日本生態学会誌
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特集 動物の個性の理解とその生態学的可能性を求めて
行動傾向の一貫した個体差と個体の発達変化の統合的理解に向けて
酒井 理
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2020 年 70 巻 1 号 p. 55-64

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抄録

近年の動物行動学では行動傾向の一貫した個体差に高い関心が注 がれ、幅広い分類群の動物種において個性の形成要因の探求や評 価手法の確立が進められてきた。しかしながら、発達的な観点が 当該分野の理解を複雑にしており、時間的に安定した個体差を扱 う「個性」と発達的な個体変化を扱う「発達可塑性」では互いに 概念の混乱を招いてきた。本稿では、発達的な観点が個性研究に おいてどのように扱われているかを俯瞰し、行動傾向の一貫した 個体差と個体の発達変化を統合的に扱う枠組みを紹介する。さら に、発達的な観点から個性を扱っている研究例を概観し、そこか ら見えてきた傾向や今後の展望について議論する。概念としては、 対象動物の生活史に基づいて一貫性を評価し、発達段階の変化し ない短期間における個性の存在と、重要な生活史イベントをまた ぐような長期間における個性の安定性とを区別することが重要で ある。また、発達的な観点から個性を扱うには、行動傾向の平均 値、個性の構造、個性の安定性の3点を意識することが有用となっ てくる。さらに、当該分野の文献調査から、様々な動物種におい て個性とその構造が発達段階をまたいで安定していないという傾 向が見受けられた。この結果は、個性は短期的には安定なものだ が長期的には不安定なものとして捉えることの重要性を提起する ものである。しかし現状では、個性の発達変遷や発達段階特異的 な構造に一般的な法則を見出すことが難しく、更なる知見の蓄積 と整理が必要である。

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© 2020 一般社団法人 日本生態学会
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