物理探査
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論説
坑井取得データによる応力計測の実際-総合的検討の一部として
山本 晃司
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2007 年 60 巻 2 号 p. 113-129

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抄録
地殻応力は,地球科学,石油・天然ガスの開発,建設といった多くの分野の科学者・技術者に関心をもたれていて,様々な計測手法が研究されてきた。応力は,物性値と異なり遠隔的に知ることが難しい地下の状態に関する量であることから,直接原位置での計測が可能な坑井内で得られるデータの価値が特に高い。本論文では,坑内で行う試験方法及び検層で得られるデータに分けて,計測手法の原理,特性と課題について述べる。
坑内の試験法には,応力解放法と水圧破砕法があり,千メートルを越える深部の応力計測には主に水圧破砕法が用いられるが,近年の研究で圧力からの応力の解釈に誤認の可能性があることが知られてきたことについて説明する。検層による手法としては,ブレイクアウトと掘削時の引張りき裂を比抵抗坑壁イメージツールで分析する手法が多く用いられる。また,掘削中の坑内圧力を計測するPWDツールでの逸泥時圧力の分析,ダイポールのソニックツールによるせん断波スプリッティングが発生するときの速度の分散による応力異方性の評価について述べる。
このように各種手法が開発され精度と信頼性向上が図られているが,実際には単一の手法で応力テンソルの6成分を知る確実な方法は存在しない。そのため,応力度,特に最大水平応力の大きさは複数手法の組み合わせによって範囲を限定するというプロセスが必要である。また,各手法で得られたデータの多くは応力を直接計測したものではなく,応力によって生じた地層の変形・ひずみ,あるいは破壊から間接的に評価したものであるため,評価結果の信頼性を高めるためには岩石の力学的挙動を理解することが必要である。さらに点の情報であるで坑内での試験や,線の情報である検層の情報を三次元の空間に拡張していく上で,得られたデータの代表性の評価と,地質及び地層の力学的特性との関係を明らかにする必要がある。従って,地殻応力評価の信頼性向上には,単に個別の手法の精度向上だけでなく,坑井を取り巻く地層の特性・挙動と掘削作業プロセスの理解を含めた総合的な解釈が必要である。本論文では,地殻応力評価の主な課題と今後の展望について整理する。
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© 2007 社団法人 物理探査学会
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