抄録
近年の動物行動学では行動傾向の一貫した個体差に高い関心が注
がれ、幅広い分類群の動物種において個性の形成要因の探求や評
価手法の確立が進められてきた。しかしながら、発達的な観点が
当該分野の理解を複雑にしており、時間的に安定した個体差を扱
う「個性」と発達的な個体変化を扱う「発達可塑性」では互いに
概念の混乱を招いてきた。本稿では、発達的な観点が個性研究に
おいてどのように扱われているかを俯瞰し、行動傾向の一貫した
個体差と個体の発達変化を統合的に扱う枠組みを紹介する。さら
に、発達的な観点から個性を扱っている研究例を概観し、そこか
ら見えてきた傾向や今後の展望について議論する。概念としては、
対象動物の生活史に基づいて一貫性を評価し、発達段階の変化し
ない短期間における個性の存在と、重要な生活史イベントをまた
ぐような長期間における個性の安定性とを区別することが重要で
ある。また、発達的な観点から個性を扱うには、行動傾向の平均
値、個性の構造、個性の安定性の3点を意識することが有用となっ
てくる。さらに、当該分野の文献調査から、様々な動物種におい
て個性とその構造が発達段階をまたいで安定していないという傾
向が見受けられた。この結果は、個性は短期的には安定なものだ
が長期的には不安定なものとして捉えることの重要性を提起する
ものである。しかし現状では、個性の発達変遷や発達段階特異的
な構造に一般的な法則を見出すことが難しく、更なる知見の蓄積
と整理が必要である。