物理探査
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論文
人工地震で見た富士火山の内部構造
筒井 智樹及川 純鍵山 恒臣富士火山人工地震構造探査グループ  
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2007 年 60 巻 2 号 p. 131-144

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抄録

2003年に富士火山を対象とする人工地震探査が行われた。人工地震探査は富士山を中心として89kmの測線上に5点の発破点と468点の観測点が設定された。本報文では2003年人工地震実験の波形記録に対して山体内部の地震波反射構造の解析には擬似反射記録法を用い,深部地震波反射構造の解析にはシングルフォールド反射断面を用いた結果について報告する。
富士火山の山体内部の擬似反射断面では,南あるいは南西に傾斜する明瞭な境界面が比較的高い標高に検出され,その下位には上下で反射位相のならびのパターンが異なる境界面も検出された。前者は古富士火山上面に対比される可能性が指摘され,後者は富士山の基盤面に対応する可能性が指摘される。基盤面は富士山東斜面の下では丹沢山地の西の延長部が山頂直下まで起伏をともなって連続する一方,南西麓では急速に海面下まで深くなる。それにともなって富士山の南西麓には堆積層が発達しており,堆積層の南西縁は富士川断層系で区切られる。
富士火山とその周辺の深部地震波反射構造は,富士山南西側地域,富士山山体直下地域,富士山北東側地域の3つに大別される。富士山北東側地域では数十キロにわたるほぼ水平で連続性の良い深部反射面が複数認められるが,富士山南西側地域では南西落ちに急傾斜する深部反射面が複数認められる。これらの深部反射面のいくつかはフィリピン海プレート上面もしくは内部の速度/密度境界に対比される可能性があり,富士火山はフィリピン海プレートの傾斜が変化する場所に立地している。また,富士山山体直下では狭い領域にさしわたし数キロメートルの反射面が複数出現し,その周囲とは明確に異なる地震波反射構造をしている点が注目される。特に山頂の北東3~6kmの深さ13kmおよび16km付近にみとめられる明瞭な反射面はこれまでの研究で指摘された低周波地震の震源域と一致し,火山性流体と関係している可能性が高いと考えられる。さらに,これより上位の反射面群は深さ16kmの反射面と富士山頂を結ぶ線上に並んでいる。
以上のように富士火山は深部から地表にいたるまで南西側に傾斜した構造をもち,深さ16km付近まで明瞭で特徴的な地震反射面が複数存在することが明らかになった。

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© 2007 社団法人 物理探査学会
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