生体模倣システムは,生体の組織や器官の機能的特徴を再現することを目的とした培養系であり,医薬品分野への応用を目的として,微小な培養エリアを有する培養チップを用いた培養系の開発が盛んに行われている.しかしながら,小スケールでのハイスループット化を実現するためには,マニュアル操作のみでは再現性の確保の観点からも課題が多い.そのため,培養チップの液体操作の自動化への期待が高まっている.本研究では,オープンソースツールを用いた液体分注システムを作製し,マイクロ流路への液体注入が可能であることを検証した.
新たなバイオマーカー分析に,血液の代替として間質液が注目されている.間質液採取では多孔質マイクロニードルによる手法があるが,従来は微小量採取にとどまっており,高度な分析のための間質液の大量採取は行われていない.従って,間質液の大量採取・貯蔵を可能とする,アレイと吸収材の一体型パッチの設計開発を目的とし,本稿では充填するPVA溶液量を除去したパッチの特性を評価した.結果として,PVA溶液の除去量と吸水量にやや正の相関があることが判明した.今後,より再現性のある作製を通して効率的な吸水性を実現していく.
癌の治療法の一つに光線力学治療という治療法がある。この治療法は光感受性物質を組織内に投与し、光を当てることによって癌細胞を死滅させるものだ。しかし皮膚癌では表皮のバリアにより、光感受性物質や光が癌組織まで届きにくい課題がある。そこでオプティカルマイクロニードルレンズアレイ(OMLA)を用いて、その光感受性物質と光源からの光を癌組織まで届けるデバイスを開発した。本稿では粘性のあるカルボキシメチルセルロースを用いてOMLAに光感受性物質を塗布し、その評価を行った。
タンパク質の折りたたみにおける構造安定性は,タンパク質分子のうち,機能的な分子の割合を規定する重要な特徴量である.しかし,その定量には手間と費用がかかるため,構造安定性の全容は明らかではない.本稿では,90万種類までのタンパク質のin vitroにおける構造安定性を一度の実験で定量する手法を紹介する.本手法により得られる大規模データは,構造安定性の理解と予測に役立つことが期待される.
抗生物質の使用量増加に伴う薬剤耐性菌の蔓延は,世界中で多くの犠牲者を出しており大きな社会課題となっている.抗菌ペプチドは耐性菌を生み出しにくい新たな抗菌薬の候補として注目を集めている.自然界では多くの生物種から1200種以上の抗菌ペプチドが発見され,これまでの研究によってその構造や抗菌メカニズムが明らかにされてきた.私たちの研究室では,これらの抗菌ペプチドを用いた新しい抗菌薬開発を目指している.この総説では,抗菌ペプチドの殺菌原理について,これまでの研究で分かっていることをまとめる.
インスリンアナログは,血糖コントロールの改善を図るために開発されたが,インスリン様成長因子-1受容体(IGF-1R)への親和性が高いため,潜在的な発ガン性に関する懸念が指摘されている.アナログに導入された変異の発ガン性に対する影響は不明であり,アナログの使用に伴う癌のリスクを確定または除外することは難しい.本研究では,正準分子軌道法により,インスリンアナログの単体構造とIGF-1RのL1ドメインとの複合体構造の計算を行った.その結果,変異した残基がインスリンの電子構造を大きく変化させ,L1ドメインのAspL38との相互作用によって親和性が変化する可能性が示唆された.IGF-1RのL1ドメインとの相互作用に重要な役割を果たす残基が同定され,アナログの設計に役立つ情報が提供された.
プリオン病は致命的な神経変性疾患であり,正常型プリオンタンパク質がミスフォールディングした異常型プリオンタンパク質の凝集体によって引き起こされる.1次構造が同じであるプリオンタンパク質において,正常型が異常型に構造変化する原因は未だ不明である.本研究では,ヒト正常型プリオンタンパク質と異常型プリオンタンパク質の正準分子軌道計算を行った.正常型と異常型の電子構造は大きく変わっており,単体では正常型が安定して存在することを確認した.異常型プリオンの電子状態計算結果から層形成の相互作用エネルギーを見積もった結果,異常型プリオンは安定して層構造を形成することが明らかとなり,アミロイド線維化が進行しやすくなることが示唆された.
生きた樹木で建築構造を構成させるには,単に形態を設えるのみならず,その力学的性質を評価して構造的性能を確保する必要がある.立木の剛性を得る準備として,伐採直後で生木に近い状態と考えられる比較的小径のユーカリ枝幹を対象にヤング係数Eの測定を行った.弾性波伝播速度により求めた値と三点曲げ試験により求めた値には比較的強い相関(r=0.71)が認められたため,前者を用いることで曲げ剛性を簡便かつ非破壊的に予測できることが分かった.ただ両者の値の隔たりは大きく,得られたヤング係数Eの表すところの評価には慎重さを要する.
Stanford大学のデジタル化された外邦図に緯度経度情報を付与してGISデータ化するために,緯度経度の値と,その値を付与するべき緯度経度点を自動で検知するプログラムをpythonで作成し,外邦図100枚に対して実行した.結果,緯度経度点は100枚の地図のうち80枚で4点ともに正しく検知された.また,緯度経度点周囲に記されている緯度経度値は,緯度で61%,経度で53%が正しく判読された.最終的に,緯度経度の値と緯度経度点双方が正しく検出されたのは,100枚の外邦図のうち40枚だった.