抄録
自然環境保全のためには科学的に適正な予測と評価に基づいた価値判断と政策立案が欠かせないが、それは必ずしも容易でない。社会の意思決定は常に極めて多様な要素の総合的判断に基づくからである。そうした中で研究者らが、政策過程における非自然科学的要素に対し関心を放棄してしまうと、自然環境政策形成の可能性は狭められてしまう。本稿は、自然環境政策の形成過程への研究者の関わり方、そこで果たしうる役割や機能について試論するものである。事例として、熊本地域における地下水保全政策、とりわけ白川中流域水田湛水事業を取り上げ、その政策過程を記述するとともに、キングダンの「政策の窓モデル」を援用した考察を試みた。本モデルは、政策プロセスを問題・政治・政策という3つの異なる流れで捉え、政策形成をそれらの流れの合流とするものである。検討の結果、熊本地域の研究者らは3つの流れのすべてにおいて政策実現に向けて重要な役割を果たし、「政策企業家」として機能したと推察された。研究者は、自然や社会の状態評価のみを政策過程における自身の役割として捉えるのではなく、政策決定に向けて主体的な役割を果たす「政策企業家」として行動することで、政策形成への架橋となることができるであろう。