Second Language
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21 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
PART I
寄稿「2021年J-SLA初夏の研修会」
  • 松村 昌紀
    2022 年21 巻 p. 7-22
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル フリー

    言語の知識を複雑適応的なシステムとして分析することは,その特性や発達過程に見られるさまざまな現象の理解を助けてくれる.その際,重要になることの1つは学習者の新たな言語経験の中で知識の構成要素が相互に影響を与え合い,システムが自律的に更新されていく可能性を視野に入れることである.言語知識の1つの側面が他の側面に及ぼす影響は第二言語習得分野の過去の研究のいくつかでも,それぞれの理論的基盤のもとで議論されてきた.それらの結果は必ずしも一貫していないが,発達における間接的な手がかりの働きや言語処理方略に関わるトレーニング効果の転移を報告した研究もある.それらを前提にすれば,言語学習可能性の議論における「証拠」の概念は実際に与えられる言語データの範囲以上のものへと拡張される必要がある.この論文では,特にネットワークを構成する複雑なシステムとしての多義語の語義ネットワークに言及しながらこの議論を発展させ,今後の研究の方向性を検討する.

  • 西本 有逸
    2022 年21 巻 p. 23-33
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は三つある,(1)ヴィゴツキー理論(媒介的発達理論・人格発達理論・情動発達理論)を明らかにすること,(2)ヴィゴツキーの外国語学習観を二つの労作から究明すること,(3)その外国語学習観から導出されるアップテイクの役割を重視した第二言語領有の概念発達モデルを提案することである.(1)ヴィゴツキー学の最前線はヴィゴツキーが三つの柱をうち立てたと仮定している.すなわち,人間の高次精神機能の媒介的発達理論,年齢期ごとの新形成物による人格発達理論,そしてスピノザ哲学から照射される一元論的情動発達理論である.(2)ヴィゴツキーの外国語学習観は外国語は上から下へと発達するというものである.上というメタファーは外国語学習は意識的な気づきと言語の意図的で自覚的な習熟で始まるという意味である.ヴィゴツキーの炯眼は意志と自覚とは科学的概念の門を通って発達する,とみていることである.最後に,(3)本論文は第二言語領有の概念形成モデルを提案する.当モデルは第二言語習得の計算言語学的モデルを模写しながらも,第二言語の知識ではなく概念の発達を重視しており,インテイクから連想されるアップテイクの役割を特徴としている.ヴィゴツキーは遥か彼方に人格の発達を見据えている.人格発達は概念の発達から自己意識が覚醒していく運動をその始源としているのである.

  • 戸出 朋子
    2022 年21 巻 p. 35-50
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル フリー

    近年,文法は言語使用から創発すると唱える用法基盤モデルの枠組みで第二言語習得研究を行う潮流がある.しかしながら,これまで行われてきた用法基盤と称する研究は研究課題や方法において様々で,何をもって用法基盤第二言語習得研究とみなすのかを見失いがちになる.このことを明確にするため,本稿ではまず用法基盤モデルの鍵概念のうち,頻度,事態の捉え方,社会的相互作用の中で共有される意味,慣習性の4つを取り上げて議論する.次に,代表的な用法基盤第二言語習得研究のいくつかを,頻度,捉え方,社会的相互作用の観点で論じ,各研究が用法基盤第二言語習得の多面性のうちほんの1~2側面に注目したものであることを示す.それに基づき本論は,用法基盤第二言語習得研究はまだ萌芽期にあると確認する.その上で,展望として,マルチリンガリズムの視座で研究を行い,第一言語を含む既存の言語資源と第二言語との接触を通して新しい事態の捉え方がどのように創発し慣習化されるかを研究することが課題であると主張する.結論として,用法基盤第二言語習得の多面性という問題に取り組むためには,超学際的アプローチが必要になると思われる.

  • ―第三要因の関与―
    横田 秀樹
    2022 年21 巻 p. 51-68
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル フリー

    生成文法は半世紀以上にわたり言語習得を分析するための主要なアプローチのひとつである.その理論的枠組みは時代とともに何度か大きな進展をしてきた.本稿は,言語設計の三要素(Chomsky, 2005)の中の第三要因の観点から,第二言語としてのWh疑問文の習得の先行研究のデータを見直すことで,理論上,問題となる点を指摘し,今後の第二言語習得研究が考えるべき方向性を探ることを目的とする.

PART II
研究論文 <国際年次大会からの投稿>
<第20回 日本第二言語習得学会 国際年次大会からの投稿>
  • ―複合語における連濁の音響的具現について―
    向井 真樹子, 五百藏 高浩
    2022 年21 巻 p. 71-87
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル フリー

    本研究は,イタリア語を第一言語とするとする日本語第二言語学習者の連濁の習得を分析するものである.イタリア語では歯茎摩擦音が有声音に先行する環境に生じている場合に有声音化し[z]として具現化される特性がある.本研究は,このイタリア語の特性が,イタリア語を第1言語とする日本語学習者の連濁の処理に対して影響するか否かという問いについて考究する.この目的のために,Levelt(1989)の発話モデルを仮定し, 歯茎摩擦音を含む4種類((1)実在語(語頭に無声歯茎摩擦音),(2)無意味語(語中に無声歯茎摩擦音),(3)無意味語(連濁適用),(4)実在語(連濁適用))の刺激語群を作成し,口頭で回答を求める実験を実施した.7人のイタリア人被験者と6人の日本人被験者から採取した録音データの持続時間の測定を行った結果,単独語である語基レベルで2群間に有意差が見られた.有声歯茎摩擦音/z/は単一の形態素内にある場合と第二要素の頭部にある場合との間で差は見られなかった.有声化されてできた[z]が無声音である/s/よりも短くなることが2群に共通する傾向であった.複合語の第二要素の頭部にある/z/についてL2学習者群は L1 日本語話者群と類似した傾向を示したが,被験者間の差が大きいことが観察された.これらの結果は, Levelt(1989)のモデルにおけるFormulatorからArticulatorの間でレキシコンとの情報の受け渡しの処理を行い発音器官の筋肉の駆動を指示するためのリソースの使用が習得のレベルに応じて変異しながら発達していくことを示唆していると考える.

<第21回 日本第二言語習得学会 国際年次大会からの投稿>
  • 新井 学
    2022 年21 巻 p. 89-113
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル フリー

    過去の研究によって,母国語話者は環境から得られる言語インプットの統計的特質に迅速に適応することが知られている.この適応による学習は,「予測エラー」と呼ばれる特定の言語情報に対する予測と実際のインプットとの差異に因るものだと考えられている.実際過去の研究によって,予測エラーに基づく学習が,第一言語習得および使用において重要な役割を担っていることが示されている.しかし,この学習モデルが第二言語習得においても有効であるかどうかは未だ明らかではない.本研究は,日本人英語学習者を対象として第二言語の学習における予測エラーの役割について検証を行った.一時的な構造的曖昧性を含む縮約関係節文と,非曖昧な非縮約関係節文の読みにおける眼球運動を測定した結果,構造の曖昧性に起因する予測エラーが第二言語習得において決定的な役割を担っていることが明らかになった.

  • 久米 啓介, ヘザー マーズデン
    2022 年21 巻 p. 115-132
    発行日: 2022/12/15
    公開日: 2023/02/25
    ジャーナル フリー

    本研究は, 第二言語(L2)日本語における指示詞「その」による定性(definiteness)標示の習得について調査する.「その」は, 直接的及び間接的(橋渡し的(bridging))前方照応関係が成立する(= anaphoric)文脈においては随意的に名詞の表す対象の定性を標示できるが, 非前方照応的な(non-anaphoric)文脈においてはそれができない.本研究では, これらの「その」の特性に関する知識について, 韓国語母語(L1)話者と英語L1話者という2つのL2日本語学習者集団を比較した.韓国語には「その」に対応する指示詞kuがあるが, 英語にはそのような語彙項目はない(英語の定冠詞theと指示詞thatは, 「その」と機能を一部しか共有していない).本研究では, これらの言語間の相違によって, 直接的な前方照応関係が成り立つ(以下, 「前方照応的」)文脈, 橋渡し前方照応的(以下, 「橋渡し的」)文脈, 及び非前方照応的文脈における「その」の習得に関して, 韓国語L1話者・英語L1話者間で差が出るのかを調査した.容認性判断実験の結果からは, (統制群として参加した)日本語L1話者が, 非前方照応的文脈では「その」の使用を不自然に感じ, また, 前方照応的文脈と橋渡し的文脈においては, 随意的であるにも関わらず, 「その」による明示的な定性標示を好むことがわかった.L2学習者に関しても, L1の別を問わず, 統制群と類似した傾向を示した.特に, 「その」と非照応的文脈との非互換性に関しては, 習得を示唆する頑健な証拠が得られた.しかし, 他の2文脈においては, L1話者のような知識を示唆するだけの証拠は見つからなかった.この文脈による習得度合いの差は, 形式と意味の対応づけ(form-meaning mapping)に関するインプットの質の違いによるものであると提案する.具体的には, 「その」の使用が随意的である前方照応的文脈と橋渡し的文脈においては, 「その」が一貫して不適切である非前方照応的文脈に比べ, 形式と意味の対応関係の透明性が低いことによるものであると論じる.

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