コガネムシ上科には、オスが角や発達した大顎などの武器形質を頭部に持つ種が多く存在する。それらの中には長い前脚を持つ種が多く含まれる。このことから、頭部の武器と前脚は機能的に関連していることが推測されるが、二つの形質の機能に同時に着目した研究は少ない。本稿では、オスが1対の角と長い前脚という二つの誇張化形質を持つワリックツノハナムグリにおいて、オス間闘争におけるこれらの形質の機能について解説する。本種はタケの仲間の新芽に集まり、吸汁、配偶を行う。オスは交尾後にメスにマウントし、配偶者防衛を行うが、餌場での性比がオスに偏っており、防衛オスと単独オスとの間で頻繁に闘争が起こる。闘争行動を分析した結果、前脚は闘争の初期における儀式的行動で、角は闘争がエスカレートしたときの直接的な闘争でおもに使われることがわかった。また、大きな武器(あるいは大きな体)を持つオスほど、配偶者防衛、あるいは配偶者の乗っ取りに成功しやすかった。形態のアロメトリーの解析結果からも、角と前脚が性淘汰の産物であるという仮説が支持された。さらに、長い前脚が枝の上を歩く際に歩行速度を低下させるかを調べたが、体に対する前脚の長さと歩行速度の間に関係は見られなかった。相対的な前脚の長さは、相対的な中脚や後脚の長さと正の相関を示したことから、長い前脚を持つ個体は同時に長い中脚や後脚を持つことで、歩行の安定性を維持している可能性がある。