Second Language
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拗音習得過程に見られる第一, 第二言語の音韻構造の影響
鶴谷 千春
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2004 年 3 巻 p. 27-47

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抄録

本研究は日本語の第一、第二言語習得過程において、母語の音韻構造がどう作用するかを拗音の習得に焦点をあて、考察するものである。日本語には拗音と呼ばれる口蓋化子音があるが、それを含む特殊モーラは、日本語がモーラ言語であるという制約のため、CVモーラと同じ時間長であることが要求される。しかし、英語を母語とする日本語学習者は、子音、母音の時間長の誤りに加え、口蓋化子音を類似の子音連続 “Cj” とみなし、その典型的な誤用である母音の挿入を行う例がよく見うけられる。 “Cj” 内の/j/が音韻的に子音と母音のどちらに属するかは、日本語また英語においても議論が揺れており、両言語話者の拗音習得のストラテジーはその解明の一端をになうものと考えられる。
“Cj” と口蓋化子音の音声学的な類似性を考慮して、子音連続の習得過程を参考に考察をすすめた。一般的に幼児は子音連続の発音のむずかしさを子音の一つを省略することによって避ける傾向がある。幼児が子音連続を簡略化する方法は様々な観点から考えられているが、ソノリティ (聞こえ度) が最もよく言及される要因だと言える。音節の初めでは、子音から母音への聞こえ度の上昇が最も高くなるように子音の省略が行われることから、 “Cj” の簡略化及びその他の誤りのパターンを音韻的構造と関係づけ、観察した。
結果は第一言語学習者 (日本人幼児) と第二言語学習者 (英語話者) の拗音の習得過程に明らかな相違が見られた。モーラ時間の制約のため、日本人幼児は母音挿入を行わないが、英語話者には母音挿入をはじめとするモーラ時間をこえた間違いがみられた。さらに、省略する子音の選択にも違いが見られ、両言語における/j/の音韻的位置を示唆する結果が得られた。また、日本人幼児は、拗音の発音にたけているという概念 (幼児語) は、破擦音/t∫/, 摩擦音/∫/の早期習得に負うものが多いことがわかった。

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© 日本第二言語習得学会
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