本稿の目的は,教育において主体を無意識のうちに何らかの方向へと向かわせる力を,ニクラス・ルーマンの社会システム理論を援用しながらシステムとして括り,その実態を見つめながら,実効的な教育の方策を見出すことにある。そのためにまずルーマンの理論から活用可能なものを抽出する。さらに具体的な問題状況の例として,学習者の〈平凡なマシーン〉化を取り上げ,〈平凡なマシーン〉化に陥らないための授業の理論とそれに基づく実践を提案している。実践では〈平凡なマシーン〉化を警戒しつつ,教室に立ち上がるシステムの力をあえて活用し,コミュニケーションの誤解と創造の連鎖を生かす授業を提案した。実践後の考察では,授業に偶発的・偶有的に立ち上がる教師や学習者の制御下に収まらない事象の存在を認め,それと対等に向き合いながら,創発的に物事を成していく視点を持つことの重要性を指摘した。