抄録
分子遺伝マーカーに基づく集団遺伝解析は、外来生物の起源推定、分散様式の解明、さらには遺伝的多様性の評価において有効である。また、外部形態だけで判定不能な隠蔽種の探索、侵入回数の推定、ならびに在来種との交雑の有無や遺伝子浸透の程度の把握が可能となる。これらの知見は、外来生物のリスク評価のみならず管理(生態系管理)に活用することも可能と思われる。一般に、外来生物の管理は、意図的導入の抑制、新たな侵入や分布拡大の防止などの「予防策」と定着した外来生物を間引いたり根絶したりするための「駆除策」の2つに分けられる。外来生物の起源や拡散様式、遺伝的多様性などの情報は、予防策を立案する上で有用な情報を提供すると考えられる。しかし、当面の大きな課題は、これらの学術的知見を直に反映させることができる外来生物管理体制を産・官・学やNPOが一体となって早急に作り上げることができるかどうかである。一方、駆除策への適用可能性としては、これまでに希少種の保全遺伝学的研究で得られた知見に基づき、隔離性の高い小集団を駆除単位として策定するとともに、駆除の効果を遺伝的ボトルネックの有無から判定する方法が有効であると考えられる。