2024 年 23 巻 p. 151-175
本研究では, 東アジア言語母語 (L1) 話者がヨーロッパ言語を第二言語 (L2) または第三言語 (L3) として習得する場合に, 類型的近接性が及ぼす影響を検討する.具体的には, 英語をL2, スペイン語をL3とする日本語L1話者によるスペイン語の空目的語と, それに伴う素性の習得に着目した.スペイン語と日本語は共に空目的語を許容するが, その類型的近接性はスペイン語と英語の関係に比べてより遠い.スペイン語の接語は, 性別, 数, 人称が付与されているため, 英語には存在するが日本語には存在しないファイ素性であると仮定される.本研究における仮説は, (1) スペイン語の接語がgrammatical gender agreementの獲得に肯定的な証拠を提供し, (2) 空目的語の習得は接語の習得の前提条件となる, である.実験参加者はまず空目的語に焦点を当てた英語文法性判断課題と別途実施した英語試験の結果をもとにグループに分類され, その後, 主実験であるスペイン語の文法性判断課題に参加した.その結果, 目的語に関連する知識に関してL1とL2からL3へ与える影響は複雑であり, 学習者のL3の知識にL1の影響は確かに確認された.また, 参加者はL3スペイン語の接語の習得に困難さを示し, これは参加者のL2英語にはないGender featureがL3スペイン語の接語にあることに起因すると考えられた.本研究結果は, 先行研究で示唆されている習得順序, 類型上・統語上の近接性を支持するものではなく, 参加者のL1/L2にはないL3のファイ素性の過剰生成, 及びスペイン語の接語そのものに関してさらなる研究の必要性を強調するものであった.