日本生態学会誌
Online ISSN : 2424-127X
Print ISSN : 0021-5007
ISSN-L : 0021-5007
71 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 篠原 直登, 山道 真人
    2021 年71 巻2 号 p. 35-65
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル オープンアクセス
    単一の資源をめぐって競争する種は共存できない、という競争排除則に反して、野外の生態系では少数の資源を共有する多数の種が共存しているように見える。このパラドックスは、古くから群集生態学の中心的な問いであり続けてきた。近年になって、複数の多種共存メカニズムの効果を統一的に説明する考え方として、Peter Chessonが提唱した共存理論が注目を浴びている。この理論的枠組みでは、安定化効果(負の頻度依存性)と均一化効果(競争能力の差の減少)のバランスによって多種が共存するか決まるとされる。さらに侵入増殖率を分解することで、定常環境下で働くプロセス(資源分割や種ごとに異なる捕食者等)と、時空間的に変動する環境で働くプロセス(相対的非線形性・ストレージ効果)を統一的に捉え、それらの相対的な重要性を調べることができる。その数学的な複雑さにもかかわらず、Chessonの共存理論は大きな広がりを見せ、実証的な知見も蓄積されてきた。さらに近年では、他の群集生態学理論との関連性が明らかにされつつあり、群集生態学という研究分野を統合する理論として発展していく可能性がある。本稿では、なるべく多くの図を用いて変動環境における多種共存メカニズムを整理し、Chessonの共存理論の解説を試みるとともに、今後の群集生態学研究の方向性について議論する。
特集 市民科学のデザイン:市民参加型調査の多様性と経営論
  • 大野 ゆかり, 森井 悠太
    2021 年71 巻2 号 p. 65-70
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル オープンアクセス
    限られた研究費・労働力・調査時間の中で研究を行う研究者にとって、市民参加型調査は非常に魅力的な調査方法である。市民参加型調査には、広範囲で大量の生物観察データが得られる、得られたデータを使用して研究ができるといった、研究者にとってのたくさんのメリットがある。また、市民参加型調査は研究上の調査手法というだけではなく、研究のアウトリーチ活動になることや、市民の自然への関心を高めることができる、科学リテラシーの普及活動になるといった、研究者の社会貢献的な意味合いのメリットも、市民参加型調査から受け取ることができる。研究者(市民参加型調査の立案者)がこれらの市民参加型調査のメリットを十分に得て、目的を達成するためには、市民参加型調査の特徴を知り、適切なデザインをすることが必要である。海外における市民参加型調査の特徴を分析した研究によると、様々な市民参加型調査を主に、1.参加者が特定の少数で計画的に行うか/参加者が不特定多数で自由に行うか、2.参加者に求める調査の負担が大きいか/小さいか、の2つの軸で類別できるとされている。本特集ではさらに、3.調査対象の生物種が特定の少数か/不特定多数か、というもう1つの軸を加え、様々なデザインの市民参加型調査について紹介したい。東北大学の大野ゆかりが、不特定多数の参加者によって、簡便な調査方法を用いた、特定の生物群(ハナバチ類)を調査対象とする市民参加型調査について情報を提供する。京都大学の森井悠太が、たった1人の市民が多大な労力を払うことによってもたらされた、外来種・マダラコウラナメクジの調査データを基にした研究について情報を提供する。さらに、バイオーム(株)の藤木庄五郎博士は、不特定多数の参加者が簡便な調査方法で不特定多数の生物種を対象とする市民参加型調査について情報を提供する。最後に、東京大学の一方井祐子博士は、生態学に限らない様々な分野の市民参加型調査を俯瞰しつつ、市民科学(シチズンサイエンス)の可能性と課題を議論する。本特集では、研究者(市民参加型調査の立案者)が市民参加型調査のメリットを十分に得て、目的を達成するための適切なデザインの提示を目指す。本特集が読者らにとって、市民参加型調査の理想や、市民科学のもたらす未来について議論するきっかけとなることを期待したい。
  • 大野 ゆかり
    2021 年71 巻2 号 p. 71-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル フリー
    市民参加型調査のタイプは様々あり、その市民参加型調査の特徴によって、研究者(市民参加型調査の立案者)にとっての利点と欠点が存在する。市民参加型調査の特徴として、参加者と調査方法の負担と調査対象に注目しながら、著者が行っている市民参加型調査「花まるマルハナバチ国勢調査」の研究上の成功と著者の挫折、利点と欠点について、説明していきたい。花まるマルハナバチ国勢調査は、東北大学と山形大学の研究者が中心となって立ち上げた、市民参加型調査である。ウェブページやSNS、チラシなどで、マルハナバチの写真を撮影し、撮影日時や撮影場所の住所とともに写真をメールで送ってもらえるよう、市民に呼びかけている。そのため、この市民参加型調査は、参加者が不特定多数の市民で、調査方法の負担は比較的小?中程度と考えられる。また、調査対象はマルハナバチ類で、日本で生息している種は、外来種も含めて16種である。ただ、送られてくる写真は、ミツバチ類やクマバチ類、ハキリバチ類など、多くの一般的なハナバチ類が含まれている。本稿では、花まるマルハナバチ国勢調査を行ったことで気づいた、参加者が不特定多数であること、市民の調査方法の負担が比較的小さいことでの利点・欠点について、説明する。また、調査対象が特定の生物群(ハナバチ類)であることでの利点・欠点についても、説明する。著者は、この市民参加型調査が研究面で成功したのは、調査対象がハナバチ類であったのが大きいと考えている。また、花まるマルハナバチ国勢調査を続けていくうちに、欠点の克服方法がいくつか見つかったため、それら克服方法についても説明する。最後に、継続しやすい市民参加型調査の1つの形について、著者の意見を述べたい。
  • 森井 悠太
    2021 年71 巻2 号 p. 79-84
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル オープンアクセス
    多数の市民の目による監視が外来生物の早期発見につながることから、外来種問題は市民科学が最も威力を発揮する分野のひとつであると考えられ、市民科学の貢献が期待されている。研究者や行政による外来種への対応が予算や時間など高いコストを要求するのに対して、研究者以外の市民による対応は多くの方々の力を借りられることから生物の分布域の把握や外来種の初期の検出に対して効力を発揮する手法として注目されている。筆者はこれまで、北海道を拠点に活動する市民や博物館関係者、国内の研究者らと共に、「外来ナメクジをめぐる市民と学者の会」という非営利団体を立ち上げ、代表の一人として外来生物をめぐる市民参加型の研究プロジェクトを推進してきた。具体的には、近年日本に侵入したばかりの外来種であるマダラコウラナメクジを対象に扱っており、1)市民や研究者、メディアをも巻き込んだ外来ナメクジの継続的な観測と駆除、2)市民と研究者の連名による専門的な学術雑誌や一般向けの科学雑誌などへの発表、3)博物館やボランティア団体と連携した市民向け観察会や講演会の実施とそれらを通した自然保護や科学リテラシーの普及と教育、の 3つを軸に活動を続けている。本稿ではまず、筆者の参画する市民科学のプロジェクトによる成果を紹介する。その上で、市民参加型のプロジェクトを企画・運営するにあたり筆者自身が心掛けている経営論について意見を述べる。未来の市民科学を成功に導く道標となることを期待したい。
  • 藤木 庄五郎, 龍野 瑞甫
    2021 年71 巻2 号 p. 85-90
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル オープンアクセス
    現在、生物多様性の保全が世界的な課題となっている。筆者らは、実用的な生物多様性広域モニタリング手法の開発を目指し、市民が撮影した位置情報付きの生物画像を収集する取り組みを実施してきた。生物データ投稿機能とAI画像解析を組み合わせたアプリ「Biome(バイオーム)」を2019年4月に日本国内を対象に公開し、これまで(2020年6月25日時点)に2万種を超える生物の分布データが65万件以上投稿されたことを確認した。この成果は、モバイル端末を用いた市民参加型生物調査の有用性を示し、市民科学が網羅的な生物分布の広域モニタリングに活用できる可能性を示唆する。一方で、一般市民からデータを集める市民科学の性質上、データ精度において課題が残った。精度検証の結果、種レベルの誤同定率:9.0 - 10.6%、属レベルの誤同定率:6.6 - 7.1%、科レベルの誤同定率:3.8 - 3.9%、目レベルの誤同定率:2.1 - 2.2%であることが分かった。類似する取り組みと比較して特段低い精度ではないものの、改善の余地があるものと思われる。大量のデータを扱う市民科学において、実用性と精度を両立させるためには、データの精度向上を市民や専門家の労力に依存させるのではなく、システム自体が精度を担保するべきである。深層学習などの技術を活用し、生物の同定AIの開発を強化することが、データ精度を高め、市民科学や生物多様性モニタリングの今後の発展に大きく寄与するものと考える。
  • 一方井 祐子, 小野 英理, 榎戸 輝揚
    2021 年71 巻2 号 p. 91-97
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/17
    ジャーナル オープンアクセス
    シチズンサイエンスとは、研究者などの専門家と市民が協力して行う市民参加型の活動やプロジェクトを意味する。科学的な成果や地域課題を解決するための活動、研究者や市民が主体の活動など、その形態は多様である。近年では、Galaxy ZooやeBirdに代表されるように、デジタルツールを活用し、より多くの市民参加を可能にするオンライン・シチズンサイエンスが始まった。日本でも、生態学系のみならず様々な分野でオンライン・シチズンサイエンスが展開され、成果を出している。本稿では、国内外における事例を紹介しながら、現状の課題を整理し、今後の活用可能性を考える。
連載・博物館の生態学(33)
feedback
Top