日本生態学会誌
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特集4 高等植物の道管流・師管流の計測技術と生態学における研究展開
MEMS 技術を用いた超小型道管流センサ
越智 誠矢野 裕也寺尾 京平鈴木 孝明高尾 英邦小林 剛片岡 郁雄下川 房男
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2016 年 66 巻 2 号 p. 465-475

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抄録

陸上高等植物の体内における道管流の動態に関する評価向上には、従来、計測が困難であった小さな器官や組織を含む多点的な計測、かつ植物体への影響が極力小さく、リアルタイムで情報を取得可能な計測システムの構築等が不可欠である。このような状況を鑑み、著者らは、植物体内の水分・栄養物質動態を非破壊的に高解像度で追跡することが可能な道管流/師管流モリタリングシステムの確立を目指した研究開発を進めている。  本論文では、主に高木を対象とした道管流(樹液流)の代表的な計測方法の一つである熱消散法(heat dissipation method、ヒータ付き温度センサとリファレンス用の温度センサから構成されるグラニエセンサを用いる方法)をもとに、新たに超小型道管流センサを提案した。提案した超小型道管流センサの実現に向け、半導体微細加工技術を応用したMEMS技術(micro electro mechanical systems, MEMS)を駆使して、センサの主要な構成要素であるマイクロプローブ、温度センサ(pn接合ダイオード)、薄膜ヒ-タ等を凡そ5 mm角のSiチップ上に機能集積化したプロトタイプの製作に成功した。製作した超小型道管流センサのプローブの大きさは、プローブ径:約0.1 mm、プローブ長さ:約0.3 mmであり、従来のグラニエセンサに比べて1/10以下のサイズである。更に、マイクロシリンジポンプ、シリコンチューブ、マイクロ電子天秤等を組み合わせて簡易な疑似植物実験系を構成し、製作した超小型道管流センサのマイクロプローブ部を細径チューブ(直径1 mm)に挿入して流速(流量)測定に関する基本実験を行ない、その実験結果から、提案した超小型道管流センサを用いることにより、微少流速 (0〜150 μm/s)の測定が可能なことを明らかにした。これらの一連の実験結果から、MEMS技術を駆使して実現される超小型道管流センサは、植物体における器官・組織スケールでの道管流計測に資する可能性を示した。

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© 2016 一般社団法人 日本生態学会
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