2022 年 21 巻 p. 7-22
言語の知識を複雑適応的なシステムとして分析することは,その特性や発達過程に見られるさまざまな現象の理解を助けてくれる.その際,重要になることの1つは学習者の新たな言語経験の中で知識の構成要素が相互に影響を与え合い,システムが自律的に更新されていく可能性を視野に入れることである.言語知識の1つの側面が他の側面に及ぼす影響は第二言語習得分野の過去の研究のいくつかでも,それぞれの理論的基盤のもとで議論されてきた.それらの結果は必ずしも一貫していないが,発達における間接的な手がかりの働きや言語処理方略に関わるトレーニング効果の転移を報告した研究もある.それらを前提にすれば,言語学習可能性の議論における「証拠」の概念は実際に与えられる言語データの範囲以上のものへと拡張される必要がある.この論文では,特にネットワークを構成する複雑なシステムとしての多義語の語義ネットワークに言及しながらこの議論を発展させ,今後の研究の方向性を検討する.