起始する血管を認めた.画像解析すると,Pcomと共通幹を形成している血管はAchoAで,通常の灌流域に加えて後大脳動脈のanterior temporal branchに相当する領域も灌流しているものであった.治療はバルーン併用コイル塞栓術によってPcomとAchoAの両者を温存して動脈瘤を塞栓した.本例のように起始部と灌流域の両者の破格に合併した破裂動脈瘤の報告はきわめてまれである.われわれがAchoAに付随する脳血管障害を治療する際には合併症回避のため,破格を認識しておくことが大切である.AchoAは発生学的にPcomやPCAと密接な関係にあるため,あわせて読影することが肝要である.

  • 鈴木 陽祐, 野田 公寿茂, 安田 宗一郎, 岡田 泰明, 千田 大樹, 安田 貴哉, 喜古 一成, 宮崎 貴則, 三好 教生, 近藤 智正 ...
    2023 年 51 巻 2 号 p. 167-172
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    脳動脈瘤clipping術において,clip headによる穿通枝圧迫が問題となった2症例を経験した.

    clip headによる穿通枝圧迫は,閉創以降遅発性に発生することがあり,放置すれば予後が悪化する.症例1では術中のMEPモニタリングが,症例2では術後の神経所見の確認が有効であった.適切に対処することで予後が改善する可能性があり,今回の症例を踏まえ早期発見と再治療の方法について検討し,報告する.

手術手技
  • 田中 健太郎, 花川 一郎, 坂倉 悠哉, 難波 慶, 藤家 尚嗣, 大井田 知彌, 有屋田 健一, 長島 良, 堤 恭介, 土屋 掌, 中 ...
    2023 年 51 巻 2 号 p. 173-177
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/13
    ジャーナル フリー

    腹臥位で一期的に横静脈洞直接穿刺によるtransvenous embolization(TVE)を行った硬膜動静脈瘻を経験したので報告する.

    症例は,78歳女性.拍動性耳鳴と失調を主訴に精査した結果,皮質静脈逆流を伴う左横・S状静脈洞部硬膜動静脈瘻と診断した.大腿静脈経由によるTVEが困難であり,Prone Viewを用いて一期的に開頭,横静脈洞直接穿刺によるTVEを行い治癒が得られた.

    通常の塞栓術が困難なかぎられた適応ではあるが,Prone Viewを用いた直視下TVEは,比較的安全で有効な方法と思われた.

feedback
Top