日本生態学会誌
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特集 市民科学のデザイン:市民参加型調査の多様性と経営論
モバイル端末を用いた生物多様性モニタリング手法開発に向けた 市民科学の実践
藤木 庄五郎 龍野 瑞甫
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ジャーナル オープンアクセス

2021 年 71 巻 2 号 p. 85-90

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抄録

現在、生物多様性の保全が世界的な課題となっている。筆者らは、実用的な生物多様性広域モニタリング手法の開発を目指し、市民が撮影した位置情報付きの生物画像を収集する取り組みを実施してきた。生物データ投稿機能とAI画像解析を組み合わせたアプリ「Biome(バイオーム)」を2019年4月に日本国内を対象に公開し、これまで(2020年6月25日時点)に2万種を超える生物の分布データが65万件以上投稿されたことを確認した。この成果は、モバイル端末を用いた市民参加型生物調査の有用性を示し、市民科学が網羅的な生物分布の広域モニタリングに活用できる可能性を示唆する。一方で、一般市民からデータを集める市民科学の性質上、データ精度において課題が残った。精度検証の結果、種レベルの誤同定率:9.0 - 10.6%、属レベルの誤同定率:6.6 - 7.1%、科レベルの誤同定率:3.8 - 3.9%、目レベルの誤同定率:2.1 - 2.2%であることが分かった。類似する取り組みと比較して特段低い精度ではないものの、改善の余地があるものと思われる。大量のデータを扱う市民科学において、実用性と精度を両立させるためには、データの精度向上を市民や専門家の労力に依存させるのではなく、システム自体が精度を担保するべきである。深層学習などの技術を活用し、生物の同定AIの開発を強化することが、データ精度を高め、市民科学や生物多様性モニタリングの今後の発展に大きく寄与するものと考える。

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© 2021 一般社団法人 日本生態学会

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https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
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