2024 年 23 巻 p. 177-192
VanPattenは, インプット処理ストラテジーが文解析能力が発達途上にある学習者に使用された場合, 誤った意味理解につながる可能性を指摘している (VanPatten, 2007).本研究では, 日本語学習者が実際にこのインプット処理ストラテジーを使用しているかについて調査した.日本語教育において, 最も言及の多いインプット処理ストラテジーは「最初の名詞原理」である.そこで, 「最初の名詞原理」の使用が想定される行為授受文と形容詞比較構文を対象に, 日本語学習者の「最初の名詞原理」の使用状況について調査した.調査では, タイ語を母語とする日本語学習者に実施した日本語文の意味理解テストの結果を分析し, その結果, 「最初の名詞原理」は使用されないことがわかった.そこで, 学習者が使用する日本語教科書が提示する文型を分析したところ, 学習者が日本語教科書によるインプットから意味理解ストラテジーを生成, 強化する可能性が示唆された.また, 意味理解に母語の文法構造が影響することが推察されたが, 意味理解において, 母語の影響による誤りより, インプットから生成されたストラテジーによる誤りが日本語能力が向上しても改善されにくいことが明らかになった.