抄録
多数の市民の目による監視が外来生物の早期発見につながることから、外来種問題は市民科学が最も威力を発揮する分野のひとつであると考えられ、市民科学の貢献が期待されている。研究者や行政による外来種への対応が予算や時間など高いコストを要求するのに対して、研究者以外の市民による対応は多くの方々の力を借りられることから生物の分布域の把握や外来種の初期の検出に対して効力を発揮する手法として注目されている。筆者はこれまで、北海道を拠点に活動する市民や博物館関係者、国内の研究者らと共に、「外来ナメクジをめぐる市民と学者の会」という非営利団体を立ち上げ、代表の一人として外来生物をめぐる市民参加型の研究プロジェクトを推進してきた。具体的には、近年日本に侵入したばかりの外来種であるマダラコウラナメクジを対象に扱っており、1)市民や研究者、メディアをも巻き込んだ外来ナメクジの継続的な観測と駆除、2)市民と研究者の連名による専門的な学術雑誌や一般向けの科学雑誌などへの発表、3)博物館やボランティア団体と連携した市民向け観察会や講演会の実施とそれらを通した自然保護や科学リテラシーの普及と教育、の 3つを軸に活動を続けている。本稿ではまず、筆者の参画する市民科学のプロジェクトによる成果を紹介する。その上で、市民参加型のプロジェクトを企画・運営するにあたり筆者自身が心掛けている経営論について意見を述べる。未来の市民科学を成功に導く道標となることを期待したい。