日本生態学会誌
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70 巻 , 1 号
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巻頭言
原著
  • 青山 夕貴子, 吉村 正志, 小笠原 昌子, 諏訪部 真友子, エコノモ P. エヴァン
    2020 年 70 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
    ハワイにヒアリSolenopsis invictaが侵入・定着した場合の経済的損失額を推定した既存文献をもとに、沖縄県にヒアリが侵入・蔓延した場合の経済的損失額を推定した。試算は、行政による根絶や分布拡大防止のための積極的な対策が行われず、ヒアリは沖縄県の生息可能な地域全域に拡大したと仮定して行った。その結果、市民生活や農業、インフラ整備、ゴルフ・リゾート等の娯楽に係る損害と、行政による最小限の対策費用を足し合わせた直接的な経済的損失は、約192億4,800万円と算出された。またヒアリによって阻害される、地域住民および旅行者による野外活動の経済的価値は、約246億1,000万円と算出された。合計で、年間の損失額は約438億5,800万円と推定された。本試算結果は、ヒアリ対策の必要性や予算を検討するにあたって、その経済的インパクトを評価する重要性を示すものである。ただし、日米間の社会構造の違いなどのため評価しきれなかった部分も多く、日本におけるより正確な被害額の推定のためにはさらなる精査が必要である。
総説
  • 塩寺 さとみ, 伊藤 雅之, 甲山 治
    2020 年 70 巻 1 号 p. 15-29
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
    熱帯泥炭湿地林は東南アジア、中南米、アフリカの低緯度地域にみられる森林である。その内訳はインドネシアでもっとも多く、全体の47%を占める。定期的、もしくは季節的な冠水によって落葉落枝の分解が抑制されることにより、林床に厚く泥炭と呼ばれる未分解の有機物が蓄積されており、貧栄養かつ低pHという特徴で知られている。泥炭湿地林には固有種や希少種が多くみられると同時に、その過酷な環境に適応した特殊な構造や機能を持つ植物が多くみられる。また、種組成や種特性は泥炭の深さやピートドーム内の場所によって大きく異なる。泥炭は15 mの深さに達することもあるため、泥炭湿地林は巨大な炭素と水の貯蔵庫という意味でもこれまで重要な役割を果たしてきた。このように、泥炭湿地林は、気候条件・水文環境や、泥炭、水、植生のあいだの微妙なバランスの下、長い年月をかけて成立し維持されてきた。人為的な撹乱がこのバランスに与える影響は著しく、その意味で泥炭湿地林は他の生態系よりも脆弱であるといえる。  泥炭湿地林の環境は農業や様々な土地利用には不向きであるため、これまで長年の間、開発の手を免れてきた。しかし、東南アジア地域では、1980年代頃より泥炭湿地林の排水をともなう大規模な農地開発等により急速にその面積の減少や森林の劣化が進み、正常な生態系機能は急速に失われつつある。泥炭湿地林の排水によって開発が行われる際には、これまで維持されてきたバランスが大きくくずれ、泥炭の分解や地中火、人為火災延焼による大気中への温室効果ガスの放出やこれに付随する地盤沈下が生じる。さらに火災による煙害は地域社会のみならず近隣諸国にも影響を与える国際的な環境問題となっている。大規模な排水、および火災の被害を受けた泥炭湿地林ではその回復は非常に難しい。さらにインドネシアでは、土地開発と経済発展、土地所有権や移民問題など様々な問題が複雑に絡み合う状況が泥炭湿地林の保全や回復を一層困難にしている。そこで本稿では、東南アジア地域の熱帯泥炭湿地林に焦点を当て、人為的撹乱が泥炭湿地林に与える影響とその回復の可能性、そして泥炭湿地林の将来について議論する。
特集 動物の個性の理解とその生態学的可能性を求めて
  • 渥美 圭佑, 酒井 理, 風間 健太郎
    原稿種別: 巻頭言
    2020 年 70 巻 1 号 p. 31-32
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
  • 渥美 圭佑
    2020 年 70 巻 1 号 p. 33-44
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
    動物の個性研究は、従来の行動生態学でノイズとして扱われる傾向にあった動物行動の個体差に焦点を当て、その個体差がどのように形成され、繁殖や移動分散をはじめとした個体の生活史とどのような関係を持つのかを明らかにしてきた。従来の行動生態学が動物は常に最適に振舞うと仮定してきたのに対し、個性研究では動物の行動の可塑性には限界があると捉える。つまり、行動には時間的に一貫した個体差があり(動物の個性)、異なる行動形質の間に相関がある(行動シンドローム)としている。そして、行動可塑性の制限が生じる究極・至近要因や、その生態学的帰結を明らかにしようとしている。本稿ではまず、個性研究を特徴づける2つの概念である「動物の個性」と「行動シンドローム」を説明し、両者を定量的に評価する統計手法を紹介する。次に、個性が個体の生活史(繁殖・空間分布・意思決定・社会的関係)としばしば強い関係をもつが、相関の正負や強さは分類群・個性形質に応じて大きく異なることを、近年急速に増えてきた事例研究やメタ解析をもとに紹介する。そして、個性が個体群・群集スケールのプロセスにまで波及的に影響することを示した事例研究を紹介する。さらに、集団内に個性の多様性があることが個体群と群集にどのような波及効果をもたらしうるのか、想定されるシナリオを紹介する。最後に、個性研究の功績・問題点を指摘したうえで、個性研究が今後どのような発展を遂げうるのか、そして進化学・生態学の発展にどのように貢献しうるのかについて議論する。
  • 風間 健太郎
    2020 年 70 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
    動物の個性についての研究は2000年代に入ってから盛んに行われている。しかしながら、集団生活する動物種において、個性が集団中の他個体にどのように影響し集団のパフォーマンス(採餌成功、探索行動の活発さ、対捕食者防衛の成否など)を変化させるのかはよくわかっていない。本稿では、はじめに、集団繁殖するウミネコの捕食者に対する攻撃性が、隣接個体の繁殖成績に及ぼす影響についての実証研究を紹介する。集団繁殖するウミネコは卵捕食者であるハシブトガラスに対して防衛行動をとるが、その防衛強度の個体変異は大きく、全体の3割ほどのオスのみがカラスに対して積極的に防衛し(攻撃的個体)、残りの個体はほとんど防衛しなかった(非攻撃的個体)。抱卵期において、攻撃的個体は積極的な対捕食者防衛によって自身の巣だけでなく隣接する巣の卵捕食率も低下させた。抱卵期においてカラスに対して攻撃的であった個体は、育雛期にはヒナ殺しのために縄張りに侵入してくる同種個体に対しても攻撃的な反応を見せた。対捕食者防衛と同様に、攻撃的個体は積極的な防衛により自身のヒナだけでなく隣接個体のヒナの生残率も上昇させた。ウミネコでは、集団内における攻撃的個体と非攻撃的個体の比率によって集団の平均的な繁殖成功度が変化することが示唆された。続いて、こうした集団におけるメンバーの個性の比率が集団レベルのパフォーマンスに及ぼす影響についての実証的な研究事例をレビューする。いくつかの研究は、集団レベルのパフォーマンスは、集団メンバーの個性の比率だけではなく、キーストーン個体と呼ばれる特定の個性を有する個体の存否によっても変化することを示した。これら個性の比率やキーストーン個体の存在は、集団あたりの採食成功率、交尾機会、あるいは微生物感染率を変化させ、個体群動態にも影響を及ぼすことが示唆されている。一方、集団メンバーの個性の比率がどのように維持または変化していくのかはほとんど明らかにされていない。集団に加入した個体の個性は、集団の特性に応じて可塑的に変化する可能性もある。集団と個性との相互関連性の理解のためには、今後さらなる実証的知見の蓄積が必要である。
  • 酒井 理
    2020 年 70 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
    近年の動物行動学では行動傾向の一貫した個体差に高い関心が注 がれ、幅広い分類群の動物種において個性の形成要因の探求や評 価手法の確立が進められてきた。しかしながら、発達的な観点が 当該分野の理解を複雑にしており、時間的に安定した個体差を扱 う「個性」と発達的な個体変化を扱う「発達可塑性」では互いに 概念の混乱を招いてきた。本稿では、発達的な観点が個性研究に おいてどのように扱われているかを俯瞰し、行動傾向の一貫した 個体差と個体の発達変化を統合的に扱う枠組みを紹介する。さら に、発達的な観点から個性を扱っている研究例を概観し、そこか ら見えてきた傾向や今後の展望について議論する。概念としては、 対象動物の生活史に基づいて一貫性を評価し、発達段階の変化し ない短期間における個性の存在と、重要な生活史イベントをまた ぐような長期間における個性の安定性とを区別することが重要で ある。また、発達的な観点から個性を扱うには、行動傾向の平均 値、個性の構造、個性の安定性の3点を意識することが有用となっ てくる。さらに、当該分野の文献調査から、様々な動物種におい て個性とその構造が発達段階をまたいで安定していないという傾 向が見受けられた。この結果は、個性は短期的には安定なものだ が長期的には不安定なものとして捉えることの重要性を提起する ものである。しかし現状では、個性の発達変遷や発達段階特異的 な構造に一般的な法則を見出すことが難しく、更なる知見の蓄積 と整理が必要である。
  • 小泉 逸郎
    2020 年 70 巻 1 号 p. 66-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
学術情報特集 DNAメタバーコーディングによる野生動物の食性解析手法
  • 安藤 温子, 小村 健人, 向井 喜果, 安藤 正規, 井鷺 裕司
    2020 年 70 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
  • 安藤 温子, 安藤 正規, 井鷺 裕司
    2020 年 70 巻 1 号 p. 77-89
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
    DNAメタバーコーディングは、複数の生物由来のDNAが混在するサンプルについて、特定のDNA領域の塩基配列を次世代シーケンスによって大量並列的に解読し、データベースと照合することでサンプルに含まれる分類群を同定する手法である。糞のDNAメタバーコーディングによる食性研究は、対象種の詳細な食性を非侵襲的に評価する手法として注目されており、植食性動物については哺乳類を中心に研究が蓄積されつつある。本稿では、本手法に興味を持つ研究者に実践的な技術提供を行うことを目的とし、著者らが実際に行った分析手法を紹介する。本稿では農地で採食する水鳥と森林で採食するニホンジカ、カモシカを対象とし、糞のサンプリング、DNA抽出、糞を排泄した動物種の判別、次世シーケンサーを用いた食物DNAの塩基配列解読と分類群同定、食物の候補となる植物のデータベース作成までの各工程について、詳細なプロトコルを公表する。これらのプロトコルを多くの研究者に実践していただくことで、本手法の精度が向上し、多様な研究テーマに活用されることを期待したい。
  • 小村 健人, 向井 喜果, 安藤 温子, 井鷺 裕司
    2020 年 70 巻 1 号 p. 91-102
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
    動物食性動物の食性解析は、採餌行動の直接観察が困難な生物の基礎的な生態情報を探るための有効なツールとして、植物食性動物の場合と同様に脊椎動物を中心に近年研究が盛んである。植物食性動物を対象にした解析と大まかな解析手順は大きく異ならないが、植物食性動物の場合と比較して複数のマーカー領域を使用する場合が多く、さらに捕食者のDNA配列が被食者のものと似通っている場合がある。本来ターゲットではない捕食者のDNA領域が過剰に増幅することを防ぐためには、ブロッキングプライマーを使用することが有効である。本章ではミズナギドリ類とトキを対象にした研究を例に糞の採取、DNA抽出、ユニバーサルプライマーの選定、ブロッキングプライマーの設計、PCR、解読した塩基配列の分類群同定に関して解説した。
  • 安藤 温子, 小村 健人, 向井 喜果, 安藤 正規, 井鷺 裕司
    2020 年 70 巻 1 号 p. 103-104
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/21
    ジャーナル フリー
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