脳卒中の外科
Online ISSN : 1880-4683
Print ISSN : 0914-5508
ISSN-L : 0914-5508
症  例
多発転移性脳腫瘍に対して放射線療法後にparadoxical worseningを呈した海綿静脈洞硬膜動静脈瘻の1例
佐柳 太一林 拓郎田伏 将尚赤路 和則中村 芳樹
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 51 巻 2 号 p. 139-144

詳細
抄録

海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻(cavernous sinus dural arteriovenous fistula:CS-dAVF)には血管内治療が第一選択とされ,多発転移性脳腫瘍(multiple brain metastasis:MBM)には全脳照射(whole brain radiation:WBR)および定位放射線照射(stereotactic radiotherapy:SRT)が有用とされている.放射線照射が経過に影響を与えた両者の合併例を経験したので報告する.

症例は,78歳女性.当院受診1年前に乳がんと診断され,その後MRIにてMBMを指摘されていた.受診する数カ月前より続く複視,右眼球突出と充血を主訴に当科を受診し,頭部MRIで新たに右CS-dAVFを認めた.MBMに対してのWBR+SRTを先行し,転移巣の縮小を認めたため,dAVFに対する積極的な加療を検討することが可能となった.放射線療法後40日目に施行した脳血管撮影ではapproach routeの選択肢となる上眼静脈,浅側頭静脈がdrainerとなっていた.治療を予定した放射線治療後77日目にはfeederのflow減少に加え,drainerがいずれも消退傾向であった.右外転障害は増悪傾向であり,“paradoxical worsening”の状態と考えた.予定していたcavernous sinusまでのapproach routeを変更し,閉塞した錐体静脈洞経由での経静脈的塞栓術を施行した.術後,右眼球突出と充血は改善した.

MBMとCS-dAVFの合併例はまれであるものの,MBMによるgrowth factorやestrogen,凝固能異常などがdAVF成因に関与した可能性がある.本症例ではCS-dAVFの血行動態変化は,MBMに対する放射線療法が関与している可能性がある.MBM,dAVFの合併例では治療とその順序を検討する余地がある.

MBMとCS-dAVFのまれな合併例であるが,先行した放射線治療により硬膜動静脈瘻の血行動態が変化し得ると考えられた.

著者関連情報
© 2023 一般社団法人 日本脳卒中の外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top