日本生態学会誌
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特集 動物の個性の理解とその生態学的可能性を求めて
集団内における動物の個性の生態学的な機能
風間 健太郎
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2020 年 70 巻 1 号 p. 45-53

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抄録

動物の個性についての研究は2000年代に入ってから盛んに行われている。しかしながら、集団生活する動物種において、個性が集団中の他個体にどのように影響し集団のパフォーマンス(採餌成功、探索行動の活発さ、対捕食者防衛の成否など)を変化させるのかはよくわかっていない。本稿では、はじめに、集団繁殖するウミネコの捕食者に対する攻撃性が、隣接個体の繁殖成績に及ぼす影響についての実証研究を紹介する。集団繁殖するウミネコは卵捕食者であるハシブトガラスに対して防衛行動をとるが、その防衛強度の個体変異は大きく、全体の3割ほどのオスのみがカラスに対して積極的に防衛し(攻撃的個体)、残りの個体はほとんど防衛しなかった(非攻撃的個体)。抱卵期において、攻撃的個体は積極的な対捕食者防衛によって自身の巣だけでなく隣接する巣の卵捕食率も低下させた。抱卵期においてカラスに対して攻撃的であった個体は、育雛期にはヒナ殺しのために縄張りに侵入してくる同種個体に対しても攻撃的な反応を見せた。対捕食者防衛と同様に、攻撃的個体は積極的な防衛により自身のヒナだけでなく隣接個体のヒナの生残率も上昇させた。ウミネコでは、集団内における攻撃的個体と非攻撃的個体の比率によって集団の平均的な繁殖成功度が変化することが示唆された。続いて、こうした集団におけるメンバーの個性の比率が集団レベルのパフォーマンスに及ぼす影響についての実証的な研究事例をレビューする。いくつかの研究は、集団レベルのパフォーマンスは、集団メンバーの個性の比率だけではなく、キーストーン個体と呼ばれる特定の個性を有する個体の存否によっても変化することを示した。これら個性の比率やキーストーン個体の存在は、集団あたりの採食成功率、交尾機会、あるいは微生物感染率を変化させ、個体群動態にも影響を及ぼすことが示唆されている。一方、集団メンバーの個性の比率がどのように維持または変化していくのかはほとんど明らかにされていない。集団に加入した個体の個性は、集団の特性に応じて可塑的に変化する可能性もある。集団と個性との相互関連性の理解のためには、今後さらなる実証的知見の蓄積が必要である。

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