2025 年 75 巻 2 号 p. 141-151
雌雄の形質の違いは、性淘汰や性的対立など、同種他個体間の相互作用を反映するものとして捉えられてきた。しかし、形質に雌雄差がある種では、他種との関わりも性別により異なる可能性がある。またその結果、雌雄差が複数の種からなる群集構造に影響を及ぼすこともありうる。雌雄差は種内の現象、群集は種間の現象として、別々に研究される傾向があり、雌雄差と群集構造の関係についてはあまり実証されてこなかった。この関連を明らかにすべく花形質に雌雄差がみられる雌雄異株植物、ヒサカキEurya japonica Thunb.を対象に研究を行っている。本総説で紹介する研究は、ヒサカキの花を食害するソトシロオビナミシャクChloroclystis excisa Butlerの幼虫が雄花でしか見つからないことの発見から始まった。この発見を起点に、花の雌雄差が花食性昆虫や送粉性昆虫、花蜜内微生物に与える影響、昆虫や微生物が植物の繁殖成功に与える影響などを解明した。これら一連の研究から、ある一種の生物の雌雄差は多岐にわたる分類群から成る生物群集に影響を与え、また逆に、群集が雌雄差の進化に影響を与える可能性があることが示唆された。今後、様々な生物種を対象として、生物間相互作用網を介し雌雄差と群集がどのように関わりあっているのかを調べることで、群集形成過程や雌雄差の進化をより深く理解できると期待している。