Second Language
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<第21回 日本第二言語習得学会 国際年次大会からの投稿>
第二言語日本語における指示詞「その」による定性標示の習得
久米 啓介ヘザー マーズデン
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2022 年 21 巻 p. 115-132

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抄録

本研究は, 第二言語(L2)日本語における指示詞「その」による定性(definiteness)標示の習得について調査する.「その」は, 直接的及び間接的(橋渡し的(bridging))前方照応関係が成立する(= anaphoric)文脈においては随意的に名詞の表す対象の定性を標示できるが, 非前方照応的な(non-anaphoric)文脈においてはそれができない.本研究では, これらの「その」の特性に関する知識について, 韓国語母語(L1)話者と英語L1話者という2つのL2日本語学習者集団を比較した.韓国語には「その」に対応する指示詞kuがあるが, 英語にはそのような語彙項目はない(英語の定冠詞theと指示詞thatは, 「その」と機能を一部しか共有していない).本研究では, これらの言語間の相違によって, 直接的な前方照応関係が成り立つ(以下, 「前方照応的」)文脈, 橋渡し前方照応的(以下, 「橋渡し的」)文脈, 及び非前方照応的文脈における「その」の習得に関して, 韓国語L1話者・英語L1話者間で差が出るのかを調査した.容認性判断実験の結果からは, (統制群として参加した)日本語L1話者が, 非前方照応的文脈では「その」の使用を不自然に感じ, また, 前方照応的文脈と橋渡し的文脈においては, 随意的であるにも関わらず, 「その」による明示的な定性標示を好むことがわかった.L2学習者に関しても, L1の別を問わず, 統制群と類似した傾向を示した.特に, 「その」と非照応的文脈との非互換性に関しては, 習得を示唆する頑健な証拠が得られた.しかし, 他の2文脈においては, L1話者のような知識を示唆するだけの証拠は見つからなかった.この文脈による習得度合いの差は, 形式と意味の対応づけ(form-meaning mapping)に関するインプットの質の違いによるものであると提案する.具体的には, 「その」の使用が随意的である前方照応的文脈と橋渡し的文脈においては, 「その」が一貫して不適切である非前方照応的文脈に比べ, 形式と意味の対応関係の透明性が低いことによるものであると論じる.

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© 2022 日本第二言語習得学会
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