2024 年 76 巻 2 号 p. 139-146
インスリンアナログは,血糖コントロールの改善を図るために開発されたが,インスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)への親和性が高いため,潜在的な発ガン性に関する懸念が指摘されている.アナログに導入された変異の発ガン性に対する影響は不明であり,アナログの使用に伴う癌のリスクを確定または除外することは難しい.本研究では,正準分子軌道法により,インスリンアナログの単体構造とIGF-1RのL1ドメインとの複合体構造の計算を行った.その結果,変異した残基がインスリンの電子構造を大きく変化させ,L1ドメインのAspL38との相互作用によって親和性が変化する可能性が示唆された.IGF-1RのL1ドメインとの相互作用に重要な役割を果たす残基が同定され,アナログの設計に役立つ情報が提供された.