Second Language
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L2児童による日本語名詞句構造内での「ノ」の習得
白畑 知彦久野 美津子
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2005 年 4 巻 p. 29-50

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抄録

本稿は, 第二言語としての日本語の名詞句構造に関わる「ノ」の生成と過剰生成についてのメカニズムを調査したものである.被験児は中国語母語話者1名と英語母語話者2名で, 彼らから収集した縦断的発話データを分析したその結果「名詞句+ノ+名詞句」では最初期に「ノ」の脱落が観察され, 次に「ノ」が付与され始め, しばらく適格構造と不適格構造とが混在し, 最終的には適格構造のみとなった一方, 「形容詞句+名詞句」では最初期に「ノ」の付与のない発話が観察され, 後に「ノ」の過剰生成が適格構造とともに観察され, 最終的に「ノ」の過剰生成は消失した「ノ」が過剰生成された期間に中国語母語話者の場合が最も長かった以上のことから, 名詞句構造内における「ノ」の発達過程は, まず「ノ」を付与しない段階があり, 次に「ノ」を付与する段階がある.ただし, この段階にいる学習者は「形容詞句+名詞句」構造で「ノ」を過剰生成してしまう.この発達過程は母語 (L1) の場合と同一であり, 基本的には同じメカニズムが働いていると考えられる.名詞句構造の習得は「ノ」の付与規則を習得する過程でもあり, 本来修飾要素が名詞句の場合に用いる規則を, 形容詞句にも適用してしまうことが, 「ノ」の過剰生成の一因であろう.さらに, この過程には修飾要素の素性の習得も関与し, 素性を正しく把握していないことが, 「ノ」の脱落や過剰生成の一因となっている.そして, 「ノ」の付与規則習得に要する時間は, L1の特性によって影響を受け, その結果不適格構造が続く期間に差が生じると考える.

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© 日本第二言語習得学会
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